2~白き王都の英雄王~

 時空干渉を行い、英雄を消そうとする者の存在……時空の精霊ランシッドが共にいるとはいえ、それはカカオ達が個人でどうにかできる問題ではなかった。

「けど王様に話してどうなるんだ?」

 王都の石畳を踏みながらカカオが訊ねると、ランシッドは真剣な面持ちで目を伏せる。

『恐らく、あれで終わる話じゃないだろう……歴史への干渉は世界に関わることだ。トランシュ……ランスロット王も英雄の一人だしね』

 敵の標的であり、中央大陸の王である彼には、少なくとも知って貰った方がいいだろうというのが生前は同じく王であったランシッドの考えだ。

『それにあの時はどうにか三人がかりで倒せた刺客も、次はどうなるかわからない』
「もっと強い奴に任せよう、ってか……」
『俺達が負けたら、取り返しがつかないからね』

 そこでカカオの表情が一瞬曇ったが、ほんとうに一瞬のことで、

「それよりなんだよそれ!?」

 メリーゼの肩にちょこんと乗る癖毛の毛玉……ランシッドの髪と同じ灰桜色の体毛でランシッドの声を発する小動物を思いっきり指差した。

『君達は基本的には俺の姿が見えないからね。かといって実体化すれば町中じゃ目立つし、新米精霊の俺にはちょっと負担が大きい。いわゆる省エネモードってやつ? 可愛いでしょ?』
「はあ……」

 得意気にぴょんぴょん跳ねる毛玉に、三人の微妙な視線が集まる。

 と、

「あれ? メリーゼ姉にクロ兄も、帰ってきてたんだ」

 カカオの背後、やや低い位置から声がかかり振り向くと、大きな箱を背負った小柄な少女が彼等を見上げていた。

「誰だ、こいつ?」
「むぅ、ボクを知らないとはさては田舎者だね?」

 常に眠そうなルビーの目、ところどころぴょんと跳ねたフロスティブルーの髪を後ろでひと括りにし、横には魔学道具らしき髪飾りをつけている。
 黄色を基調に水色のラインが入った半袖へそ出しとショートパンツ、左右で長さの違う手袋とブーツと個性的な出で立ちの少女はカカオの反応に顔をしかめた。

「魔学研究所の発明少女モカ・ロッシェ! 王都でこの名前を知らない人はいないよ!」
「発明の前に傍迷惑暴走がつくけどな」
「クロ兄ぃうるさい」

 溜め息まじりに補足したクローテの言葉で、カカオは少女がどういう人物かなんとなく察した。

「モカちゃんはデュランダル騎士団長の娘でランスロット王の姪、わたし達にとっては妹みたいな存在なんですよ」
「ああ、たまにじいちゃんから話を聞く……そっか、このチビがねぇ」
「チビってゆーな! ボクの成長ホルモンはまだ本気出してないだけ!」

 発明少女というからには、背中の箱……よく見ると怪しげな紐が数本ぶら下がっているそれもそういった類のものなのだろうか。
 訊いてみたいというカカオの好奇心に気付いたのだろうか、クローテは彼に目配せをすると静かに首を横に振った。
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