21~狙われたのは~
時空干渉によって二十年前に滅びたことにされようとしているカレンズ村を救うため、カカオ達が過去に向かっている頃。
カレンズ村から目と鼻の先にあるオアシスに戻って彼らを待つことになったクローテとガレの二人は、旅人が安全に休めるよう張られた結界の元である女神像の近くに腰を降ろした。
「やー、短い距離とはいえ二人旅はなかなか大変でござったなあ」
「まあ、いつもよりは手間取るが……お前が一人で大変になっていたんだろう」
ガレは肉弾戦メインの前衛、クローテは術を主に扱う後衛。
そうなれば後衛が術を唱えられるように前衛が敵を引き受けて詠唱の時間を稼ぐのが基本だが、ガレはそれ以上に張り切って暴れまわっていた。
「お陰でやりやすかったが……腕を出せ」
「にゃ?」
言われるままガレが反射で差し出した右腕に、クローテが治癒術をかける。
柔らかな光に包まれ、痛々しい傷がみるみる塞がっていったのを見て、赤銅色の猫目がぱちくりと瞬いた。
「おおっ、忘れてたでござる。かたじけない」
「忘れてたって、お前な……」
「それがし、タフガイでござるゆえ!」
えっへんと胸を張るガレの額を指先で強く弾くと、クローテはじとりと呆れ顔で睨む。
「ふぎゃっ!? なにするでござるー!」
「うるさい。いくら頑丈でも傷を受けたまま放置するな。毒でも喰らっていたらどうするつもりだ」
赤くなった額を押さえながらクローテの言葉を聞いていたガレが、僅かに驚いた。
「……クローテどのは優しいのでござるなあ」
「そんなの当たり前だろう。仲間なんだから」
「それがしもアングレーズどのも、まだ仲間として認められてないのかと思った」
すると今度はクローテがびっくりして目を見張る。
「なんで……」
「それがしはこれでも隠密を目指しているのでござるよ? あんな疑いの目と殺気を向けられて気付かぬ訳がござらぬ」
年齢の割に子供っぽく緊張感のない部分が目立つ猫耳の男は、そう言ってへらりと笑う。
「突然現れた未来の人間などすぐには受け入れられなくて当然ゆえ、仲間を守ろうと警戒するのも頷けるでござる」
だから、と続ける彼の瞳は真摯で、嘘のないように。
「あの夜、時空の精霊……ランシッドどのと話をして、それがし達がこの時代に来た“本当の経緯”も明かしてござる。クローテどのや皆にはまだ全ては話せぬが、少しだけなら」
「本当の経緯……」
オウム返しに呟いたクローテは、パスティヤージュで初めて会った彼らの言葉を思い出す。
「とりあえず“気付いたら迷い込んでいた”というのは嘘だな?」
「にゃはは、あれはバレバレでござったな。あとは……」
と、少しだけ打ち解け始めたところで。
「っく、ひっく、ふぇえ……」
「ん?」
幼い少女が大きな目に涙を溢れさせ、しゃくりあげながら歩いてくるのに気付き、二人はそちらを向いた。
「子供……迷子でござろうか?」
「村からも離れたこんな所で……?」
泣きながらゆっくりと二人に近寄る少女の顔は、両目を擦る手に遮られてよくわからなかった。
カレンズ村から目と鼻の先にあるオアシスに戻って彼らを待つことになったクローテとガレの二人は、旅人が安全に休めるよう張られた結界の元である女神像の近くに腰を降ろした。
「やー、短い距離とはいえ二人旅はなかなか大変でござったなあ」
「まあ、いつもよりは手間取るが……お前が一人で大変になっていたんだろう」
ガレは肉弾戦メインの前衛、クローテは術を主に扱う後衛。
そうなれば後衛が術を唱えられるように前衛が敵を引き受けて詠唱の時間を稼ぐのが基本だが、ガレはそれ以上に張り切って暴れまわっていた。
「お陰でやりやすかったが……腕を出せ」
「にゃ?」
言われるままガレが反射で差し出した右腕に、クローテが治癒術をかける。
柔らかな光に包まれ、痛々しい傷がみるみる塞がっていったのを見て、赤銅色の猫目がぱちくりと瞬いた。
「おおっ、忘れてたでござる。かたじけない」
「忘れてたって、お前な……」
「それがし、タフガイでござるゆえ!」
えっへんと胸を張るガレの額を指先で強く弾くと、クローテはじとりと呆れ顔で睨む。
「ふぎゃっ!? なにするでござるー!」
「うるさい。いくら頑丈でも傷を受けたまま放置するな。毒でも喰らっていたらどうするつもりだ」
赤くなった額を押さえながらクローテの言葉を聞いていたガレが、僅かに驚いた。
「……クローテどのは優しいのでござるなあ」
「そんなの当たり前だろう。仲間なんだから」
「それがしもアングレーズどのも、まだ仲間として認められてないのかと思った」
すると今度はクローテがびっくりして目を見張る。
「なんで……」
「それがしはこれでも隠密を目指しているのでござるよ? あんな疑いの目と殺気を向けられて気付かぬ訳がござらぬ」
年齢の割に子供っぽく緊張感のない部分が目立つ猫耳の男は、そう言ってへらりと笑う。
「突然現れた未来の人間などすぐには受け入れられなくて当然ゆえ、仲間を守ろうと警戒するのも頷けるでござる」
だから、と続ける彼の瞳は真摯で、嘘のないように。
「あの夜、時空の精霊……ランシッドどのと話をして、それがし達がこの時代に来た“本当の経緯”も明かしてござる。クローテどのや皆にはまだ全ては話せぬが、少しだけなら」
「本当の経緯……」
オウム返しに呟いたクローテは、パスティヤージュで初めて会った彼らの言葉を思い出す。
「とりあえず“気付いたら迷い込んでいた”というのは嘘だな?」
「にゃはは、あれはバレバレでござったな。あとは……」
と、少しだけ打ち解け始めたところで。
「っく、ひっく、ふぇえ……」
「ん?」
幼い少女が大きな目に涙を溢れさせ、しゃくりあげながら歩いてくるのに気付き、二人はそちらを向いた。
「子供……迷子でござろうか?」
「村からも離れたこんな所で……?」
泣きながらゆっくりと二人に近寄る少女の顔は、両目を擦る手に遮られてよくわからなかった。