20~消された村~

 カレンズ村を目指す街道の真ん中で突如騎士団を襲った不気味な化け物。
 尖った両腕を振り回し、問答無用で斬りつけてきたそいつは確かに強く、苦戦を強いられてはいるが、隊を率いる金髪の青年……フレス・ティシエールはその感触に妙な違和感をおぼえていた。

(これだけ斬りあって互いに大した手傷を負わず、まるでじゃれあっているみたいだ……どうして……?)

 相手の力量ならばこちらの一人や二人戦闘不能に追い込まれても不思議ではないし、こちらも逆に一撃くらいは与えてもいいはずだ。
 付かず離れず、深入りしないように加減しているような戦いぶりに、表情の読めないのっぺりした顔が妙に不気味に思えた。

 と、

「そいつは時間稼ぎをしてるんだ!」

 カレンズ村の方向から駆けてきた青年達の声で、一旦斬りあう手が止まる。
 見れば大男から神子姫らしき美女、奇妙な箱を背負った少女まで、見事にバラバラな構成の一行だが……

「時間、稼ぎ……?」
「ここであんたらの足が止まれば、カレンズ村は魔物に襲われて滅ぶ。そのためのこいつだ!」

 チッ、と化け物から舌打ちらしき声が漏れる。
 熊のような大男が斧を構え、本来なら穏やかそうなタレ目に激情の灯をともした。

「早く村へ向かえ!」
「ですが貴方がたは……!?」
「こっちは俺達でなんとかする。急げ!」

 通りすがりの旅人に戦わせる訳には、と戸惑うフレスに男はさらに続け、

「騎士には騎士の“守るべきもの”があんだろッ!」

 吠えるような声で、そう言い放った。

「はっ、はい! ありがとうございます……!」
「させるか!」

 去ろうとする騎士達を、化け物は当然阻止しようとするが、

「それはこちらの台詞です!」

 素早く割り込んだ少女の剣により、防がれる。
 フレス達が無事この場を離れていったのを確認すると、少女の肩に乗っていた手乗りサイズの小動物が灰桜の髪の青年へと姿を変え、降り立つ。

『カレンズ村はこの時代の騎士達の手で救われなきゃならないんだ』
「だから、そいつを邪魔する奴は……馬に蹴られて何とやらだ!」

 ココアブラウンの髪を獅子のように逆立てて、青年……カカオが戦鎚を握り締めた。

「あっちで待たせてるクローテのためにも、負ける訳にはいかねーんだよ!」

 その手には、友の想いを乗せて。
 青年の叫びが、この戦いの皮切りとなった。
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