~霧深き山脈の騎士~

「勝った……みたいね」
「本来はおとなしい種類の筈なんだが……」

 と、一息吐いたのも束の間、一行はある事に気付く。

「あ、道が……」

 先程魔物が降らせた岩が、デュー達が来た道を完全に塞いでしまっていた。
 これはちょっとやそっとでは取り除けないだろう。

 王都を目指していたデュー達はそれほど困らないが、問題は……

「……オグマ、向こうに家があるんじゃなかったのか?」
「あ、ああ……これでは帰れないな……」

 どうしたものかと肩を落とすオグマにイシェルナが駆け寄った。

「ねぇ色男さん、このまま一緒に王都まで行かない?」
「え……?」

 紫黒の瞳にじっと見つめられオグマは後退った。

「そうだな、もう一人増えるも二人増えるも同じだ。それにオグマがいれば心強い」
「……好きにしろ」

 元の姿に戻ったシュクルは半ば諦めた様子で尻尾を揺らしている。

「橋が直れば王都側から家に帰れるじゃろうしのぅ」
「橋が壊れた?……ああ、だから君達はこんな所まで……」
「じゃなきゃ普通は来ないわよ、こんな危険なとこ」

 イシェルナに言われてオグマはそうだな、と頷く。

「けどそんな所に住んどるなんぞ、実はお尋ね者とかかもしれんのぅ?」

 ミレニアの一言で一斉に注目が集まる。

「う……それは、その……」
「どうなんじゃ、んん?」

 ミレニアは何故かわきわきと怪しく指を動かしながらオグマに迫る。
 その様はまるで、

「悪代官と町娘ってとこかしら★」
「……なんだそれは」

 女性陣は楽しそうだがこのままでは危ない、とデューが再度オグマを助けようとしたその時。

「わ、私は、ただ……」
「「ただ?」」
「……人が、苦手なだけだ」

 ようやく絞り出した声は、恥ずかしさに語尾が消え入りそうで。

「ここに住むようになって、大概は自給自足でやっていけるから殆ど人に会わなくなって……」
「なるほど、だからさっきからビクビクしとったのか」
「戦っていた時は別人みたいだったがな」

 そんな人間がいきなりミレニアやイシェルナみたいなのに遭遇すれば戸惑うのも無理はない。
 気の毒な事だ、とデューは内心で合掌した。

「……これは」
「決まりじゃの♪」

 女子二人は互いに目配せをすると悪どい笑みを浮かべた。

 がしっ。

「え?」

 イシェルナはオグマの肩を、ミレニアは左手をそれぞれ掴んで捕獲する。

「色男がこんな所でひっそり暮らすなんて勿体ないわ、やっぱりあたし達と一緒に行きましょ♪」
「だ、だが、私は……」
「どうせ山を降りなきゃいかんのは同じじゃろ。ほれほれ、よいではないかよいではないか~☆」

 ぐいぐいと連れて行かれるオグマに、

「もう諦めた方がいい。こうなったらこいつらは止められない」
「デュー……」

 少年は静かに首を振った。

「……そう、か……これも何かの縁、か」

 オグマは自分の手を引っ張る少女に視線を移すと水浅葱の目を細める。

「……わかった。私はオグマ・ナパージュだ。改めてよろしく頼む。デューに、イシェルナ、シュクル……それにミレニア、だったか」

 と、それにイシェルナが首を傾げる。

「あら、あたし達自己紹介したかしらん?」
「今までで何度か名前を聞いたからな」
「むむ、そうじゃったかのー?」

 確かに、これまでの会話の中で彼等の名前は出てきている。
 だが、はっきりとそれを覚えている訳じゃないミレニアは納得がいかないようだった。

「オグマがそう言うんだからそうなんだろ、ミレニア。それより早くここを離れよう。もう崩れるのはごめんだ」
「それもそうじゃの」

 こうして一行は霧の山脈を抜けて行った。
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