おとなりの波佐間さん
お隣の波佐間さんが焼肉の食べ放題チケットをくれるというので、思い切って一緒に行こうと言ってみた。
チケットは二枚。二回に分けて行けばいいだろうとも言われたけれど、やっぱり誰かと一緒のほうが美味しいし、波佐間さんと行きたかったから。
まあ、調べれば簡単にわかるのに場所がわからないはちょっと苦しい言い訳だったと自分でも思う。
けれどもなんだかんだ来てくれたことに、申し訳なさを感じつつも、やっぱり嬉しくて。
「けど、それこそ友達とかにあげても良かったんじゃ?」
「……食べ放題に行きそうな友達が思い浮かばなかった、ってとこかな。それにまあ、遠くの友達より直接君のところ行った方が早いし」
「ああ、それもそうかぁ」
友達って作家仲間とかだったりするんだろうか……だとしたら、食べ放題とか行かないのも納得がいく。勝手なイメージだけど。
そんな訳で俺たちは焼肉屋のテーブルに向かい合って座り、運ばれてきたお肉をガッツリと……まあ、ガッツリいってるのは俺だけで、波佐間さんはうどんや野菜をちびちびいただいてるみたいだ。
なかば強引に連れて来ちゃったから楽しんでくれているか心配だったけど、俺がなにげなく発した言葉が妙にツボったらしく、しばらく肩を震わせて笑ってたりして。
なんだか妙に恥ずかしいけど、波佐間さんの笑顔が見られたならいいか、と思うことにした。
そして……
「きみは本当に美味しそうに食べるねえ」
「はえ?」
しばらくして、既に食べるのをほぼやめていた波佐間さんが、頬杖をつきながらこちらをじっと見ていた。
「一口がおっきくて、みるみるお肉が消えてく。それでいて作業的じゃない。見ていて気持ちの良い食べっぷりだ」
「へへ、よく言われます!」
俺を見つめる波佐間さんの顔はふにゃりと緩く、微笑ましいって感じで。
なんだか心を開いてくれているのを感じて、嬉しくなる。
「お肉美味しいですよ。せっかくの食べ放題だし、波佐間さんももう少し食べたら……」
「いやぁ、一枚二枚ならともかく一皿まるまる足すのは俺には多いからさぁ」
波佐間さんは困ったように視線を外し、指先で頬を掻いた。
「なるほど。そういうことなら……はいっ!」
俺はちょうど焼けた肉を箸でつまむと、波佐間さんに向かって差し出す。
一枚二枚なら食べられるっていうなら、俺の分を味見すればいいんだと。
「……」
「…………」
名案だと思ったのも束の間、俺は驚いて固まった波佐間さんの沈黙で己の過ちを知ることになる。
(や、やってしまったぁー!)
つい、いつものクセで!
箸を引っ込み損ねた姿勢のまま、とにかく事情を説明しなければと焦る頭はフル回転どころか空回りもいいところで。
「あっそのっこれはっ、俺甥っ子とか姪っ子がいて、よく世話してたからでっ」
「ふはっ、慌てすぎ。そうなんだ」
事実なのになんか苦しい言い訳を聞いて笑った波佐間さんはテーブルに身を乗り出し、俺の手を取って、自分の口まで箸を運び……
「ん。美味しい。たまにはこういうのもいいね」
「あ……」
た、食べた……波佐間さんが、俺の手から……
今度は俺が固まる番になっている間に焼肉は咀嚼され、飲み込まれる。
やや伏せられた目、ごくりと動く喉を見て、俺の喉も密かに鳴った。
「それにしても、色気もムードもあったもんじゃない『あーん』だねぇ」
「――っ!」
そういう貴方はどうしてそんなに色気たっぷりなんですかー!?
などと返せるわけもなく、俺は小さく「ソウデスネ……」と俯くだけだった。
顔が赤く、熱くなったのは、きっと鉄板の熱のせい。
チケットは二枚。二回に分けて行けばいいだろうとも言われたけれど、やっぱり誰かと一緒のほうが美味しいし、波佐間さんと行きたかったから。
まあ、調べれば簡単にわかるのに場所がわからないはちょっと苦しい言い訳だったと自分でも思う。
けれどもなんだかんだ来てくれたことに、申し訳なさを感じつつも、やっぱり嬉しくて。
「けど、それこそ友達とかにあげても良かったんじゃ?」
「……食べ放題に行きそうな友達が思い浮かばなかった、ってとこかな。それにまあ、遠くの友達より直接君のところ行った方が早いし」
「ああ、それもそうかぁ」
友達って作家仲間とかだったりするんだろうか……だとしたら、食べ放題とか行かないのも納得がいく。勝手なイメージだけど。
そんな訳で俺たちは焼肉屋のテーブルに向かい合って座り、運ばれてきたお肉をガッツリと……まあ、ガッツリいってるのは俺だけで、波佐間さんはうどんや野菜をちびちびいただいてるみたいだ。
なかば強引に連れて来ちゃったから楽しんでくれているか心配だったけど、俺がなにげなく発した言葉が妙にツボったらしく、しばらく肩を震わせて笑ってたりして。
なんだか妙に恥ずかしいけど、波佐間さんの笑顔が見られたならいいか、と思うことにした。
そして……
「きみは本当に美味しそうに食べるねえ」
「はえ?」
しばらくして、既に食べるのをほぼやめていた波佐間さんが、頬杖をつきながらこちらをじっと見ていた。
「一口がおっきくて、みるみるお肉が消えてく。それでいて作業的じゃない。見ていて気持ちの良い食べっぷりだ」
「へへ、よく言われます!」
俺を見つめる波佐間さんの顔はふにゃりと緩く、微笑ましいって感じで。
なんだか心を開いてくれているのを感じて、嬉しくなる。
「お肉美味しいですよ。せっかくの食べ放題だし、波佐間さんももう少し食べたら……」
「いやぁ、一枚二枚ならともかく一皿まるまる足すのは俺には多いからさぁ」
波佐間さんは困ったように視線を外し、指先で頬を掻いた。
「なるほど。そういうことなら……はいっ!」
俺はちょうど焼けた肉を箸でつまむと、波佐間さんに向かって差し出す。
一枚二枚なら食べられるっていうなら、俺の分を味見すればいいんだと。
「……」
「…………」
名案だと思ったのも束の間、俺は驚いて固まった波佐間さんの沈黙で己の過ちを知ることになる。
(や、やってしまったぁー!)
つい、いつものクセで!
箸を引っ込み損ねた姿勢のまま、とにかく事情を説明しなければと焦る頭はフル回転どころか空回りもいいところで。
「あっそのっこれはっ、俺甥っ子とか姪っ子がいて、よく世話してたからでっ」
「ふはっ、慌てすぎ。そうなんだ」
事実なのになんか苦しい言い訳を聞いて笑った波佐間さんはテーブルに身を乗り出し、俺の手を取って、自分の口まで箸を運び……
「ん。美味しい。たまにはこういうのもいいね」
「あ……」
た、食べた……波佐間さんが、俺の手から……
今度は俺が固まる番になっている間に焼肉は咀嚼され、飲み込まれる。
やや伏せられた目、ごくりと動く喉を見て、俺の喉も密かに鳴った。
「それにしても、色気もムードもあったもんじゃない『あーん』だねぇ」
「――っ!」
そういう貴方はどうしてそんなに色気たっぷりなんですかー!?
などと返せるわけもなく、俺は小さく「ソウデスネ……」と俯くだけだった。
顔が赤く、熱くなったのは、きっと鉄板の熱のせい。
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