おとなりの波佐間さん
ふらり立ち寄った商店街の福引で、なんと焼き肉の食べ放題チケットが当たってしまった。
とはいえこちとら元気にお肉をモリモリ食べるようなイメージから大きくかけ離れた……何なら対極にあると言ってもいい、引き篭もりの文字書きだ。
散らかった部屋のテーブルに突っ伏すと顔だけ上げ、もてあまし気味にぺらぺらと二枚のチケットを弄びながら、さてどうしたものかと思案する。
(焼肉とかもう何年も行ってないし……そもそも俺が行ってもなぁ)
そんなものが二枚も来たところで、宝の持ち腐れもいいところだ。
明らかに縁のない俺なんかのところじゃなくて、もっと喜ばれるところに当たるべきだったというのに……
(喜びそうな……よく食べそうなのは……お?)
いるじゃないか、すぐお隣に。
立派なガタイによく笑う大きな口。きっと彼ならこのチケットを有効活用してくれるだろうと立ち上がり、隣部屋のインターホンを鳴らしたのだが……
「波佐間さんは行かないんですか?」
「いや俺食べ放題とかいっぱい食えないし、お肉とか胃がもたれちゃうし」
「俺引っ越してきたばかりでこのお店どこにあるか知らないです……波佐間さぁん」
今はスマホという現代のスーパーアイテムでいかようにも調べられるでしょ、という反論は大男の情けない声音とウルウルお目々によって封じられてしまった。
と、いう訳で……
「いやぁ、久し振りだなぁ焼肉食べ放題!」
「なんで俺まで……」
チケットを渡してから数日後。俺は今、焼肉店のボックス席で陽太朗くんとふたりで向かい合って座っている。
「波佐間さんが貰ったチケットじゃないですか。二枚とも貰うのはさすがに心苦しいですし」
「……まぁいいや。んじゃ俺はテキトーに軽めのヤツで」
「俺はガッツリいきますよー!」
じゅうじゅうと肉が焼ける音とニオイが、なんとも食欲をそそる……そう。俺も肉が嫌いというワケではないのだ。
しばらくして運ばれてきた皿は、見事に陽太朗くんの方だけ真っ赤で、思わず吹き出してしまう。
「なんですか?」
「いやいや。ホントにガッツリひたすらお肉だねえ」
肉の種類にそんなに詳しくはないが、俺の方はあってもあっさりめの赤身が少々。脂身の多い肉なんてとてもじゃないが頼む気になれない。
だから俺の側にはサラダやスープ、うどんとあまり焼肉屋に来た感じがしないラインナップが並んでいる。
「波佐間さんの方はバラエティ豊かですよね」
「ワンクッション置かないとしんどくてねえ……まあ、最初くらいはお肉を味わっておこうか」
などと言いながら鉄板に肉を並べ、それぞれ焼き始める。
目の前で音を立てて焼けていく肉、弾ける油。それに伴いもたらされる香り。
「うーん、視覚と嗅覚と聴覚……いっぺんに訴えてくるねえ……」
「だから人は焼肉屋に行くんですね……」
「ふはっ」
あまりにも神妙な面持ちと真面目な声音でまじまじと陽太朗くんがそう言うものだから、俺はまたも盛大に吹き出した。
「ちょっ、それダメ、ツボる……くくっ」
「えっ、なんでですか!?」
普段なら絶対行かない焼肉屋の食べ放題。
馴染みのない場所で声をあげて笑ってしまったのも、ごはんが美味しく感じるのも、きっと彼がいるおかげなんだろう。そう思った。
とはいえこちとら元気にお肉をモリモリ食べるようなイメージから大きくかけ離れた……何なら対極にあると言ってもいい、引き篭もりの文字書きだ。
散らかった部屋のテーブルに突っ伏すと顔だけ上げ、もてあまし気味にぺらぺらと二枚のチケットを弄びながら、さてどうしたものかと思案する。
(焼肉とかもう何年も行ってないし……そもそも俺が行ってもなぁ)
そんなものが二枚も来たところで、宝の持ち腐れもいいところだ。
明らかに縁のない俺なんかのところじゃなくて、もっと喜ばれるところに当たるべきだったというのに……
(喜びそうな……よく食べそうなのは……お?)
いるじゃないか、すぐお隣に。
立派なガタイによく笑う大きな口。きっと彼ならこのチケットを有効活用してくれるだろうと立ち上がり、隣部屋のインターホンを鳴らしたのだが……
「波佐間さんは行かないんですか?」
「いや俺食べ放題とかいっぱい食えないし、お肉とか胃がもたれちゃうし」
「俺引っ越してきたばかりでこのお店どこにあるか知らないです……波佐間さぁん」
今はスマホという現代のスーパーアイテムでいかようにも調べられるでしょ、という反論は大男の情けない声音とウルウルお目々によって封じられてしまった。
と、いう訳で……
「いやぁ、久し振りだなぁ焼肉食べ放題!」
「なんで俺まで……」
チケットを渡してから数日後。俺は今、焼肉店のボックス席で陽太朗くんとふたりで向かい合って座っている。
「波佐間さんが貰ったチケットじゃないですか。二枚とも貰うのはさすがに心苦しいですし」
「……まぁいいや。んじゃ俺はテキトーに軽めのヤツで」
「俺はガッツリいきますよー!」
じゅうじゅうと肉が焼ける音とニオイが、なんとも食欲をそそる……そう。俺も肉が嫌いというワケではないのだ。
しばらくして運ばれてきた皿は、見事に陽太朗くんの方だけ真っ赤で、思わず吹き出してしまう。
「なんですか?」
「いやいや。ホントにガッツリひたすらお肉だねえ」
肉の種類にそんなに詳しくはないが、俺の方はあってもあっさりめの赤身が少々。脂身の多い肉なんてとてもじゃないが頼む気になれない。
だから俺の側にはサラダやスープ、うどんとあまり焼肉屋に来た感じがしないラインナップが並んでいる。
「波佐間さんの方はバラエティ豊かですよね」
「ワンクッション置かないとしんどくてねえ……まあ、最初くらいはお肉を味わっておこうか」
などと言いながら鉄板に肉を並べ、それぞれ焼き始める。
目の前で音を立てて焼けていく肉、弾ける油。それに伴いもたらされる香り。
「うーん、視覚と嗅覚と聴覚……いっぺんに訴えてくるねえ……」
「だから人は焼肉屋に行くんですね……」
「ふはっ」
あまりにも神妙な面持ちと真面目な声音でまじまじと陽太朗くんがそう言うものだから、俺はまたも盛大に吹き出した。
「ちょっ、それダメ、ツボる……くくっ」
「えっ、なんでですか!?」
普段なら絶対行かない焼肉屋の食べ放題。
馴染みのない場所で声をあげて笑ってしまったのも、ごはんが美味しく感じるのも、きっと彼がいるおかげなんだろう。そう思った。
