プリエールの章:高嶺の花は変わり者

 結局、協会ではアルバトロスの行方を知ることはできなかった。
 わかっているのはあれ以来彼の姿を見たものはいないこと。いつの間にか開いていた隠し部屋には台座があったのみで、他には何もなかったこと。

 彼女がそこで起きたことを話しても、千年前の人間が生きている訳がない、突拍子がなさすぎて有り得ないと一笑に付され、誰も信じてはくれず……

(まったく、学者のくせに頭カタすぎよ! そんなんだから停滞したままなんじゃない!)

 プリエールは協会に長い休暇願いを叩きつけ、マギカルーンを出ることにした。
 自分たちの好奇心がこの事態を引き起こしたのだから、自分が動くしかない。けれども、今の彼女はあまりにも無力で。

「千年前に混乱を巻き起こした“禁呪の魔法士”……とんでもない力だった。とりあえず、あたしひとりじゃ太刀打ちできないのは確かね」

 それならば、まずは協力者を得ることが必要なのではないか。

「魔法士協会がダメなら……やっぱり女神様のお膝元、ルクシアルかしら」

 輝ける都ルクシアル。女神の神殿がある都で、世界中から参拝客が絶えない信仰の中心地だ。
 普段のプリエールなら神頼みなんて柄ではないのだが、千年前の脅威を退けたのは、他でもない女神という話。その脅威の中には、禁呪の魔法士も含まれている。

「封印するにしろ倒すにしろ、情報が必要だわ。それに、協力者も」

 協会の学者たちには相手にされなかったが、禁呪の魔法士を封印した女神を信仰する神官たちならば、話を聞いてくれるかもしれない。
 そしていくら腕輪の力があるとはいえ、今の彼女ひとりでは禁呪の魔法士には勝てないだろう。彼女には力が、仲間が必要だ。

「待ってなさい、アルバ……あんな奴に乗っ取られたまま終わらせないわ」

 禁呪の魔法士はアルバトロスの体で活動するつもりだろう。そうなれば、人々の目にアルバトロスは極悪人として映ることになる。

(ちょっと人相悪くてぶっきらぼうで他人に誤解されがちだけど、ホントはいい人なんだから……なんて言ったら、すごい顔されたっけ)

 脳裏には、つい先日まで日常だった酒場での語らい。こんな時間がいつまでも続くと思っていた、それなのに……

「一緒に帰るわよ、マギカルーンへ!」

 街の外へ力強い一歩を踏み出すと、プリエールはずんずん進んでいく。
 蒲公英色の瞳には、はっきりとした意思の光が宿っていた。



 ――魔法都市マギカルーンで暮らす魔法士、プリエール・フルール。
 優秀な学者でもあり好奇心旺盛な彼女は、友人・アルバトロスの誘いで訪れた遺跡の奥で“禁呪の魔法士”の復活を目撃してしまう。

 協会に相手にされなかった以上、自分が動くまでだ。
 こうと決めた時の彼女の行動力は、昔から凄まじいものだった。

 友人を助けるため……彼女の旅が、物語が、いまその幕を開ける――。
5/5ページ
スキ