35EX:知識は絵の具

「そう。たとえば……サニーは何か得意だったり好きだったりでよく知ってることはあるかしら?」
「うーん……あ、お宝とか宝石の目利きかなぁ」

 義賊だからね、と付け加えるサニーは「素敵ね」と返され、人差し指で得意気に鼻先を擦った。

「じゃあ、そうねぇ……旅先でそういうものを扱ったお店を見かけた時、ちょっと楽しくならない?」
「なるなる! あっレア物があるじゃんとか、このお店のひと価値わかってないなぁとか!」

 人参色のかわいらしい目をきらきらさせて語るサニーはそこで「あ!」と声をあげ、手を打った。

「そっか。それが“知識は絵の具”ってコト?」
「そうよ。知ってることが多いと、楽しめることが増えるの。芸術品が生まれる背景の歴史を知っていたり、物語を読むのに元になるネタを知っていたり、いろんな角度でものを見られるようになったりね」
「知識ひとつひとつが違う色の絵の具で、絵の具の色が増えると見える世界もカラフルに彩られていく……素敵な言葉ですね」

 エイミもしみじみと言葉の意味を噛み締める。
 ――そんな時だった。

「まるで君そのものを表したような言葉だな、エル」

 声がしたのは、プリエールの記憶の中から。
 いつかマギカルーンの酒場で、今は行方知れずの友人が、呆れも混じった穏やかな笑みで彼女にそう言ったのだ。
 貪欲に、楽しげに知識を吸収し、気になるものがあればどこへでも飛び出してしまう好奇心の塊には、どれだけ色彩に溢れた世界が見えているのだろう、と。

(アルバ……)

 プリエールは心の中で、密かに友の名を呼ぶ。
 いつか必ず彼を救い出して、かつてのように夜が更けるのも忘れるくらい語り合いたい。
 彼の瞳のように優しく静かな時間を、再び――。

「……ええ。あたしの大好きな言葉よ」

 思い出をそっと傍らに置き、プリエールは微笑んだ。
 彼女が纏う雰囲気が僅かに変わったことに気づいてか、ミューが話題を変える。

『それにしても、プリエールってばまるで先生みたいねぇ』
「うんうん。話もわかりやすいし、アタシもプリ姉みたいな先生がいたらベンキョーがんばったかもなぁー」

 さっきまで尻込みしていたとは思えない調子の良いサニーのコメントに、プリエールは「あら、そう?」とにっこり笑って……
 どさどさっとテーブルの上に分厚い本が数冊。サニーは本と笑顔のプリエールとを交互に見、目をぱちくりさせた。

「じゃあ旅の合間にでも教えましょうか。サニーもがんばってくれるみたいだし?」
「う、うわあっ!? アタシちょっと出かけてくるー!」

 こういう時の逃げ足はさすがの義賊と言うべきか。次の瞬間には少女は部屋を飛び出し、階段を駆け下りていった。

「あらら、サニーってば元気ねぇ」
「よっぽど苦手なんですね、お勉強……なんだかミューみたい」
『わ、私はあそこまでじゃないわよ!』

 プリエールとエイミが顔を見合わせ、どちらともなく笑う。
 長い旅路の、ほんの一幕。穏やかな安らぎのひとときであった。
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