29EX:異文化交流?
「……それにしても、こうしてるとホントに魔族だなんて言われてもわからねえな」
「そうですね。強いて言うなら瞳の色が、ちょっと不思議な輝きをしているくらいでしょうか?」
エイミが言うように、シルヴァンの瞳は銀色で角度によってさまざまな色の光を見せる。
青、紫、緑……まばたきをひとつして視線が動くと、また色を変えた。
「ツノがあったって言っても跡が隠れちまってるしな……なぁ、触ってみてもいいか?」
「ッ!」
何の気もなしにフォンドが手をのばすと、シルヴァンは明らかに動揺して、咄嗟に身を引く。
怒っているのだろうか、フォンドを睨むその顔は真っ赤だった。
「あ、わ、わりぃ。そうだよな、あれだけツノにこだわってりゃ触られるのもイヤだよな」
『そうよこのデリカシーなし男。ちょっとは考えなさいよっ』
「うぐっ……ぐうの音も出ねえ」
噛みつかんばかりの勢いのミューにタジタジなフォンド。するとシルヴァンは慌ててそれを止めに入る。
「い、いや、すまない、違うんだ。ええと……」
彼は辺りをきょろきょろと見回すと、フォンドたちに手招きをした。
「少し、耳を貸して貰えないだろうか……?」
「へっ?」
一体何を耳打ちされるのだろう。言われるまま身を寄せるふたりと一匹が緊張にごくりと息を呑む。すると……
「……実は成人した魔王族のツノに触れられるのは、恋人や伴侶だけなんだ。愛情表現や、場合によっては……夜のお誘い、にもなる……」
「「!」」
できるだけ周りに漏れない小声でそう告げられて、今度はエイミたちが真っ赤になる番だった。
それなりに意味だけは知っている、けれども馴染みのない言葉に面食らって飛び退くフォンド。
「わっ、わりぃ! そうとは知らずとんでもねえことを……!」
「当然知らないだろうしそんな意図はないと重々承知している。こちらこそ過剰反応してしまって申し訳ない」
先程の反応は怒りゆえのものではなかった。
ひと安心したものの、理由がわかればなんとも気まずい状態だ。
『そういや竜とか尻尾の長い魔物にもそういうのあったわね。尻尾を絡めたりするのよ』
「ま、魔族の文化をちゃんと勉強した方が良さそうですね……」
千年もの間断絶されていた世界の間には、思った以上の隔たりがある。
こちらの常識があちらの非常識。なにげない言動が大きな波紋を呼ぶ可能性があると、身をもって知った。
「ははは、それはお互い様だ。私もこれから、人間界のことを知っていこうと思う」
「シルヴァンさん……」
「今日のこと、改めて感謝する。それではまた」
ひらり、マントを翻し、シルヴァンは風のようにその場を去っていった。
楽しかった、ありがとう――そう、穏やかな一言を残して。
『あのヒト、あんな調子で一人で大丈夫かしら……?』
「あれでも強ぇんだし、大丈夫だろ」
『そういうイミじゃなくてね……』
グリングラン襲撃の際、咄嗟に助けに入った時や竜騎士の詰所で話をした時にはわからなかったが、シルヴァンは意外と押しに弱かったりどこか抜けていたり……
(ああそっか。ちょっとエイミに似てるのかも。だから心配になるのね)
真面目で、一生懸命で、たまに天然で……相棒の竜はふとそれに思い当たると、そっと目を細めた。
ちなみに……
「随分遅かったな。外で食べてきたのか?」
「「あ」」
宿に戻り、仲間の顔を見た時。そもそも食事の買い出しに出ていたことをようやく思い出し、タイミング良くフォンドの腹が思い切り鳴る。
エイミたちは顔を見合わせ、どちらともなく破顔するのだった。
「そうですね。強いて言うなら瞳の色が、ちょっと不思議な輝きをしているくらいでしょうか?」
エイミが言うように、シルヴァンの瞳は銀色で角度によってさまざまな色の光を見せる。
青、紫、緑……まばたきをひとつして視線が動くと、また色を変えた。
「ツノがあったって言っても跡が隠れちまってるしな……なぁ、触ってみてもいいか?」
「ッ!」
何の気もなしにフォンドが手をのばすと、シルヴァンは明らかに動揺して、咄嗟に身を引く。
怒っているのだろうか、フォンドを睨むその顔は真っ赤だった。
「あ、わ、わりぃ。そうだよな、あれだけツノにこだわってりゃ触られるのもイヤだよな」
『そうよこのデリカシーなし男。ちょっとは考えなさいよっ』
「うぐっ……ぐうの音も出ねえ」
噛みつかんばかりの勢いのミューにタジタジなフォンド。するとシルヴァンは慌ててそれを止めに入る。
「い、いや、すまない、違うんだ。ええと……」
彼は辺りをきょろきょろと見回すと、フォンドたちに手招きをした。
「少し、耳を貸して貰えないだろうか……?」
「へっ?」
一体何を耳打ちされるのだろう。言われるまま身を寄せるふたりと一匹が緊張にごくりと息を呑む。すると……
「……実は成人した魔王族のツノに触れられるのは、恋人や伴侶だけなんだ。愛情表現や、場合によっては……夜のお誘い、にもなる……」
「「!」」
できるだけ周りに漏れない小声でそう告げられて、今度はエイミたちが真っ赤になる番だった。
それなりに意味だけは知っている、けれども馴染みのない言葉に面食らって飛び退くフォンド。
「わっ、わりぃ! そうとは知らずとんでもねえことを……!」
「当然知らないだろうしそんな意図はないと重々承知している。こちらこそ過剰反応してしまって申し訳ない」
先程の反応は怒りゆえのものではなかった。
ひと安心したものの、理由がわかればなんとも気まずい状態だ。
『そういや竜とか尻尾の長い魔物にもそういうのあったわね。尻尾を絡めたりするのよ』
「ま、魔族の文化をちゃんと勉強した方が良さそうですね……」
千年もの間断絶されていた世界の間には、思った以上の隔たりがある。
こちらの常識があちらの非常識。なにげない言動が大きな波紋を呼ぶ可能性があると、身をもって知った。
「ははは、それはお互い様だ。私もこれから、人間界のことを知っていこうと思う」
「シルヴァンさん……」
「今日のこと、改めて感謝する。それではまた」
ひらり、マントを翻し、シルヴァンは風のようにその場を去っていった。
楽しかった、ありがとう――そう、穏やかな一言を残して。
『あのヒト、あんな調子で一人で大丈夫かしら……?』
「あれでも強ぇんだし、大丈夫だろ」
『そういうイミじゃなくてね……』
グリングラン襲撃の際、咄嗟に助けに入った時や竜騎士の詰所で話をした時にはわからなかったが、シルヴァンは意外と押しに弱かったりどこか抜けていたり……
(ああそっか。ちょっとエイミに似てるのかも。だから心配になるのね)
真面目で、一生懸命で、たまに天然で……相棒の竜はふとそれに思い当たると、そっと目を細めた。
ちなみに……
「随分遅かったな。外で食べてきたのか?」
「「あ」」
宿に戻り、仲間の顔を見た時。そもそも食事の買い出しに出ていたことをようやく思い出し、タイミング良くフォンドの腹が思い切り鳴る。
エイミたちは顔を見合わせ、どちらともなく破顔するのだった。
