29EX:異文化交流?

 聖獣が祀られているという海の神殿へ向かうには、満月まで数日ほど待つ必要がある。
 急にぽっかり空いた時間、竜騎士たちの詰所にある訓練所にて。エイミは真っ先にフォンドやシグルスとの手合わせにあてていた。

『ねぇ、そろそろ休憩しない?』
「確かに、メシの支度もしねえとな」
「それじゃあ買い出しに行きましょうか」
「おう。野菜の目利きなら任せてくれ!」

 そう言って解散すると、エイミにミュー、フォンドが揃って町に繰り出す。
 仲が良いことだな、と含みをもったシグルスの笑みには「おう!」とからからした返事をして。
 負傷者の治療に駆け回ったモーアンの話では、竜騎士たちが率先して前に出たおかげか民間人の被害は少なかったらしい。グリングランの町中はまだ襲撃の爪痕を残してはいるものの、すぐに元の生活に戻ろうとしている。
 そんな逞しい人々の声が飛び交う市場にて、彼らは見覚えのある背中を見つけた。

「あれ? アイツは……」
「シルヴァンさん?」

 ほんの先刻別れたばかりの魔族の王子シルヴァン。彼との再会は、意外にもすぐに果たされることに。

「旅に出る準備ですか?」
「あ、ああ。人間界で買い物するのは初めてで……少しばかり手間取っていたところだ」

 魔族らしい発言はこっそりと小声で。
 青色を基調に落ち着いた気品のある装いに、背中ではためく白いマントは光沢のある上等な生地。田舎と揶揄されることもあるのどかな町では浮いてしまう、いかにも高貴な人物らしい服装の美青年は気恥ずかしさに指先で頬を掻き、はにかんだ。

『まさか、お金がないとか?』
「魔界はこちらと同じ通貨なんだ。ただ、持ち合わせが少ないからいくらか装飾品を売ってきたが……」
「んじゃまずその目立つカッコをどうにかしようぜ。さっきから注目の的になっちまってる」

 言うが早いかフォンドはシルヴァンの手首をがっちりと掴み、衣服や装備品の店へと引っ張っていく。

「フォンド、シルヴァンさん!?」
『ったく、ゴーインねぇ……でも面白そうっ!』

 呆れるのも束の間、悪戯めいた笑みを浮かべふたりを追いかけていくミュー。
 町の市場に残されたエイミは、一連の流れをぽかんと眺めていた。

「もう、ミューまで……買い出しの途中なのに」

 仲間の前でリラックスしてくれるようになったのは嬉しいけれど、と苦笑まじりの溜息をひとつ。
 どうしたものかと迷っていた彼女も、元気なふたりの呼ぶ声に慌てて店へと駆けていくのだった。
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