ミスベリアを悪魔の手から取り戻した一行。その中にいたサニーもまた、宮殿の客室に招かれた。
　自分の家があるから、と断ろうとしたのだが「宮殿を好きなだけ探検できるぞ？」と悪戯っぽく王子に囁かれては好奇心に勝てなくなってしまったのだ。

「わ、なんかキレーな服まで……」

　ベッドの上に畳んであった、サニーの瞳と同じ濃い橙の衣装を両手でつまみ上げると、金色の装飾がシャランと音を立てた。
　踊り子の衣装だろうか。纏う布地は少ないが、上等そうな長いショールは衣装の飾りと共に動きによく映えそうだ。
　添えられた手紙には、ミスベリアを支配していたあの悪魔が作らせていたものを手直しした、せっかくだから貰ってやってくれと書いてあった。

「げぇ、これテプティのおさがりなの!?　いやでもまだ着てないみたいだし捨てちゃうのも勿体ないもんね……」

　サニーはもともとその身軽さとリズム感を活かして踊りと大道芸で稼いで暮らしていた。この服を着て踊れば、また違った雰囲気でお客さんも楽しめるかもしれない……そう考えれば、貰っておくのも悪くはないだろう。

「……なんか、レインにいろいろ見透かされてる気がするなぁ」

　ぶつくさ言いながら着てみると、確かにサニーの小柄な体にちゃんとフィットする。
　肌触りの良い布が、普段より露出した肌が、今の彼女にはなんだかむずむずする心地だった。

「サニー、いるか？」
「ひゃ!?」

　と、そこに静かなノックが数回鳴り、慌ててドアに駆け寄る。
　落ち着いた柔らかな声の主はつい先程思い浮かべた王子だろう。

「レイン、どうしたの？」
「突然すまない。話し合いが一段落ついたのでもし良ければ一緒に散歩でもどうかと思ったんだが……」

　がちゃり、扉が開くとやはり現れたのはレーゲン王子――サニーにとっては“レイン”と呼ぶ方がしっくりくる。
　薄群青の腰までのばした長い髪と同じ色をした涼やかな目元。どこか気品漂う佇まいはやはり、宮殿にいるとそれらしいものに思えた。
　そんなレインはサニーの格好に気づくと、頭から足先までまじまじと見つめ、

「……そなたには少し早かったかもしれないな？」

　嫌味もなく、真面目な顔でそう呟いた。

「レイン……用意しておいてそれはないんじゃなーい？」
「すまない、冗談だ。けど将来はもっと似合うようになるだろうな」

　つまりは、今も似合っているということ。
　実際褐色の肌を適度に見せ、赤味の強いオレンジの布に金色の装飾をあちこちにつけた衣装はサニーの健康的な魅力をしっかり引き出している。
　将来背丈が伸びてあちこち成長すれば、それはまた違った魅力に変わる……かもしれないが、どうなるかはまだ誰にもわからない。

「ふふーん。そのうちセクシーなお姉さんになってレインをビックリさせてやるんだから！」
「はは、楽しみにしておこう」
「あんまホンキにしてないでしょ？」
「どう成長しようが、私にとってのそなたは変わらないからな」

　レインは穏やかに微笑んで、右手をサニーへと差し出す。

「さて、我が友。今宵はご一緒していただけるかな？」
「……レインって、やっぱ王子様だよね」

　なんかずるいや、と小さく口を尖らせて。
　王子様の手を取って、サニーは部屋の外へと連れ出されるのであった。