魔法都市で、恋を知る?
その後、マギカルーンの町中にて。
この町は魔法関連の書籍が多く揃っているのだが、それ以外も、娯楽本までも幅広く扱う大きな書店があるのだという話を聞いたミューが、こっそりとその店を訪れた。
『あっ……!』
新刊置き場に平積みで並ぶ、色とりどりの表紙。その中に竜騎士の女性と同じく戦士らしき逞しい男性の絵が描かれたエメラルドグリーンの本を見つけ、小さく声があがる。
『これ……』
「戦う乙女と戦友の淡く複雑な恋を描いた“背中合わせの恋心”略して“せなこい”シリーズじゃないか。新刊出てたんだねぇ」
『んなっ!?』
驚き、はくはくと口を開けるミューからは本当なら『どうしてここに?』とか『なんでアンタも知ってるのよ!?』などと返ってくるところだったのだろう。
いつの間にか背後に勢揃いした仲間たち、という光景に彼女は咄嗟に言葉を発することができなかった。
「これがミューが読んでる小説なの?」
『う、うう……』
「ミュー?」
ばつが悪そうに俯き、背を向けるミュー。
どうしたのだろうとエイミが覗き込む。
『エイミが真面目に修行に取り組んでた時にこんなの読んでたなんて、呆れるかと思って……』
ミューがずっと修行から逃げていたのは、パートナーが傷つくかもしれない世界から目を背けていたから。
その上、恋愛小説にハマっていたなんて、ずっと頑張っていたエイミにはとてもじゃないが言えなかったのだ。
「どうして? わたしにだって修行以外の趣味はあるわ」
「そうそう。気にすることないぜ」
エイミに続いて、フォンドも笑ってフォローする。
ふたりからは気を遣っている風なぎこちなさはまるで感じられない。
(今このふたりしれっと修行を趣味に加えなかった……?)
などと思ったモーアンだったが、そこは触れないことにした。
「それよりも……わたしもちょっと読んでみたいな」
『え?』
「ミューがこんなに夢中になるんですもの。それに、主人公が竜騎士だなんて、なんだか気になるわ」
ミューがこの本を選んだのは、まさに竜騎士が主人公の物語だったからだ。
エイミと似た主人公から、将来彼女が遭遇するであろう危険とその対策を学べないかという考えだったのだが……今は素直にいち読者として、この物語を楽しんでいる。
「ミュー、良かったね。一緒に読んで感想を言い合ったら楽しいかもよ?」
『一緒に、せなこいを読んでくれるの……?』
びっくりするほど色恋に興味がなく、槍を振るってばかりのエイミが、自分と同じものを楽しんでくれる。
そんな嬉しさと未来への期待に、ミューの心は弾み、色づいた。
『よし、それじゃあ最初っから貸すわよ! 早く最新刊まで追いついていらっしゃい!』
「ふふ、わかったわ」
先ほどとは打って変わってご機嫌笑顔のミューに、フォンドとモーアンが互いに見合わせ、笑うのだった。
ちなみに……
「まるで戦場が見えるような見事な戦闘描写ね……この作家さん槍術の経験が……いえ、もしかしてかなりの槍の使い手なんじゃ……!?」
『そこ!?』
エイミが最も興味をひかれたのは、リアルで緊迫感溢れる描写の戦闘シーンだった。
物語全体も良いと言ってくれるのだが、そこを語る時の熱量は明らかに違うもので……
「まぁ、エイミだもんなぁ……」
「あの……良ければ僕と感想語り合う……?」
『……アリガト』
その後、ミューには密かな趣味を共有する相手ができた。
思っていたのとは少し違うけれど、以前よりほんのり小説を読み進める楽しみが増えたのであった。
この町は魔法関連の書籍が多く揃っているのだが、それ以外も、娯楽本までも幅広く扱う大きな書店があるのだという話を聞いたミューが、こっそりとその店を訪れた。
『あっ……!』
新刊置き場に平積みで並ぶ、色とりどりの表紙。その中に竜騎士の女性と同じく戦士らしき逞しい男性の絵が描かれたエメラルドグリーンの本を見つけ、小さく声があがる。
『これ……』
「戦う乙女と戦友の淡く複雑な恋を描いた“背中合わせの恋心”略して“せなこい”シリーズじゃないか。新刊出てたんだねぇ」
『んなっ!?』
驚き、はくはくと口を開けるミューからは本当なら『どうしてここに?』とか『なんでアンタも知ってるのよ!?』などと返ってくるところだったのだろう。
いつの間にか背後に勢揃いした仲間たち、という光景に彼女は咄嗟に言葉を発することができなかった。
「これがミューが読んでる小説なの?」
『う、うう……』
「ミュー?」
ばつが悪そうに俯き、背を向けるミュー。
どうしたのだろうとエイミが覗き込む。
『エイミが真面目に修行に取り組んでた時にこんなの読んでたなんて、呆れるかと思って……』
ミューがずっと修行から逃げていたのは、パートナーが傷つくかもしれない世界から目を背けていたから。
その上、恋愛小説にハマっていたなんて、ずっと頑張っていたエイミにはとてもじゃないが言えなかったのだ。
「どうして? わたしにだって修行以外の趣味はあるわ」
「そうそう。気にすることないぜ」
エイミに続いて、フォンドも笑ってフォローする。
ふたりからは気を遣っている風なぎこちなさはまるで感じられない。
(今このふたりしれっと修行を趣味に加えなかった……?)
などと思ったモーアンだったが、そこは触れないことにした。
「それよりも……わたしもちょっと読んでみたいな」
『え?』
「ミューがこんなに夢中になるんですもの。それに、主人公が竜騎士だなんて、なんだか気になるわ」
ミューがこの本を選んだのは、まさに竜騎士が主人公の物語だったからだ。
エイミと似た主人公から、将来彼女が遭遇するであろう危険とその対策を学べないかという考えだったのだが……今は素直にいち読者として、この物語を楽しんでいる。
「ミュー、良かったね。一緒に読んで感想を言い合ったら楽しいかもよ?」
『一緒に、せなこいを読んでくれるの……?』
びっくりするほど色恋に興味がなく、槍を振るってばかりのエイミが、自分と同じものを楽しんでくれる。
そんな嬉しさと未来への期待に、ミューの心は弾み、色づいた。
『よし、それじゃあ最初っから貸すわよ! 早く最新刊まで追いついていらっしゃい!』
「ふふ、わかったわ」
先ほどとは打って変わってご機嫌笑顔のミューに、フォンドとモーアンが互いに見合わせ、笑うのだった。
ちなみに……
「まるで戦場が見えるような見事な戦闘描写ね……この作家さん槍術の経験が……いえ、もしかしてかなりの槍の使い手なんじゃ……!?」
『そこ!?』
エイミが最も興味をひかれたのは、リアルで緊迫感溢れる描写の戦闘シーンだった。
物語全体も良いと言ってくれるのだが、そこを語る時の熱量は明らかに違うもので……
「まぁ、エイミだもんなぁ……」
「あの……良ければ僕と感想語り合う……?」
『……アリガト』
その後、ミューには密かな趣味を共有する相手ができた。
思っていたのとは少し違うけれど、以前よりほんのり小説を読み進める楽しみが増えたのであった。