魔法都市で、恋を知る?
買い出しから帰ったばかりのフォンドは買い物袋を抱え、部屋を見渡した。
エイミは訳もわからずキョトン顔。ミューはやたらと興奮しているし、モーアンはそれを宥めていて……とりあえず、何か騒いでいたことはわかる。
「なぁエイミ、一体どうしたんだよ?」
「ええと……わたしが“かけおち”について尋ねたらこんなことに……」
「かけおちぃ?」
修行一直線のエイミからまず出てこないような言葉が飛び出し、フォンドの片眉が上がった。
「フォンドは知っているんですか?」
「当然だろ」
『ちょっと、卵かけ中落ちカルビ丼の略じゃないわよ?』
「わかってるって! オレを何だと思ってるんだよ!?」
エイミよりひとつ年上の、同じく修行に明け暮れていたであろう青年は自信ありげに胸板をどんと叩いてみせる。
「んで、その駆け落ちがどうしたんだよ?」
「いえ、聞いたことのない言葉だったので意味を知りたかっただけなんです。わたしは狭い世界で生きていたので……」
「けどミューは知ってたみたいだよ。恋愛小説を読むなんて、ちょっと意外だったなぁ」
モーアンの言葉に、ミューは不思議そうに首を傾げる。
『意外って、何がよ?』
「なんていうか、恋愛には否定的なのかと思ってたよ……エイミに下心ありきで近づく奴は許さないーって感じだから」
後半はふたりには聞こえないよう本人ならぬ本竜にこっそりと耳打ちして。
囁きを受け、ミューはうぐっと言葉を詰まらせた。
『それは、敵情視察というか、なんというか……そういう連中の思考とかわかるかなって思って……あと城でもちょっと流行ってた小説が、あった、から……』
「それで読んでみたらハマっちゃったと」
『う、うるさいわね。その通りよ』
ちょっとだけ頬を赤くして、むっと口を尖らせるミュー。
と、ふと思い立って、その表情が悪戯っぽい笑みに変わる。
『人には言うけどアンタはどうなのよ。年齢的に恋のひとつやふたつしてたっておかしくないじゃない?』
「えっ、僕かい?」
駆け落ちの話から恋愛小説、そして本人の恋愛へと話が飛ぶ。
モーアンは困惑しながら視線を泳がせ、引きつった頬を指先で搔いた。
「いやぁ、僕はあんまりそういうの興味なかったし、それに……僕の隣にはだいたいノクスがいたからなぁ」
「ノクスさん、ですか?」
その名はモーアンが旅立つきっかけになった、突然姿を消したという親友の名だ。
今はデリケートな話題となったそれをおそるおそる窺うエイミに、モーアンがふっと笑いかける。
「うん。あいつね、結構モテるんだよ。文武両道、神官としての能力も高いし、その上気さくで人柄も良しだから」
相対的に僕は魅力薄く見えちゃうんだよね、とモーアンが苦笑いすると、若者ふたりがぶんぶんと首を横に振る。
「モーアンさんは優しくていろんなことを知ってる、素敵なひとです!」
「そうだぜ! オレたちのこと見守って、いつも助けてくれるしな?」
「ふ、ふたりとも……」
疑いようもないくらいきらきらとした眼差しが真っ直ぐに向けられ、モーアンの目頭が熱くなる。
『まぁ、そうね。それにルクシアルでもアンタが慕われてるのはよくわかったわ。そんなに自信なくさなくてもいいんじゃないかしら?』
「ミューまで……!」
追い討ちとばかりにかけられたミューの言葉がトドメとなって、そのままじわりと涙が滲んだ。
「うっうっありがとう……なんの話だったかわかんなくなっちゃったけど」
『どーでもいいんじゃなーい?』
泣き出した大人の頭をよしよしと尻尾で撫でてやりながら、ミューはその場を軽く流して終わるのだった。
エイミは訳もわからずキョトン顔。ミューはやたらと興奮しているし、モーアンはそれを宥めていて……とりあえず、何か騒いでいたことはわかる。
「なぁエイミ、一体どうしたんだよ?」
「ええと……わたしが“かけおち”について尋ねたらこんなことに……」
「かけおちぃ?」
修行一直線のエイミからまず出てこないような言葉が飛び出し、フォンドの片眉が上がった。
「フォンドは知っているんですか?」
「当然だろ」
『ちょっと、卵かけ中落ちカルビ丼の略じゃないわよ?』
「わかってるって! オレを何だと思ってるんだよ!?」
エイミよりひとつ年上の、同じく修行に明け暮れていたであろう青年は自信ありげに胸板をどんと叩いてみせる。
「んで、その駆け落ちがどうしたんだよ?」
「いえ、聞いたことのない言葉だったので意味を知りたかっただけなんです。わたしは狭い世界で生きていたので……」
「けどミューは知ってたみたいだよ。恋愛小説を読むなんて、ちょっと意外だったなぁ」
モーアンの言葉に、ミューは不思議そうに首を傾げる。
『意外って、何がよ?』
「なんていうか、恋愛には否定的なのかと思ってたよ……エイミに下心ありきで近づく奴は許さないーって感じだから」
後半はふたりには聞こえないよう本人ならぬ本竜にこっそりと耳打ちして。
囁きを受け、ミューはうぐっと言葉を詰まらせた。
『それは、敵情視察というか、なんというか……そういう連中の思考とかわかるかなって思って……あと城でもちょっと流行ってた小説が、あった、から……』
「それで読んでみたらハマっちゃったと」
『う、うるさいわね。その通りよ』
ちょっとだけ頬を赤くして、むっと口を尖らせるミュー。
と、ふと思い立って、その表情が悪戯っぽい笑みに変わる。
『人には言うけどアンタはどうなのよ。年齢的に恋のひとつやふたつしてたっておかしくないじゃない?』
「えっ、僕かい?」
駆け落ちの話から恋愛小説、そして本人の恋愛へと話が飛ぶ。
モーアンは困惑しながら視線を泳がせ、引きつった頬を指先で搔いた。
「いやぁ、僕はあんまりそういうの興味なかったし、それに……僕の隣にはだいたいノクスがいたからなぁ」
「ノクスさん、ですか?」
その名はモーアンが旅立つきっかけになった、突然姿を消したという親友の名だ。
今はデリケートな話題となったそれをおそるおそる窺うエイミに、モーアンがふっと笑いかける。
「うん。あいつね、結構モテるんだよ。文武両道、神官としての能力も高いし、その上気さくで人柄も良しだから」
相対的に僕は魅力薄く見えちゃうんだよね、とモーアンが苦笑いすると、若者ふたりがぶんぶんと首を横に振る。
「モーアンさんは優しくていろんなことを知ってる、素敵なひとです!」
「そうだぜ! オレたちのこと見守って、いつも助けてくれるしな?」
「ふ、ふたりとも……」
疑いようもないくらいきらきらとした眼差しが真っ直ぐに向けられ、モーアンの目頭が熱くなる。
『まぁ、そうね。それにルクシアルでもアンタが慕われてるのはよくわかったわ。そんなに自信なくさなくてもいいんじゃないかしら?』
「ミューまで……!」
追い討ちとばかりにかけられたミューの言葉がトドメとなって、そのままじわりと涙が滲んだ。
「うっうっありがとう……なんの話だったかわかんなくなっちゃったけど」
『どーでもいいんじゃなーい?』
泣き出した大人の頭をよしよしと尻尾で撫でてやりながら、ミューはその場を軽く流して終わるのだった。