魔法都市で、恋を知る?
多くの魔法士や魔法学者が暮らす、魔法研究の中心都市マギカルーン。
旅の途中で立ち寄り、買い物がてら情報を集めていたエイミの耳に、こんな会話が届いた。
「はぁ……プリエール、どこに行っちまったんだぁ……」
「プリエールちゃんがいないと協会にも華がないよなぁ」
こちらに聞かせているのかと思うほどに大きな溜息とぼやきは、学者たちのものだった。
エイミは一瞬どきりとしながら、それがこちらに向けられたものではないとわかるとおそるおそる振り返っていた顔を正面に戻した。
「なんでもアルバトロスのヤツもいなくなったらしいぜ?」
「えー? なんだってそんな同時期に?」
「わかんねぇけどアイツやけに親しげだよなぁ。俺たちの憧れ、高嶺の花! プリエールちゃんによぉ?」
(高嶺の花……?)
盗み聞きをするつもりはない。けれどもここまでハッキリと聞こえてしまっては、気にならない方が無理というものだろう。
ましてやエイミはドラゴニカから外の世界に出たことがほとんどなく、見るもの全てが新鮮な少女なのだから。
「ま、まさか、ふたりで手に手を取って駆け落ちなんてことに……!?」
「そんなぁ、プリエールちゃーん!」
二人は勝手に盛り上がり、走り去ってしまう。
残されたエイミはきょとんと首を傾げ、しばらく考え込んだ。
その結果……
『あら、おかえりエイミ』
「何か良い情報はあったかい?」
宿屋の一室。のんびりくつろいでいたミューと読書中だったモーアンが、帰ってきたエイミを穏やかに迎える。
モーアンがやや冷めかけたコーヒーを何気なく口元に運び、そう問いかけた時であった。
「あの……“かけおち”って何ですか?」
「!?」
彼がもう少し早くコーヒーを口に含んでいたら、次に待っていたのはなかなかの惨状だったであろう。
盛大に噴き出したコーヒーが借り物の本を汚し、更には近くにいたミューにまで思いっきりかかってしまうところだったのだから。
「な、なんで急にそんなことを聞くん……」
『まっまさかエイミ、誰かとカケオチしたいとか言わないわよねっ!?』
食い気味のミューの問いに、そもそも駆け落ちを知らないエイミは驚いて後退りをした。
「誰かと……町で聞いた話でも、誰かとするものみたいだったわね……?」
やはりエイミは意味をわかっていない。モーアンもそう判断して、興奮気味のミューに向き合った。
「落ち着いてミュー。まずエイミ、駆け落ちっていうのは……そうだね、多くは恋愛で使われる言葉かな」
「恋愛、ですか?」
ドラゴニカの王族で竜騎士である彼女の周りは女性が多く、何よりこれまでの人生は修行に明け暮れてばかりだったため、知ることのなかった世界だ。
うん、とひとつ頷いて、モーアンは説明を続ける。
「お互いに愛し合って、結婚を望んだんだけど何らかの理由で周りから反対された……そんなふたりが一緒になるために、誰も知らない場所へ密かに逃げて、行方を眩ませることさ」
『ドラマチックに話を作りやすいから、恋愛小説とか割とある展開よねぇ』
さらりと補足するミューに、モーアンは驚いて彼女を凝視した。
「ミュー、恋愛小説とか読むの!?」
『そこぉ!?』
思わずあがったミューの声は、いつもの甲高さがさらにひっくり返ったもので。
ちょうどそこに帰ってきたフォンドが「何の騒ぎだ?」と目を丸くして、エイミと顔を見合わせるのだった。
旅の途中で立ち寄り、買い物がてら情報を集めていたエイミの耳に、こんな会話が届いた。
「はぁ……プリエール、どこに行っちまったんだぁ……」
「プリエールちゃんがいないと協会にも華がないよなぁ」
こちらに聞かせているのかと思うほどに大きな溜息とぼやきは、学者たちのものだった。
エイミは一瞬どきりとしながら、それがこちらに向けられたものではないとわかるとおそるおそる振り返っていた顔を正面に戻した。
「なんでもアルバトロスのヤツもいなくなったらしいぜ?」
「えー? なんだってそんな同時期に?」
「わかんねぇけどアイツやけに親しげだよなぁ。俺たちの憧れ、高嶺の花! プリエールちゃんによぉ?」
(高嶺の花……?)
盗み聞きをするつもりはない。けれどもここまでハッキリと聞こえてしまっては、気にならない方が無理というものだろう。
ましてやエイミはドラゴニカから外の世界に出たことがほとんどなく、見るもの全てが新鮮な少女なのだから。
「ま、まさか、ふたりで手に手を取って駆け落ちなんてことに……!?」
「そんなぁ、プリエールちゃーん!」
二人は勝手に盛り上がり、走り去ってしまう。
残されたエイミはきょとんと首を傾げ、しばらく考え込んだ。
その結果……
『あら、おかえりエイミ』
「何か良い情報はあったかい?」
宿屋の一室。のんびりくつろいでいたミューと読書中だったモーアンが、帰ってきたエイミを穏やかに迎える。
モーアンがやや冷めかけたコーヒーを何気なく口元に運び、そう問いかけた時であった。
「あの……“かけおち”って何ですか?」
「!?」
彼がもう少し早くコーヒーを口に含んでいたら、次に待っていたのはなかなかの惨状だったであろう。
盛大に噴き出したコーヒーが借り物の本を汚し、更には近くにいたミューにまで思いっきりかかってしまうところだったのだから。
「な、なんで急にそんなことを聞くん……」
『まっまさかエイミ、誰かとカケオチしたいとか言わないわよねっ!?』
食い気味のミューの問いに、そもそも駆け落ちを知らないエイミは驚いて後退りをした。
「誰かと……町で聞いた話でも、誰かとするものみたいだったわね……?」
やはりエイミは意味をわかっていない。モーアンもそう判断して、興奮気味のミューに向き合った。
「落ち着いてミュー。まずエイミ、駆け落ちっていうのは……そうだね、多くは恋愛で使われる言葉かな」
「恋愛、ですか?」
ドラゴニカの王族で竜騎士である彼女の周りは女性が多く、何よりこれまでの人生は修行に明け暮れてばかりだったため、知ることのなかった世界だ。
うん、とひとつ頷いて、モーアンは説明を続ける。
「お互いに愛し合って、結婚を望んだんだけど何らかの理由で周りから反対された……そんなふたりが一緒になるために、誰も知らない場所へ密かに逃げて、行方を眩ませることさ」
『ドラマチックに話を作りやすいから、恋愛小説とか割とある展開よねぇ』
さらりと補足するミューに、モーアンは驚いて彼女を凝視した。
「ミュー、恋愛小説とか読むの!?」
『そこぉ!?』
思わずあがったミューの声は、いつもの甲高さがさらにひっくり返ったもので。
ちょうどそこに帰ってきたフォンドが「何の騒ぎだ?」と目を丸くして、エイミと顔を見合わせるのだった。