オトナの世界
数十分後、フォンドは見事に酔い潰れ、エイミの隣で突っ伏してしまっていた。
「だ、大丈夫ですか……?」
『だから言ったのに……ダサっ』
普段ならミューの聞き捨てならない一言に威勢の良い反論が飛んでくるところだが、完全にダウンしてしまったフォンドからは情けない呻き声がするばかり。
「ミュー、そんなこと言ってはダメよ」
『自分の限界もわきまえず飲んで潰れるなんて、バカみたいじゃない!』
(もう……心配なら心配って素直に言えばいいのに)
こんな状態のフォンドを置いて、情報収集も何もないだろう。
食事も支払いも終わったことだし、宿屋に連れ帰ろうかとエイミが立ち上がった時だった。
「おや、エイミにフォンド。どうしたんだい?」
「モーアンさん!」
信仰都市であるルクシアルで多く見かける白い神官服。ふらりと立ち寄ったのだろうモーアンが、エイミたちのもとにやって来た。
モーアンはぐったりしたフォンドの赤い顔を見て、だいたいの事情を察する。
「ああ、飲み過ぎちゃったんだ。ルクシアルのお酒、美味しいけど結構強いんだよねぇ」
「うう……せかいがまわるぅ……」
「はは。その様子じゃまともに歩けなさそうだね。肩を貸そうか」
そう言って、モーアンが手を差し伸べるが……
「あっ、いえ、大丈夫ですよ」
「「へっ?」」
ひょい、とエイミがフォンドを横抱き……いわゆるお姫様抱っこで軽々と持ち上げた。
酔いでぼんやりしていたフォンドの意識も、これには一気に覚醒する。
「えっ、ちょ、エ、エイミ……?」
「おおおお重いって! ほら、オレならもう平気だし、なっ!?」
「ダメですよ。そんなに真っ赤じゃないですか!」
いや、今真っ赤なのはたぶん違う理由だと思う。
モーアン含め、一部始終を見ていた酒場の人々も同様に青年を気の毒がる。
「それに、羽根のように軽いです」
「エイミ……」
ドラゴニカの女性は生まれた時に竜の血を与えられ、半竜人となる。
エイミもその例外に漏れず、花のような可憐さからとんでもない身体能力の持ち主だと、フォンドもこれまでの道のりでわかっていた。わかってはいたのだが……
「もう、ここの酒場に行けない……」
『さすがにちょっと同情するわ……』
フォンドは全てを諦め、両手でそっと顔を覆った。
そのまま宿屋まで運ばれ、ベッドに着いた途端にいろんな疲労感で即寝落ちしてしまう。
気持ちよさそうに眠る様子を見て、介抱の必要はなさそうだと、エイミとモーアンがほっと安堵に微笑んだ。
『まったくもう、大して飲めもしないのにどうしてカッコつけたのかしら』
尻尾の先でフォンドの寝顔をつつきながら、ミューが思いっきり呆れ顔をする。
「まぁまぁ、そのへんで……今晩は僕がついてるから、ふたりはもう自分の部屋でおやすみ」
『そうさせてもらうわ。行くわよエイミ!』
「えっ、あ、あの」
器用にドアを開けるとさっさと出ていってしまうミューと、モーアンたちとを交互に見、戸惑うエイミ。
それでも後押しするようなモーアンの微笑みを受け、ぺこりとお辞儀をする。
「ありがとうございます。あの……おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
そうしてエイミが立ち去った後、ややあって隣の部屋のドアが閉まる音が聴こえた。
室内に残されたのは自分と、すっかり熟睡して寝息を立てるフォンドの二人きり。ふと、まだ赤いその顔に視線を移し、額にかかった前髪を掻き分けてやる。
「カッコつけた、か……そうだね。ちょっとカッコつけたくなっちゃったのかもね?」
ふふ、とひとり笑うと、そっと布団をかけ直して。
(自分の家があるのに、ここに泊まるのもなんだか新鮮だなぁ)
そんなことを考えながら、モーアンも隣のベッドで眠りにつくのだった。
「だ、大丈夫ですか……?」
『だから言ったのに……ダサっ』
普段ならミューの聞き捨てならない一言に威勢の良い反論が飛んでくるところだが、完全にダウンしてしまったフォンドからは情けない呻き声がするばかり。
「ミュー、そんなこと言ってはダメよ」
『自分の限界もわきまえず飲んで潰れるなんて、バカみたいじゃない!』
(もう……心配なら心配って素直に言えばいいのに)
こんな状態のフォンドを置いて、情報収集も何もないだろう。
食事も支払いも終わったことだし、宿屋に連れ帰ろうかとエイミが立ち上がった時だった。
「おや、エイミにフォンド。どうしたんだい?」
「モーアンさん!」
信仰都市であるルクシアルで多く見かける白い神官服。ふらりと立ち寄ったのだろうモーアンが、エイミたちのもとにやって来た。
モーアンはぐったりしたフォンドの赤い顔を見て、だいたいの事情を察する。
「ああ、飲み過ぎちゃったんだ。ルクシアルのお酒、美味しいけど結構強いんだよねぇ」
「うう……せかいがまわるぅ……」
「はは。その様子じゃまともに歩けなさそうだね。肩を貸そうか」
そう言って、モーアンが手を差し伸べるが……
「あっ、いえ、大丈夫ですよ」
「「へっ?」」
ひょい、とエイミがフォンドを横抱き……いわゆるお姫様抱っこで軽々と持ち上げた。
酔いでぼんやりしていたフォンドの意識も、これには一気に覚醒する。
「えっ、ちょ、エ、エイミ……?」
「おおおお重いって! ほら、オレならもう平気だし、なっ!?」
「ダメですよ。そんなに真っ赤じゃないですか!」
いや、今真っ赤なのはたぶん違う理由だと思う。
モーアン含め、一部始終を見ていた酒場の人々も同様に青年を気の毒がる。
「それに、羽根のように軽いです」
「エイミ……」
ドラゴニカの女性は生まれた時に竜の血を与えられ、半竜人となる。
エイミもその例外に漏れず、花のような可憐さからとんでもない身体能力の持ち主だと、フォンドもこれまでの道のりでわかっていた。わかってはいたのだが……
「もう、ここの酒場に行けない……」
『さすがにちょっと同情するわ……』
フォンドは全てを諦め、両手でそっと顔を覆った。
そのまま宿屋まで運ばれ、ベッドに着いた途端にいろんな疲労感で即寝落ちしてしまう。
気持ちよさそうに眠る様子を見て、介抱の必要はなさそうだと、エイミとモーアンがほっと安堵に微笑んだ。
『まったくもう、大して飲めもしないのにどうしてカッコつけたのかしら』
尻尾の先でフォンドの寝顔をつつきながら、ミューが思いっきり呆れ顔をする。
「まぁまぁ、そのへんで……今晩は僕がついてるから、ふたりはもう自分の部屋でおやすみ」
『そうさせてもらうわ。行くわよエイミ!』
「えっ、あ、あの」
器用にドアを開けるとさっさと出ていってしまうミューと、モーアンたちとを交互に見、戸惑うエイミ。
それでも後押しするようなモーアンの微笑みを受け、ぺこりとお辞儀をする。
「ありがとうございます。あの……おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
そうしてエイミが立ち去った後、ややあって隣の部屋のドアが閉まる音が聴こえた。
室内に残されたのは自分と、すっかり熟睡して寝息を立てるフォンドの二人きり。ふと、まだ赤いその顔に視線を移し、額にかかった前髪を掻き分けてやる。
「カッコつけた、か……そうだね。ちょっとカッコつけたくなっちゃったのかもね?」
ふふ、とひとり笑うと、そっと布団をかけ直して。
(自分の家があるのに、ここに泊まるのもなんだか新鮮だなぁ)
そんなことを考えながら、モーアンも隣のベッドで眠りにつくのだった。