オトナの世界
輝ける都・ルクシアル。
女神のお膝元と呼ばれる信仰都市で多くの神官が暮らしているが、そんなルクシアルの酒場も夜はよく人で賑わっている。
町の住民と、神殿を訪れる旅人。そのどちらも出入りするそこは、情報収集にうってつけの場所と言えよう。
『うわ、お酒臭ぁい』
「わぁ……すごい熱気ね」
この世界では十八歳を成人とし、飲酒もその歳から可能となる。
竜騎士の少女・エイミが成人するのはまだ先だが、なるべく情報を集めておきたくて、おそるおそる入ってみたのだ。
「おっ? なんだ、エイミも来たのか」
「フォンド!」
がやがやとした声や物音を通り抜ける爽やかな声にカウンター席へと視線を誘われる。
見慣れた黒鳶色の髪の青年が笑顔で手を振っているのを見つけ、エイミはそちらに歩み寄った。
「フォンドも情報収集に?」
「ああ、まぁな。ついでにちょっと軽食もと思って」
フォンドの前には既に空の皿がひとつと、パンと豆のスープが。
手招きされるまま、フォンドの隣の椅子にちょこんと座る。ドラゴニカのお姫様は、大衆が集まる酒場をきらきらした目で見回している。
「酒場、あんま来たことなかったか?」
「わたしは未成年ですし……もしかして、慣れているんですか?」
「まぁ、ガキの頃からたまに親父に連れてかれてな。親父、料理あんまできねえし、酒場でよく町の人と話してたから」
グリングランの人々から慕われる英雄ラファーガ。その養子となったフォンドもまた、人の輪の中にいることが多かった。
そうして出された料理を見て覚えて、自分が作るようになったと言いながら……ふいに、その口端がにやりと上がる。
「それにオレはオトナだからな!」
「オトナ……?」
「もう十八だから酒だって飲めるんだぜ?」
いわゆるドヤ顔をして見せるフォンドに、ミューが呆れて溜め息を吐いた。
『なによ、エイミとひとつしか違わないじゃないの』
「そのひとつが大きな違いだろ。見てろよ……おじちゃん、酒ひとつ!」
威勢よく注文するフォンドに便乗して、エイミもブドウの果実水とサンドイッチを頼んだ。
しばらくすると運ばれてきた料理と、酒。木製の器に注がれた葡萄酒を、フォンドは豪快に飲み干してみせる。
「んぐっ、ぷはぁ……どうだ、見たか!」
「わぁっ……オ、オトナです!」
これが成人の力だ、と言わんばかりに得意げに口元を拭う。
そんなフォンドを、そう遠くない将来訪れるだろう大人の世界への憧れを含んだ眼差しで見上げるエイミ。
「へへ、オレだってこのくらいイケるんだぜ。よぉし、もーいっぱい!」
『ちょっと、あんま調子に乗らないほうがいいんじゃないの?』
「へーきだって!」
そう言いながら、既に呂律やテンションが怪しい気が……
ミューの嫌な予感が的中するまで、そう時間はかからなかったという。
女神のお膝元と呼ばれる信仰都市で多くの神官が暮らしているが、そんなルクシアルの酒場も夜はよく人で賑わっている。
町の住民と、神殿を訪れる旅人。そのどちらも出入りするそこは、情報収集にうってつけの場所と言えよう。
『うわ、お酒臭ぁい』
「わぁ……すごい熱気ね」
この世界では十八歳を成人とし、飲酒もその歳から可能となる。
竜騎士の少女・エイミが成人するのはまだ先だが、なるべく情報を集めておきたくて、おそるおそる入ってみたのだ。
「おっ? なんだ、エイミも来たのか」
「フォンド!」
がやがやとした声や物音を通り抜ける爽やかな声にカウンター席へと視線を誘われる。
見慣れた黒鳶色の髪の青年が笑顔で手を振っているのを見つけ、エイミはそちらに歩み寄った。
「フォンドも情報収集に?」
「ああ、まぁな。ついでにちょっと軽食もと思って」
フォンドの前には既に空の皿がひとつと、パンと豆のスープが。
手招きされるまま、フォンドの隣の椅子にちょこんと座る。ドラゴニカのお姫様は、大衆が集まる酒場をきらきらした目で見回している。
「酒場、あんま来たことなかったか?」
「わたしは未成年ですし……もしかして、慣れているんですか?」
「まぁ、ガキの頃からたまに親父に連れてかれてな。親父、料理あんまできねえし、酒場でよく町の人と話してたから」
グリングランの人々から慕われる英雄ラファーガ。その養子となったフォンドもまた、人の輪の中にいることが多かった。
そうして出された料理を見て覚えて、自分が作るようになったと言いながら……ふいに、その口端がにやりと上がる。
「それにオレはオトナだからな!」
「オトナ……?」
「もう十八だから酒だって飲めるんだぜ?」
いわゆるドヤ顔をして見せるフォンドに、ミューが呆れて溜め息を吐いた。
『なによ、エイミとひとつしか違わないじゃないの』
「そのひとつが大きな違いだろ。見てろよ……おじちゃん、酒ひとつ!」
威勢よく注文するフォンドに便乗して、エイミもブドウの果実水とサンドイッチを頼んだ。
しばらくすると運ばれてきた料理と、酒。木製の器に注がれた葡萄酒を、フォンドは豪快に飲み干してみせる。
「んぐっ、ぷはぁ……どうだ、見たか!」
「わぁっ……オ、オトナです!」
これが成人の力だ、と言わんばかりに得意げに口元を拭う。
そんなフォンドを、そう遠くない将来訪れるだろう大人の世界への憧れを含んだ眼差しで見上げるエイミ。
「へへ、オレだってこのくらいイケるんだぜ。よぉし、もーいっぱい!」
『ちょっと、あんま調子に乗らないほうがいいんじゃないの?』
「へーきだって!」
そう言いながら、既に呂律やテンションが怪しい気が……
ミューの嫌な予感が的中するまで、そう時間はかからなかったという。