23:予期せぬ出会い
怪物はばたりと倒れると、小さく萎みながらその姿を変えていく。
正体はやはり火の精霊。ぷっくりと丸く小ぶりなぬいぐるみくらいのサイズでたてがみや手足などあちこちに炎を纏った竜――同じ竜でも蛇や水棲生物に近いミューとは異なり、小さな手足を生やし、頭と胴と尾の位置がはっきりしている――のような姿をしていた。
『うう……オレさまは……』
『ルベイン!』
地の精霊ガネットが再び姿を現し、ぐったり項垂れるルベインにふよふよと近寄る。
フォンドやモーアンが幽霊船で闇精霊にしたように種子の力を分け与えると、萎んでいた炎が元気を取り戻した。
『オレさま、ふっかぁーつ!』
「はやっ!」
『急に元気ね……』
炎を撒き散らしながら飛び回るルベイン。触れても不思議と熱くはないのだが、存在そのものが暑苦しいとミューが眉間にシワを寄せた。
やがて、気が済んだのか改めて炎の台座を背にエイミたちの顔を順番に見、たてがみの炎を爆発させて。
『助けてくれてサンキューなんだぜ。知ってると思うがオレさまは火の精霊ルベインだ』
「ルベイン、きみの姿をあんな風に変えたのは、僕みたいな神官服の男かい!?」
やや前のめりに尋ねるモーアンに、ルベインがきょとんと目を瞬かせる。ややあって彼はゆっくりと首を左右に振った。
『……いいや。オレさまが見たのは学者っぽい格好をした緑色の髪の陰気で不健康そうな男だぜ』
「えっ……?」
『とりあえずなんかヤバい状況なのはわかったぜ。オレさまも力を貸してやろう』
驚くモーアンをよそに、サニーが「やったぁ!」と飛び跳ねた。
「随分と話が早いな?」
『お前ら、レレニティアの種子持ってるだろ。オレさまの所に現れた男といい、種子を託された奴がいることといい、既に只事じゃねえんだよ』
そう言うルベインの頭上でゆらりとたてがみの炎が揺らめく。
「ここに来て、また新しい脅威が現れたってのか……?」
「行き先も目的もバラバラだし、たぶんそれぞれ独立して動いているんだろうね」
トントンと指先でこめかみを叩き、モーアンが考え込む。
行方不明の親友ノクスが新たな悪行を重ねていた訳ではないことにひとまず安心したものの、それなら何故その学者風の男は同様に精霊を穢し、暴走させていたのだろうか。
魔族に悪魔だけでも既に各地で混乱は起きている。早く食い止めなければ……そこまで思考を巡らせていたところ、ふいに世界が暗くなり、顔を上げた。
「うわぁ!?」
「で、でっかい竜!」
素っ頓狂な声と共に尻餅をついてしまうのも無理はない。辺りに影を落としていたのは、立派な角を生やし全身の黒い鱗を鈍く光らせた、大きな翼竜の存在だったから。
(あれはパメラ姉様の……!)
ドラゴニカ最強にして女王パメラの相棒、黒竜だ――エイミが思わず声をあげそうになるが、竜は身を翻し、あっという間にどこかへ飛んでいってしまう。
「ま、待って……!」
必死に呼びかけるエイミの声もむなしく、後には乾いた風が砂を巻き上げながら音を立てるのみ。
一瞬見えた竜の背には、相棒である姉の、大海のように大きくなびいて波打つ紺碧の長い髪は見当たらなかった。
正体はやはり火の精霊。ぷっくりと丸く小ぶりなぬいぐるみくらいのサイズでたてがみや手足などあちこちに炎を纏った竜――同じ竜でも蛇や水棲生物に近いミューとは異なり、小さな手足を生やし、頭と胴と尾の位置がはっきりしている――のような姿をしていた。
『うう……オレさまは……』
『ルベイン!』
地の精霊ガネットが再び姿を現し、ぐったり項垂れるルベインにふよふよと近寄る。
フォンドやモーアンが幽霊船で闇精霊にしたように種子の力を分け与えると、萎んでいた炎が元気を取り戻した。
『オレさま、ふっかぁーつ!』
「はやっ!」
『急に元気ね……』
炎を撒き散らしながら飛び回るルベイン。触れても不思議と熱くはないのだが、存在そのものが暑苦しいとミューが眉間にシワを寄せた。
やがて、気が済んだのか改めて炎の台座を背にエイミたちの顔を順番に見、たてがみの炎を爆発させて。
『助けてくれてサンキューなんだぜ。知ってると思うがオレさまは火の精霊ルベインだ』
「ルベイン、きみの姿をあんな風に変えたのは、僕みたいな神官服の男かい!?」
やや前のめりに尋ねるモーアンに、ルベインがきょとんと目を瞬かせる。ややあって彼はゆっくりと首を左右に振った。
『……いいや。オレさまが見たのは学者っぽい格好をした緑色の髪の陰気で不健康そうな男だぜ』
「えっ……?」
『とりあえずなんかヤバい状況なのはわかったぜ。オレさまも力を貸してやろう』
驚くモーアンをよそに、サニーが「やったぁ!」と飛び跳ねた。
「随分と話が早いな?」
『お前ら、レレニティアの種子持ってるだろ。オレさまの所に現れた男といい、種子を託された奴がいることといい、既に只事じゃねえんだよ』
そう言うルベインの頭上でゆらりとたてがみの炎が揺らめく。
「ここに来て、また新しい脅威が現れたってのか……?」
「行き先も目的もバラバラだし、たぶんそれぞれ独立して動いているんだろうね」
トントンと指先でこめかみを叩き、モーアンが考え込む。
行方不明の親友ノクスが新たな悪行を重ねていた訳ではないことにひとまず安心したものの、それなら何故その学者風の男は同様に精霊を穢し、暴走させていたのだろうか。
魔族に悪魔だけでも既に各地で混乱は起きている。早く食い止めなければ……そこまで思考を巡らせていたところ、ふいに世界が暗くなり、顔を上げた。
「うわぁ!?」
「で、でっかい竜!」
素っ頓狂な声と共に尻餅をついてしまうのも無理はない。辺りに影を落としていたのは、立派な角を生やし全身の黒い鱗を鈍く光らせた、大きな翼竜の存在だったから。
(あれはパメラ姉様の……!)
ドラゴニカ最強にして女王パメラの相棒、黒竜だ――エイミが思わず声をあげそうになるが、竜は身を翻し、あっという間にどこかへ飛んでいってしまう。
「ま、待って……!」
必死に呼びかけるエイミの声もむなしく、後には乾いた風が砂を巻き上げながら音を立てるのみ。
一瞬見えた竜の背には、相棒である姉の、大海のように大きくなびいて波打つ紺碧の長い髪は見当たらなかった。