23:予期せぬ出会い
火の精霊ルベインが穢れに侵され変異した怪物は、エイミたち前衛三人で抑え込んでも手強い相手だった。
一撃一撃が重く、まともに食らえばすぐさま戦闘不能まで持っていかれかねない上に、理性を失いかけて暴走すれば爆発的なパワーとスピードで縦横無尽に――思考力が奪われているからだろうか、却って予測が難しく、苦戦を強いられてしまう。
「ぐうっ……しぶとい野郎だぜ」
肩で息をするフォンドの、仄かに纏っていた光が消える。継続回復魔法の効果が切れてしまったようだ。
魔法のお陰で多少無茶な動きができていたフォンドは頼みの綱がなくなり、咄嗟に二、三歩跳び退いた。
「モーアンさんの回復魔法がある、とはいえ……どのみち意識持ってかれたら動けなくなっちまう」
「これだけ暴れる奴だ。俺たちが戦線を崩されたら後ろに迫るのは一瞬だろうな……」
ちら、とサニーを振り返ると、彼女の周りに黒い魔力が渦巻いていた。
詠唱自体は終わっているものの、怪物があまりその場に留まってくれない。ここで万が一影縛りを避けられてしまえば今度こそ彼女が標的になってしまう可能性が高いため、発動を堪えているようだ。
「それぞれ囲んで一度に攻撃すれば僅かでも動きを止められるでしょうか?」
「いいな、それ。やろうぜ!」
「いくぞ!」
同時に別方向へ散った三人を怪物が目で追おうとするが、狙いが絞れずに一瞬の迷いが生まれる。
まずは、と背後に回り込んだエイミが鋭く放った槍が、相手の脇を掠めた。
『グッ……ガァッ!』
「当たりません!」
リーチの長い彼女は距離をとっての一撃離脱を得意としており、人間のそれより長い怪物の腕も、すぐさま大きく後方へ避けた彼女を捉えることは叶わなかった。
「オラオラっ! こっちがお留守だぜ!」
エイミに気を取られて振り向き、甘くなったガードを今度はフォンドの連撃が崩しにかかる。
拳と蹴り。素早くランダムに繰り出されるそれは決定打には届かないが、確実に相手を押し込めてその場に留めさせる。
三人のうち怪物に一番有効なダメージを与えられるのはシグルスの魔法剣だが、それよりも……
「今だ、サニー!」
輝く剣で斬りつけながらシグルスが振り向いた後方で、待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑う少女。
サニーの周りに集まった黒い闇の魔力が細くしなやかにうねり、足元の影へと飛び込む。
「じっとしててよっ!」
『グア!?』
サニーの影から、怪物の影へ。下から飛び出した黒い魔力の鞭が怪物を絡め取り、押さえつける。
それ自体に攻撃力はなく、効果もほんの数秒。だが、確実に必要な数秒だ。
「チャンスよ、ミュー!」
「頼むぜ、モーアンさん!」
じっと堪えて待った、時が来た。まずは弾丸のように飛び出したミューが思いっきり息を吸い込み、氷のブレスを吐き出す。
『くらいなさぁぁいっ!』
ずっと蓄えてきた氷の魔力を一気に放出すると、周囲の気温もガクッと下がる。
呻き、もがく怪物の体を覆う燃え盛る炎のような体毛が徐々に小さく弱々しくなっていく。
『よし、効いてるわ!』
「一気に片をつける!」
暴走する精霊も自分たちも、長引けばどちらも辛い思いをする。
モーアンの合図で急速に収束し、天へと立ち昇る光が怪物の全身を貫いた。
一撃一撃が重く、まともに食らえばすぐさま戦闘不能まで持っていかれかねない上に、理性を失いかけて暴走すれば爆発的なパワーとスピードで縦横無尽に――思考力が奪われているからだろうか、却って予測が難しく、苦戦を強いられてしまう。
「ぐうっ……しぶとい野郎だぜ」
肩で息をするフォンドの、仄かに纏っていた光が消える。継続回復魔法の効果が切れてしまったようだ。
魔法のお陰で多少無茶な動きができていたフォンドは頼みの綱がなくなり、咄嗟に二、三歩跳び退いた。
「モーアンさんの回復魔法がある、とはいえ……どのみち意識持ってかれたら動けなくなっちまう」
「これだけ暴れる奴だ。俺たちが戦線を崩されたら後ろに迫るのは一瞬だろうな……」
ちら、とサニーを振り返ると、彼女の周りに黒い魔力が渦巻いていた。
詠唱自体は終わっているものの、怪物があまりその場に留まってくれない。ここで万が一影縛りを避けられてしまえば今度こそ彼女が標的になってしまう可能性が高いため、発動を堪えているようだ。
「それぞれ囲んで一度に攻撃すれば僅かでも動きを止められるでしょうか?」
「いいな、それ。やろうぜ!」
「いくぞ!」
同時に別方向へ散った三人を怪物が目で追おうとするが、狙いが絞れずに一瞬の迷いが生まれる。
まずは、と背後に回り込んだエイミが鋭く放った槍が、相手の脇を掠めた。
『グッ……ガァッ!』
「当たりません!」
リーチの長い彼女は距離をとっての一撃離脱を得意としており、人間のそれより長い怪物の腕も、すぐさま大きく後方へ避けた彼女を捉えることは叶わなかった。
「オラオラっ! こっちがお留守だぜ!」
エイミに気を取られて振り向き、甘くなったガードを今度はフォンドの連撃が崩しにかかる。
拳と蹴り。素早くランダムに繰り出されるそれは決定打には届かないが、確実に相手を押し込めてその場に留めさせる。
三人のうち怪物に一番有効なダメージを与えられるのはシグルスの魔法剣だが、それよりも……
「今だ、サニー!」
輝く剣で斬りつけながらシグルスが振り向いた後方で、待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑う少女。
サニーの周りに集まった黒い闇の魔力が細くしなやかにうねり、足元の影へと飛び込む。
「じっとしててよっ!」
『グア!?』
サニーの影から、怪物の影へ。下から飛び出した黒い魔力の鞭が怪物を絡め取り、押さえつける。
それ自体に攻撃力はなく、効果もほんの数秒。だが、確実に必要な数秒だ。
「チャンスよ、ミュー!」
「頼むぜ、モーアンさん!」
じっと堪えて待った、時が来た。まずは弾丸のように飛び出したミューが思いっきり息を吸い込み、氷のブレスを吐き出す。
『くらいなさぁぁいっ!』
ずっと蓄えてきた氷の魔力を一気に放出すると、周囲の気温もガクッと下がる。
呻き、もがく怪物の体を覆う燃え盛る炎のような体毛が徐々に小さく弱々しくなっていく。
『よし、効いてるわ!』
「一気に片をつける!」
暴走する精霊も自分たちも、長引けばどちらも辛い思いをする。
モーアンの合図で急速に収束し、天へと立ち昇る光が怪物の全身を貫いた。