23:予期せぬ出会い
燈火の塔・最上階。そこには天辺に燃え盛る炎を掲げる台を支える柱と、大人の胸ほどの高さの柵がぐるりと囲むだけの、見晴らしも風通しも良い広々とした屋上だった。
ただ、唯一――巨大な炎の台座にもたれかかりうなだれる一匹の怪物が、この場の異常。
『ルベイン……なのか?』
『グウゥ……』
地精霊の呼びかけに、苦しげな呻きが返ってきた。
筋肉の発達した、二本足で立つ獣といった形容が近いだろうか。真っ黒な体毛はメラメラと燃えているが、どうやら自身で発しているらしい。
ぎらりと鋭い眼光はエイミたちを捉えると、大きく見開かれた。
「ルベインさん!」
『いかん、ワシの時と同じじゃ! 一度弱らせてから浄化せねば……!』
ディアマントが叫ぶと同時に、ルベインと思しき怪物は一気に距離を詰めてエイミに襲い掛かった。
鋭い爪を咄嗟に槍の柄で受け止め、後ろに衝撃を逃がす。
ビリビリと痺れる感触は一瞬で、彼女はすぐさま槍を構え直した。
「大丈夫か!?」
「ええ。ですがかなりの力です」
成人男性を軽々と持ち上げることができる、見た目に反して人並み外れた怪力の持ち主にそうまで言わしめるということは、フォンドやシグルスでも力負けする可能性が高い。
正面からぶつかれば不利だと悟り、一旦適度に距離を保つ。
地上は遥か遠く。単純なパワーだけでなく、エイミの眼前まで一気に迫ったスピードも侮れない相手。こんなところで吹っ飛ばされて、万が一にも落ちてしまえばひとたまりもないだろう。
「ここはアタシがっ!」
「! あの術か!」
後方でサニーが詠唱を始めるのを一瞥したシグルスは、なるほどと内心で呟いた。
クバッサ宮殿で戦った魔物の巨体をも拘束する影縛りは、この怪物にも有効だろう。
詠唱を阻害されたり、発動しても避けられてしまわないよう、相手の動きを制限しながら戦う必要がありそうだ――騎士団で集団の戦闘に慣れていたシグルスは、そう判断して前に出る。
「少しばかり派手にやらせてもらう……!」
長剣の刃が白く煌めき、光の魔力を集める。
強い輝きを発する剣は狙い通り怪物の注意を引くことに成功し、無防備なサニーへの視線が外れる。
「そうだ、こっちへ来い!」
「オレも忘れてもらっちゃ困るぜ!」
そう言って怪物の間合いに飛び込んだのはフォンドだ。
いつの間にか光を纏っている彼も、どうやら自らに魔法をかけていたようだ。
以前習得した、一定時間継続的に傷を癒す術。タフなフォンドが前に出て更に戦い続けるための力だ。
『私たちも……!』
「ミュー、あなたはチャンスを待って思いっきり冷気をぶつけて。火の精霊が元になっているなら、もしかしたら効果が高いかも」
そのためのチャンスはわたしたちが作る。
エイミは槍の柄をしっかりと握り締め、相棒を置いて前線へと駆け出した。
ただ、唯一――巨大な炎の台座にもたれかかりうなだれる一匹の怪物が、この場の異常。
『ルベイン……なのか?』
『グウゥ……』
地精霊の呼びかけに、苦しげな呻きが返ってきた。
筋肉の発達した、二本足で立つ獣といった形容が近いだろうか。真っ黒な体毛はメラメラと燃えているが、どうやら自身で発しているらしい。
ぎらりと鋭い眼光はエイミたちを捉えると、大きく見開かれた。
「ルベインさん!」
『いかん、ワシの時と同じじゃ! 一度弱らせてから浄化せねば……!』
ディアマントが叫ぶと同時に、ルベインと思しき怪物は一気に距離を詰めてエイミに襲い掛かった。
鋭い爪を咄嗟に槍の柄で受け止め、後ろに衝撃を逃がす。
ビリビリと痺れる感触は一瞬で、彼女はすぐさま槍を構え直した。
「大丈夫か!?」
「ええ。ですがかなりの力です」
成人男性を軽々と持ち上げることができる、見た目に反して人並み外れた怪力の持ち主にそうまで言わしめるということは、フォンドやシグルスでも力負けする可能性が高い。
正面からぶつかれば不利だと悟り、一旦適度に距離を保つ。
地上は遥か遠く。単純なパワーだけでなく、エイミの眼前まで一気に迫ったスピードも侮れない相手。こんなところで吹っ飛ばされて、万が一にも落ちてしまえばひとたまりもないだろう。
「ここはアタシがっ!」
「! あの術か!」
後方でサニーが詠唱を始めるのを一瞥したシグルスは、なるほどと内心で呟いた。
クバッサ宮殿で戦った魔物の巨体をも拘束する影縛りは、この怪物にも有効だろう。
詠唱を阻害されたり、発動しても避けられてしまわないよう、相手の動きを制限しながら戦う必要がありそうだ――騎士団で集団の戦闘に慣れていたシグルスは、そう判断して前に出る。
「少しばかり派手にやらせてもらう……!」
長剣の刃が白く煌めき、光の魔力を集める。
強い輝きを発する剣は狙い通り怪物の注意を引くことに成功し、無防備なサニーへの視線が外れる。
「そうだ、こっちへ来い!」
「オレも忘れてもらっちゃ困るぜ!」
そう言って怪物の間合いに飛び込んだのはフォンドだ。
いつの間にか光を纏っている彼も、どうやら自らに魔法をかけていたようだ。
以前習得した、一定時間継続的に傷を癒す術。タフなフォンドが前に出て更に戦い続けるための力だ。
『私たちも……!』
「ミュー、あなたはチャンスを待って思いっきり冷気をぶつけて。火の精霊が元になっているなら、もしかしたら効果が高いかも」
そのためのチャンスはわたしたちが作る。
エイミは槍の柄をしっかりと握り締め、相棒を置いて前線へと駆け出した。