22:燃える塔

 砂漠の中心部に佇む“燈火の塔”は近くまで来ると天にも届きそうで、陽射しの強さもあって見上げるとくらりと目眩がした。
 天辺は灯台と呼ぶにはあまりにも激しく燃え盛る炎のせいで、どんな形状をしているのかすら見えない。

『なんというか……暑苦しいわね』
「夜に来たら綺麗だったかも……?」

 と、苦笑いをするエイミの前に、今度は地精霊が姿を見せた。

『やっぱり、おかしいぜ』
「ガネットさん?」
『確かにルベイン……火の精霊はいつも暑苦しい。けどな、今のこれは度を越してやがるんだ』

 そう言ってガネットはミューに視線を移す。
 暑さが苦手な水竜は今回も冷気のバリアで自分と、ついでに仲間たちも覆っていたのだが……

『言われてみれば……この炎が暑苦しく見えたせいだと思ったけど、ホントに暑いのね』
「マジかよ……ミューの冷気越しでこれなら、何の備えもなしに近づいたらひとたまりもねえな」

 砂漠旅に慣れていないとはいえ、体力のあるフォンドでもあまり長く活動できなさそうな熱気が塔から放たれていて、内部に入れば一体どうなってしまうのか。
 そして、その塔の頂上では何が起きているのか……精霊に会うためにも、塔を登るしかないだろう。

「このままここで立ち話していても体力が削られるだけだ。行こう」
「そうだね。やるなら早いほうがいいよ」

 そうして入った塔の中で、一行は異変の理由をすぐに知ることとなる。
 外観より広く感じる内部には、きらめきの森で見たものと同じ黒い靄――穢れが満ち溢れていたのだから。

「うぇっ、何これ……なんかやだ、キモチわるい……」
「それにやはり酷い熱気だ……外とは比べものにならない」

 サニーとシグルスが嫌悪を示し、思わず後ずさる。
 それでも光精霊が言ったようにふたりにも“聖なる種子”の加護が現れたらしく、穢れに充てられて正気を失うほどではないようだ。

「あっ、そうだ! これ、レインから」
「これは……“氷炎の護り石”ですね。ドラゴニカでもよく使われる……」

 エイミが言うには、灼熱では冷気を、極寒では熱を。ミューがやったように魔力で覆って使用者を守り、過酷な環境下で長く活動するための魔法道具だという。

『それって私がバリア張る必要なかったってコトじゃない! なんでもっと早く出さなかったのよっ!』
「ゴメン、すっかり忘れてたぁ……」
『……まぁいいわ。良いトレーニングになったと思えば』

 長い間修行をサボっていた自分には丁度いい。
 ミューはそれ以上サニーを責めたりせず、前向きに考えることにした。
 改めて周囲を見回すと塔のつくりは案外シンプルで、広いフロアの奥に階段が見え、あとは小部屋があるくらいだ。
 本来は灰色の石壁が今は隅々まで行き渡る火の魔力で、継目が橙色に輝いている。

「中は迷宮とかじゃなくてよかったよ。この暑さで回り道や謎解きなんてたまったもんじゃないからねぇ」
『ルベインの性格が出ておるのう。奴は回りくどいことや曲がったことが大嫌いじゃから』

 光精霊の説明を聞きながら、次に会う精霊とはなんとなく気が合いそうだなと思うフォンド。
 しかしあちこちから現れた魔物によって、その思考は隅へと追いやられるのであった。
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