22:燃える塔

 祭を終え、一抹の寂しさはあれど活気が戻りつつあるミズベリアの朝。
 エイミたちは案内役にサニーを加え、火の精霊がいるという場所を目指すことになった。

「砂漠の真ん中に“燈火の塔”っていうのがあるんだ。てっぺんでずっと炎が燃え盛っていてね、別名“砂海の灯台”ともいうんだよ」

 案内って言っても場所自体はわかりやすいよ、とサニー。
 ミズベリアに辿り着く前は日光が眩しすぎて空を見上げる余裕などほとんどなかったが、言われてみればうっすらとそれらしき塔の影が見える。

「結局俺もつきあわされるんだな……」

 はぁ、と特大の溜息を吐き出したのは、腕組みしながら後方を歩くシグルスだった。
 目を細めて眉間にシワを寄せ、嫌だというより理解できないという顔。人々から疎まれるハーフエルフには、賑やかな旅路こそ慣れないものである。

「まぁまぁ。あれから悪魔の手がかりはないんだし、精霊探しも何かのヒントになるかもよ?」
『私たちも追ってるものはそれぞれ違うけど、精霊を探しながら各地を旅して今回の騒動に巻き込まれたんだから』

 もともとは女神に託された“聖なる種子”を成長させるために精霊を探していたのだが、そこでモーアンは行方をくらませた親友の手がかりを掴み、ミューとエイミ、フォンドは魔界の扉が開いてしまったところに出くわしている。
 そして、悪魔が絡んだ事件にも……異変の多くは、精霊の住処近くで起きているのだ。

「悪魔は精霊よりも人間が多い場所に現れそうなものだが……」
「確かに、これから行く場所は普段ひとが訪れない場所ではあるよ。暑いし熱いもん」
「だったら……」
『いや、精霊と会っとった方がおぬしにもプラスになるんじゃないかのう?』

 シグルスとサニーのやりとりにひょっこり割って入ったのは白い火の玉、光の精霊ディアマント。
 闇精霊は既にふたりの前に姿を現していたが、他の精霊たちも同様にしたようだ。

「火の玉じーちゃん、どゆこと?」
『エイミたちと共に悪魔と戦った影響か、どうやらおぬしらの中にも“聖なる種子”が芽生え始めたようでのう。精霊との契約がそのままおぬしらの力になるんじゃよ』
「せーなるしゅし……?」

 かくかくしかじか。エイミたちは疑問符を浮かべるサニーやシグルスにルクシアルで女神に力を託されたことと精霊探しに至った経緯を説明した。

「……何か妙な魔力を感じるとは思ったが、まさか女神とはな……港町の結界もそういうことか」
「ルクシアルにはアタシも行ったよ?」
『ルクシアル……そうか。もしかしたらその時に残った力の欠片を与えていて、それが芽吹いたのかもしれぬのう』

 女神も精霊も現世において力を行使するには様々な制約がかかり、姿や声を伝えるのも簡単ではない。
 精霊が存在を伝えられるのは住処やその近辺、或いは契約者を通してならばという話らしいが、女神にとってはルクシアルの神殿やその北に聳える霊峰がそれにあたるのだという。

「どうしてアタシたちに?」
「そういえば、わたしたちの時も……ルクシアルを訪れる人は数多くいるのに」

 神殿で聴いた女神の声の様子からして、誰彼構わず種子を託す余裕はないだろう。
 そうなると、エイミたちやシグルス、サニーには何かしらの共通点があると思われるが……

『おぬしらは多少の違いはあれど千年前に封じた存在と遭遇し、大切なものを奪われ、神殿の門を叩いた者たち……それらの脅威と戦う可能性が高いからじゃろうな』

 いつになく真面目なトーンでそう告げるディアマントに、一同はごくりと息を呑んだ。
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