21:祭の夜

『ほっといたらほっといたで、すごく色気に欠ける会話でいつも通りというか……』
「まぁ、あの子たちらしいよね」

 空に星が輝き始めた頃。空気を読んでしばらく離れていたモーアンとミューだったが、エイミたち二人は相変わらずのようで安心するやら呆れるやら、笑いながら戻ってきた。
 互いに好意を抱いてはいるだろうが、素直で純粋、加えて脳筋という二人の間のそれは今のところ甘いものではないようだ。

「あれ、ミュー。どこに行っていたの?」
「モーアンさんもだぜ。ふたりいっしょだったんだな」

 ぎこちなさは慣れない格好ゆえで、馴染んでしまえばいつもの二人。
 隣にいるのがごく自然なのは、仲間としての関係が深まっているのだろう。

「モーアンさん、その格好も似合いますね!」
「神官服もゆったりしてるからかなんか自然だよな」
「ありがとう。二人も素敵だよ」

 モーアンにも服が用意されていたが、活動的なフォンドの衣装とは違い、ローブのような風通しの良さそうな服装で頭には布を被せ、ぐるりと紐を巻きつけて留めている。
 どことなく神官らしい装いで、実際本人もしっくりきていた。

「にしても、うまそうなニオイがしてきたなぁ。腹減っちまった」
「そろそろいい時間ですもんね。人も増えてきましたよ」

 広場にはテーブルが設置され、宮殿から次々と料理が運ばれていく。
 町に行き渡らないようテプティがせき止めて、宮殿に蓄えられた食糧は民に無償で振る舞われることとなったらしい。
 下層部から来たであろう人たちがあたたかい料理を前に心から安堵したような笑顔を見せ、エイミたちも自然と顔を綻ばせる。

「良かった……ミズベリアを、ここに暮らす人たちの笑顔を取り戻すことができて」

 宮殿潜入前のサニーの話では、食糧や飲み水にも困るほど下層部の民は虐げられていたという。
 恐らくしばらくの間笑うことすらできなかったのではないか。目の前のごちそうに喜ぶ子供、泣きながら、けれども嬉しそうにスープを飲む母親――あちこちで見られる光景にエイミの胸が熱くなった。

『きっと、ドラゴニカも取り戻せるわよ』
「だから今はいっぱい食べてしっかり休んで、精霊探しに備えようぜ」
「はい! あっ、空が……」

 ひゅるる、と高い音がして光が昇り、ドンと花開いて散る。
 それを皮切りにあちこちで色とりどりの花火があがり、夜空が美しく彩られる。

「うわぁ……!」
「綺麗だなぁ。あいつが作らせたとは思えない出来だぜ」
「具体的な趣味を入れてなくてとにかく派手に、みたいな大雑把な注文だったんじゃない?」

 黒いフリルだらけの服に散りばめられたどぎつい赤やピンクが目に痛いテプティの格好を思い出し、モーアンは苦笑いをする。
 と、そこにレーゲン王子とサニー、シグルスもやって来た。

「ミズベリアの花火職人はなかなかの腕だろう。この花火であの悪魔を楽しませることにならなくて、本当に良かった」
「みんなを苦しめたら美味しい思いをするなんていうなら、みんなをとびきり笑顔に幸せにするのが一番の反撃だよね!」
「……まぁ、一理あるな」

 ドン、ドンと次々に打ち上がり、空に光の花が咲く。
 サニーは元気に駆け出すと軽やかに踊りながら曲芸を披露し、人々を楽しませた。
 ちょっと前までは誰もが俯き、背中を丸めていたミズベリア。それが今では笑顔と楽しげな声で溢れている。
 シグルスは真紅の目を細め、フッと口の端を上げた。

「千年前の脅威だかなんだか知らないが、一方的にやられてやるつもりはない」
「ですね!」
「おう!」

 フォンドとエイミも力強く頷き、決意を新たにする。
 国を取り戻した喜びの日――この夜、ミズベリアにひとつの記念日が誕生したのであった。
4/4ページ
スキ