21:祭の夜
今回の事件のあらまし、そしてクバッサ宮殿奪還の報は宮殿前広場に人々を集め、ルフトゥ王の口から直々に伝えられた。
悪魔に操られていたとはいえ、民を苦しめてしまった事実に王は深々と頭を下げ、どんな非難も受け入れようと民の言葉を待ったのだが……
「ルフトゥ様は人々の信頼厚き王なんですね」
「これまでの積み重ねだろうな。この人ならきっとより良いミズベリアに立て直してくれるって、みんな信じてるんだな」
人々はただただ支配の終わりと王や王子の無事を喜んだ。
そして今夜はこれまでですっかり沈んでしまった人々の心を上向きにするべく、解放を祝う祭が開催されることとなったのだ。
己だけが贅を尽くした宴でも開くつもりだったのだろうか、派手好きな悪魔は花火や装飾を作らせたり、宮殿に食糧や酒を蓄えていたため、それらを使うだけで良かったのは不幸中の幸いと言うべきか。
日が傾くと暑さも和らぎ、いそいそと祭の準備が進む広場を眺めながら、エイミとフォンドはこれまでの出来事を噛み締める。
「いろんなことがあり過ぎて、ここしばらく大変だったよなぁ」
「ええ。幽霊船から始まって、ずっと悪魔と戦ってましたね」
暴力的で傲慢な魔族とはまた違う、卑劣で狡猾な悪魔。
西大陸に近づいたあたりからそんな連中との戦いが続き、危機に陥ったふたつの国を目の当たりにした。
女神が封じた千年前の脅威は、恐らくまだその全容を見せていないというのに……
「魔族や魔界のことにはまだまだ辿り着けねえけど、世界中で酷い目に遭ってる人がいるんだって、よくわかった」
「はい。それに、精霊や聖なる種子の力が必要な場面も多かったですね……」
穢された精霊の浄化や魔界の扉を閉じること、結界の修復。それに悪夢に囚われた王の救出は通常ではどうにもできないような事態だったろう。
女神はエイミたちにいくつかの脅威が迫っていることを示し『この世界を頼む』という風な言葉を途切れ途切れながらも残していた。
エイミたちがこれらの事態に遭遇することも、もしかしたらそれを放っておけないことも見越していたのかもしれない。
「それだけ、今はどこもかしこもヤバいってことだよな。オレはオレの目的だけを追ってる場合じゃないんだ」
「けど、こうやって世界を回っていくことで、きっといつか辿り着ける……今はそう思います」
広い空が、世界のどこにでも繋がっているように。
次第に色を変え、星々が輝き始めたそれを見上げ「それに」とフォンドを振り返るエイミ。
「本命を叩く前に、もっともっと力をつけたいですしね!」
可憐な少女の握る拳はぐっと力強く、やはり戦士の顔をしていた。
一瞬、きょとんと虚を突かれた顔をしていたフォンドだったが、やがて眉尻を下げ、白い歯を見せて笑う。
「……はは。やっぱエイミはエイミだ」
「? どうかしましたか?」
「なんでもねぇよ」
綺麗な衣装を着たエイミがお姫様みたいで、どこか遠い世界の人のように感じられて――そんな不安がフォンドの胸を掠めていたが、彼女の本質は何も変わらない。
(当たり前だけど、なんかすげえ安心したなぁ)
どうして急にそんなことがよぎったのか……この時のフォンドは、その理由を考えるまでに至らなかった。
悪魔に操られていたとはいえ、民を苦しめてしまった事実に王は深々と頭を下げ、どんな非難も受け入れようと民の言葉を待ったのだが……
「ルフトゥ様は人々の信頼厚き王なんですね」
「これまでの積み重ねだろうな。この人ならきっとより良いミズベリアに立て直してくれるって、みんな信じてるんだな」
人々はただただ支配の終わりと王や王子の無事を喜んだ。
そして今夜はこれまでですっかり沈んでしまった人々の心を上向きにするべく、解放を祝う祭が開催されることとなったのだ。
己だけが贅を尽くした宴でも開くつもりだったのだろうか、派手好きな悪魔は花火や装飾を作らせたり、宮殿に食糧や酒を蓄えていたため、それらを使うだけで良かったのは不幸中の幸いと言うべきか。
日が傾くと暑さも和らぎ、いそいそと祭の準備が進む広場を眺めながら、エイミとフォンドはこれまでの出来事を噛み締める。
「いろんなことがあり過ぎて、ここしばらく大変だったよなぁ」
「ええ。幽霊船から始まって、ずっと悪魔と戦ってましたね」
暴力的で傲慢な魔族とはまた違う、卑劣で狡猾な悪魔。
西大陸に近づいたあたりからそんな連中との戦いが続き、危機に陥ったふたつの国を目の当たりにした。
女神が封じた千年前の脅威は、恐らくまだその全容を見せていないというのに……
「魔族や魔界のことにはまだまだ辿り着けねえけど、世界中で酷い目に遭ってる人がいるんだって、よくわかった」
「はい。それに、精霊や聖なる種子の力が必要な場面も多かったですね……」
穢された精霊の浄化や魔界の扉を閉じること、結界の修復。それに悪夢に囚われた王の救出は通常ではどうにもできないような事態だったろう。
女神はエイミたちにいくつかの脅威が迫っていることを示し『この世界を頼む』という風な言葉を途切れ途切れながらも残していた。
エイミたちがこれらの事態に遭遇することも、もしかしたらそれを放っておけないことも見越していたのかもしれない。
「それだけ、今はどこもかしこもヤバいってことだよな。オレはオレの目的だけを追ってる場合じゃないんだ」
「けど、こうやって世界を回っていくことで、きっといつか辿り着ける……今はそう思います」
広い空が、世界のどこにでも繋がっているように。
次第に色を変え、星々が輝き始めたそれを見上げ「それに」とフォンドを振り返るエイミ。
「本命を叩く前に、もっともっと力をつけたいですしね!」
可憐な少女の握る拳はぐっと力強く、やはり戦士の顔をしていた。
一瞬、きょとんと虚を突かれた顔をしていたフォンドだったが、やがて眉尻を下げ、白い歯を見せて笑う。
「……はは。やっぱエイミはエイミだ」
「? どうかしましたか?」
「なんでもねぇよ」
綺麗な衣装を着たエイミがお姫様みたいで、どこか遠い世界の人のように感じられて――そんな不安がフォンドの胸を掠めていたが、彼女の本質は何も変わらない。
(当たり前だけど、なんかすげえ安心したなぁ)
どうして急にそんなことがよぎったのか……この時のフォンドは、その理由を考えるまでに至らなかった。