1:都の玄関口
互いに名乗ることすらなく走り去ってしまったエルミナは青年に罪悪感をおぼえながら、どうにかミューと合流することができた。
エルミナは町の出入り口付近にある宿屋の壁に寄りかかると、ふうと一息つく。
「もう、ミューったら。すぐ決めつけて失礼なこと言っちゃだめよ」
『だってあの男、エルミナを見る目がやらしかったわ!』
「き、気のせいじゃないかしら……?」
たとえ青年とのことが気のせいであっても、リプルスーズの町に来てからそういった視線はちらほら向けられていた。竜の血を与えられ強靭な肉体をもつドラゴニカの竜騎士について知らない者から見れば、エルミナは華奢で儚げな雰囲気すら漂う美少女なのだ。
そんな女子が世慣れしていない様子できょろきょろしながら佇んでいたら、視線も集まりやすいというもの。
「……それより、早くルクシアルに向かわないと」
『え、もう出るの? 船旅で疲れたでしょ!? 一旦宿に泊まって……』
「そんな暇はないわ。魔族のこと、女神様にお伝えしないと。ミューはわたしの肩で休んでていいわ」
『そういうことじゃなくてっ……!』
船の中で多少休めたとはいえ、疲れているのはどう考えてもエルミナの方だ。ドラゴニカからずっと、気を張って動いていたのだから。
仲間たちは無事にグリングランに避難できただろうか……魔族が城を拠点にとったこの状況で、いつ動き出すかはわからない。操られた竜が他の町や国に侵出を始めたら、世界中が混乱に陥るだろう。
『……あのね、エルミナ。たぶん竜たちもそう簡単にアイツの思い通りにはならないはずだよ』
「え?」
『こっちは魔物の中でも最強クラスの竜なんだから。相手に同調しないそれを複数掌握するのにはまだ時間がかかると思うの。いくら魔族といえどもね』
高い知能と意思をもち、人の言葉を介する魔物はそう多くない。そんな中で強さと賢さ、気高さを兼ね備えるのが竜という生き物だ。
それらを思い通りに動かすのは難しい――己の言葉を裏付けるようにミューは続けた。
『アイツが竜をけしかけてきた時、動いた竜はほんの一部だけで全部は襲ってこなかったでしょ? パフォーマンスに捕えて見せただけで、実際はまだあまり自由に操れないのよ』
「た、確かに……竜を従えて見下ろすだけで、こちらには絶望を与えられるものね」
『きっと見栄っ張りなのよ、アイツ。それに人間を下に見ているわ。今頃ヨユーこいて城を奪った満足感に浸ってるんじゃない?』
ここまで言って、ミューとエルミナの視線がかち合う。
ぎゅうっと力をこめたミューの眉間には、シワが刻まれていた。
『エルミナ、ちゃんと休んで。ルクシアルまでの道のりで倒れたら元も子もないわよ!』
「ミュー……」
中央大陸に辿り着いたとはいえ、すぐにルクシアルに行けるわけではない。
陽が傾き始めた今、出発するのはあまり得策とは言えないだろう。
「わかったわ。ごめんなさい、心配かけて」
『いいのよ。パートナーでしょ? はぁー、これでフカフカのベッドで寝られるわぁー』
わざとらしくそう言ってみせるミューに、思わずエルミナの口許が綻ぶ。
我慢せず、言いたいことをズバズバ言う。時にはワガママにも見える子竜のミュー。
そんな彼女の本心が優しさに溢れたものであることを、エルミナはよく知っていた。
エルミナは町の出入り口付近にある宿屋の壁に寄りかかると、ふうと一息つく。
「もう、ミューったら。すぐ決めつけて失礼なこと言っちゃだめよ」
『だってあの男、エルミナを見る目がやらしかったわ!』
「き、気のせいじゃないかしら……?」
たとえ青年とのことが気のせいであっても、リプルスーズの町に来てからそういった視線はちらほら向けられていた。竜の血を与えられ強靭な肉体をもつドラゴニカの竜騎士について知らない者から見れば、エルミナは華奢で儚げな雰囲気すら漂う美少女なのだ。
そんな女子が世慣れしていない様子できょろきょろしながら佇んでいたら、視線も集まりやすいというもの。
「……それより、早くルクシアルに向かわないと」
『え、もう出るの? 船旅で疲れたでしょ!? 一旦宿に泊まって……』
「そんな暇はないわ。魔族のこと、女神様にお伝えしないと。ミューはわたしの肩で休んでていいわ」
『そういうことじゃなくてっ……!』
船の中で多少休めたとはいえ、疲れているのはどう考えてもエルミナの方だ。ドラゴニカからずっと、気を張って動いていたのだから。
仲間たちは無事にグリングランに避難できただろうか……魔族が城を拠点にとったこの状況で、いつ動き出すかはわからない。操られた竜が他の町や国に侵出を始めたら、世界中が混乱に陥るだろう。
『……あのね、エルミナ。たぶん竜たちもそう簡単にアイツの思い通りにはならないはずだよ』
「え?」
『こっちは魔物の中でも最強クラスの竜なんだから。相手に同調しないそれを複数掌握するのにはまだ時間がかかると思うの。いくら魔族といえどもね』
高い知能と意思をもち、人の言葉を介する魔物はそう多くない。そんな中で強さと賢さ、気高さを兼ね備えるのが竜という生き物だ。
それらを思い通りに動かすのは難しい――己の言葉を裏付けるようにミューは続けた。
『アイツが竜をけしかけてきた時、動いた竜はほんの一部だけで全部は襲ってこなかったでしょ? パフォーマンスに捕えて見せただけで、実際はまだあまり自由に操れないのよ』
「た、確かに……竜を従えて見下ろすだけで、こちらには絶望を与えられるものね」
『きっと見栄っ張りなのよ、アイツ。それに人間を下に見ているわ。今頃ヨユーこいて城を奪った満足感に浸ってるんじゃない?』
ここまで言って、ミューとエルミナの視線がかち合う。
ぎゅうっと力をこめたミューの眉間には、シワが刻まれていた。
『エルミナ、ちゃんと休んで。ルクシアルまでの道のりで倒れたら元も子もないわよ!』
「ミュー……」
中央大陸に辿り着いたとはいえ、すぐにルクシアルに行けるわけではない。
陽が傾き始めた今、出発するのはあまり得策とは言えないだろう。
「わかったわ。ごめんなさい、心配かけて」
『いいのよ。パートナーでしょ? はぁー、これでフカフカのベッドで寝られるわぁー』
わざとらしくそう言ってみせるミューに、思わずエルミナの口許が綻ぶ。
我慢せず、言いたいことをズバズバ言う。時にはワガママにも見える子竜のミュー。
そんな彼女の本心が優しさに溢れたものであることを、エルミナはよく知っていた。