21:祭の夜
精霊の住処へ向かう前の休養に、王子はクバッサ宮殿への滞在を提案した。
サニーは自分の家があるから、シグルスは宿屋の方が落ち着くからと断ったが、せっかくの厚意を無碍にするのも悪いだろうというモーアンの一言でエイミたちはありがたく部屋を使わせてもらうことに。
「うひゃー! ベッドがふっかふかだぜ!」
荷物を置きに来て早々に隣の部屋から聴こえてきたのははしゃぐフォンドの声だろう。思わずエイミが吹き出した。
『やーねぇ、オコサマってカンジで』
「ふふ。でも本当に寝心地良さそう……あら?」
ベッドの上に畳まれて置いてある服をそっと両手で摘みあげ、しばらく見つめる。
青を基調とした薄くさらりとした肌触りの良い布地は上等なものだろうか。頭に被るヴェールと、ひらひらとした動きによく映えそうな踊り子風だがドレスのようでもあり、どことなく品の良い衣装だ。
『手紙が置いてあるわよ。あの悪魔が贅沢三昧してた時に作らせた服があったからエイミに合わせて直したって』
「い、いつの間に……?」
地下牢から助け出した中に服職人がいたのだろうか。こうして置いてあるということは、着ることを前提としているのか……綺麗な衣装を前に、エイミは眉尻を下げた。
「こんな綺麗な服をわたしが……」
『エイミに着てほしくて用意したんでしょ。これも厚意なんだし着てみなさいよ。きっと似合うわよ』
あちこちに縫いつけられたコインがシャラリと音を立てる。
厚意と言われてしまえば弱いのは、お人好しゆえ。エイミは観念して、着替え始めるのだった。
そして……
「あっ、フォンドも着替えたんですね!」
宮殿の庭。服装こそベストにゆったりしたズボンといつもと違うものだがターバンを被るためいつもより低めに括った黒鳶色の後ろ髪を見つけ、エイミが声をかける。
しかし振り向いたフォンドは一拍置いて目を真ん丸にし、ぽかんと口を半開き状態でエイミを凝視した。
「エイ、ミ……?」
彼が驚くのも無理はない。今のエイミは透き通る青いヴェールを被り、コインや宝石を飾り付けた胸を覆うトップスと、ロング丈ではあるが薄く透けており、腰巻きで隠れた部分より下の脚のラインが見えるスカートを履いて裸足にサンダルといういつもとはまるで違った格好をしていたからだ。
全体的に青系統でまとめた衣装に、普段より露出した腕やヘソや足首。白い肌が眩しく見えて、思わずフォンドは顔を背けた。
「えーと……変、ですか?」
「そそそそんなこたぁねぇけど! すっごく綺麗で似合ってる!」
フォンドの反応を受けて「よかったぁ」とふにゃり微笑むエイミは年相応の少女のようで愛らしい。
その細腕で軽々と槍を振り回す、根っからの戦士だということはフォンドも重々承知しているはずだが、それでも白く細身の体に戦うためのものではない繊細で華麗な衣装を身に着けていると、まるで戦いを知らないお姫様と話しているような気になってしまう。
「ありがとうございます。フォンドもカッコいいですよ」
「おっ、おう……ありがとな」
しばしの沈黙。微妙な間。
どことなくぎこちない二人を遠巻きに見守る周囲の人々はなんだかほっこりしていた。
そしてこんな時真っ先に割って入って引き離しにかかりそうなエイミの相棒はというと……
『ちょっと、離しなさいよ! なんで私が隠れなきゃいけないのよ!』
「まぁまぁ。僕たちもミズベリアを散歩でもしようよ、お嬢さん」
エイミとフォンドの空気を察したモーアンに、なかば強引に連れられどこかへ消えていったという。
サニーは自分の家があるから、シグルスは宿屋の方が落ち着くからと断ったが、せっかくの厚意を無碍にするのも悪いだろうというモーアンの一言でエイミたちはありがたく部屋を使わせてもらうことに。
「うひゃー! ベッドがふっかふかだぜ!」
荷物を置きに来て早々に隣の部屋から聴こえてきたのははしゃぐフォンドの声だろう。思わずエイミが吹き出した。
『やーねぇ、オコサマってカンジで』
「ふふ。でも本当に寝心地良さそう……あら?」
ベッドの上に畳まれて置いてある服をそっと両手で摘みあげ、しばらく見つめる。
青を基調とした薄くさらりとした肌触りの良い布地は上等なものだろうか。頭に被るヴェールと、ひらひらとした動きによく映えそうな踊り子風だがドレスのようでもあり、どことなく品の良い衣装だ。
『手紙が置いてあるわよ。あの悪魔が贅沢三昧してた時に作らせた服があったからエイミに合わせて直したって』
「い、いつの間に……?」
地下牢から助け出した中に服職人がいたのだろうか。こうして置いてあるということは、着ることを前提としているのか……綺麗な衣装を前に、エイミは眉尻を下げた。
「こんな綺麗な服をわたしが……」
『エイミに着てほしくて用意したんでしょ。これも厚意なんだし着てみなさいよ。きっと似合うわよ』
あちこちに縫いつけられたコインがシャラリと音を立てる。
厚意と言われてしまえば弱いのは、お人好しゆえ。エイミは観念して、着替え始めるのだった。
そして……
「あっ、フォンドも着替えたんですね!」
宮殿の庭。服装こそベストにゆったりしたズボンといつもと違うものだがターバンを被るためいつもより低めに括った黒鳶色の後ろ髪を見つけ、エイミが声をかける。
しかし振り向いたフォンドは一拍置いて目を真ん丸にし、ぽかんと口を半開き状態でエイミを凝視した。
「エイ、ミ……?」
彼が驚くのも無理はない。今のエイミは透き通る青いヴェールを被り、コインや宝石を飾り付けた胸を覆うトップスと、ロング丈ではあるが薄く透けており、腰巻きで隠れた部分より下の脚のラインが見えるスカートを履いて裸足にサンダルといういつもとはまるで違った格好をしていたからだ。
全体的に青系統でまとめた衣装に、普段より露出した腕やヘソや足首。白い肌が眩しく見えて、思わずフォンドは顔を背けた。
「えーと……変、ですか?」
「そそそそんなこたぁねぇけど! すっごく綺麗で似合ってる!」
フォンドの反応を受けて「よかったぁ」とふにゃり微笑むエイミは年相応の少女のようで愛らしい。
その細腕で軽々と槍を振り回す、根っからの戦士だということはフォンドも重々承知しているはずだが、それでも白く細身の体に戦うためのものではない繊細で華麗な衣装を身に着けていると、まるで戦いを知らないお姫様と話しているような気になってしまう。
「ありがとうございます。フォンドもカッコいいですよ」
「おっ、おう……ありがとな」
しばしの沈黙。微妙な間。
どことなくぎこちない二人を遠巻きに見守る周囲の人々はなんだかほっこりしていた。
そしてこんな時真っ先に割って入って引き離しにかかりそうなエイミの相棒はというと……
『ちょっと、離しなさいよ! なんで私が隠れなきゃいけないのよ!』
「まぁまぁ。僕たちもミズベリアを散歩でもしようよ、お嬢さん」
エイミとフォンドの空気を察したモーアンに、なかば強引に連れられどこかへ消えていったという。