21:祭の夜

「レーゲン、よくぞ……よくぞやり遂げてくれた」
「父上……!」

 ラーラと名乗っていた悪魔・テプティの手からミズベリアを解放したエイミたちが最初に見たものは、無事の再会を喜ぶルフトゥ王とレーゲン王子の親子の抱擁であった。
 幽霊船を経て西大陸にやって来てから続いていた悪魔との戦いに、これでようやくひとまずの終わりを告げることになる。

「サニー、皆……ここまで共に戦ってくれて、心から感謝する。ここからは我々が自力で元の……いや、より良い国へと進んでいく番だ」
「ああ。まずは民の生活を元に戻していくのと、騎士王国との同盟の準備を急がねばな」

 かつてはおとぎ話の存在だった千年前の脅威があちこちで暗躍し、事実この二国は危うく滅ぼされるところだった。
 今は互いに結束を強め、助け合う時だろう。レーゲン王子はディフェットでの謁見時に、あちらの王から同盟の提案を持ち帰っていたようだ。

「そういう訳だから、そなたたちはゆっくり体を休めてくれ。今の我々にできることは少ないが、心から歓迎しよう」
「ありがとうございます」

 エイミがぺこりと頭を下げると、レーゲンは「ああ、それから」と続ける。

「そなたたちは精霊を探しているそうだな。ミズベリアの近くには火の精霊ルベインが住まう地がある。後日案内させよう」

 西大陸の中でも特にこの砂漠地帯は火の精霊の強い影響を受けた土地だ。
 そういえば、最初に砂漠に足を踏み入れた時に、地精霊が何やら気になることを言っていたような……とモーアンが記憶の端に引っ掛かっていた事柄を手繰り寄せていた時、

「はいはーい! 案内ならアタシが行くよ!」

 ぴょこんと元気よく手をあげて、サニーが話に入ってきた。

「もともとミズベリアの人ならみんな知ってる場所だし、兵士さんも宮殿の人たちもみんな復興に忙しいでしょ?」
「サニー……ありがとう。それならそなたに頼もう」
「まっかせといてよ、レイン!」

 自信ありげに反った胸を力いっぱい叩いて見せ、サニーが笑う。
 エイミたちの次の目的地と同行者が決まった訳だが、ここにはもう一人、そのどちらでもない人物がいるわけで……

「シグルス兄ちゃんも一緒に行こうよ!」

 ディフェットの騎士、シグルス。今回の件では主君の命と、悪魔の手がかりを求めて同行していた。
 ミズベリアを取り戻した今、彼が同行する理由もなくなったのだが、

「もしかして、一人でさっさと旅立っちまうつもりかよ?」
「えぇ、それは寂しいなぁ」
「それに砂漠の一人旅は危険ですよ。急ぎたい事情はわかりますが……」

 こう口々に言われてしまえば、さすがの仏頂面騎士もたじろぐしかない。

「……まだ何も言っていないだろ」

 じっと訴えてくるエイミたちの視線に押し負けて、シグルスは長い溜息を吐き出した。
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