19:希望の光

 地下道の出口が繋がっていた場所は、町と同じく特に意味のないような行き止まり。そのすぐ近くには地下牢があった。
 声がしたのは牢からで、行ってみると力なく横たわる囚人たちはどうも悪人には見えない者ばかり。

『ここもディフェットみたいに罪のない人たちが囚われているのかしらね……』
「そのとおりだ」

 ミューの独り言に、囚人のひとり――先ほどの声の主が答えた。
 スッと立ち上がる所作すらも気品を感じられるような、明らかに場違いな壮年の男。涼やかな目元はどこかレーゲン王子と似ているようだが……

「ち、父上……!?」
「レーゲン、無事であったか」

 驚きの声をあげそうになったエイミたちが慌てて口元を押さえる。
 王子の父ということは、この国の王ルフトゥ……サニーの情報では、少し前から姿を見せなくなったという話だが、

「そうか、あの女……とうとう父上まで排除したのか」
「どうやら“魅了”の術を得意としていたようだがな。私は他の者より効きが悪く、何度もかけ直されていた。その合間だけ意識が少し戻りかけていたのだが……」

 ラーラの術にかけられていた者は皆、虚ろな目をして彼女の意のまま、有利になるように動く。
 効きが悪いという言葉通り、今のルフトゥ王の目にはしっかりと光が宿っていた。

「術が切れる度に戻った意識で得た情報を繋ぎ合わせ、先日ついに強く抵抗することに成功したのだが……兵士も臣下もすっかり掌握されており、私は牢に閉じ込められてしまった」
「なんてこと……!」

 そうやって邪魔者がいなくなったこの国で、ラーラの暴走はエスカレートしていったのだろう。
 意識が戻ったゆえに、民を想う賢王が牢獄でどれだけ苦しんだか……エイミは胸に置いた手をぎゅっと握り締めた。

「遠き異国の者たち……見れば個性的な取り合わせだが、そなたたちは助けに来てくれたのだろう?」
「はい」
「すまないな。無事この国を取り戻せた暁には、是非礼をさせてほしい」

 あまり長居をすると危険だと促して、ルフトゥは再び冷たい床に座り込んだ。
 一行はそれを汲み取ると、速やかに地下牢をあとにする。
 やがて地下牢にもとの静けさが戻り、ルフトゥの体から力が抜けた。

「そうか……無事であったか……」

 しみじみと、噛み締める一言。すると周りの牢からももぞもぞと人が動く気配がする。

「……良かったですね、王様」
「王子も立派に成長されて……その上、協力者まで……!」
「ああ。彼らはミズベリアに現れた希望の光だ」

 罪なき囚人たちの潜めた声は、それでも喜びを隠せず僅かに弾んでいる。
 ルフトゥ王もそれは同様で、彼は穏やかに目を細め、久し振りに心からの笑顔を見せた。
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