19:希望の光
宮殿へ続く地下通路は遠い昔に舗装されて以降、ほとんど使われていなかったのだろう。しっかりした造りだが、だいぶ古びてもいた。
万が一何者かに侵入されても惑わせるよう迷路のようになっているんだと説明しながら、レーゲン王子は首に提げたペンダントを軽く持ち上げた。
飾り石から道を示すように光がのびていくのを確認し、王子がエイミたちを振り返る。
「正しい道はこうやって、王家の者にはわかるようになっているんだ」
「すごいですね……ここの入口が開いた時といい、どういった仕掛けなんでしょう?」
「この鍵も王家の血を引く者でないと発動しないという話らしいが……魔法的な知識は私にもさっぱりだ」
純粋な好奇心でまじまじと見つめるエイミに、王子は肩をすくめて笑う。
道さえわかればあとは進むのみ。こんな地下道は早く抜けてしまおうと誰もが思ったその時だったが……
「王子、お下がりください。嫌な気配がする」
「なに?」
「シグルス兄ちゃん、任せたよ」
シグルスが剣を抜きながら前に進み出ると、サニーが王子に付き添って後退する。
天井を這う半透明の軟体がぼとりと落ち、盛り上がった箇所にニヤついた顔が出現した。どうやらスライムのようだ。
「王家の抜け道に魔物が……」
「見た所かなり古いから、分かれ道のどこかで壁が壊れて侵入したのかもしれないね」
エイミたちも続けて武器を構える。迅速に倒して、先へと進まねば。
「こんなところで立ち止まっていられないんだ。退け!」
シグルスの剣が魔法の光を帯び、きらりと煌めいた。
それからというもの、魔物との遭遇は何度かあったが、先を急ぐ彼らの敵ではなく……
モーアンとサニーで王子を守り、前衛の三人が魔物を蹴散らすという形で難なく戦い抜くことができた。
「……着いた。この梯子をのぼれば宮殿だ」
「いよいよだね、レイン」
サニーはそう言うと、真っ先に梯子に手をかけた。
潜入活動にはこの中の誰よりも慣れている。まずは自分が行って安全を確かめてくると説明して。
しばらくすると、出口からひょっこりと覗いたサニーが笑顔で手を振った。
「大丈夫みたいだよ。みんなも来て!」
「おう!」
そうして彼らはクバッサ宮殿に足を踏み入れた。
全員が出たのを確認すると、王子が鍵を掲げて出入り口を閉める。
夜遅く、薄暗い宮殿の地下はぞっとするほど静まり返っていた。
「……なんだか、冷たいですね」
砂漠の夜は冷えるというが、それだけではない冷ややかさを感じて自然とエイミの手がもう片方の上腕に触れる。
と、その時であった。
「!」
「シグルスさん?」
ふいにバッと上を向いたシグルスを不思議に思い、エイミが首を傾げる。
赤い瞳が天井を鋭く睨み、ぐっと歯を食い縛り……彼の全身に力が入っているのが傍目からでもわかるほどで。
「悪魔が……」
「え?」
「陛下の夢の中で戦った悪魔が言っていた。エルフの血を引いている俺には悪魔の気配がわかるのだと……確かに、上の階にそれらしい気配がある。さっきまで戦ってきた魔物たちとは、明らかに違う嫌な気配が」
シグルスはそこまで言うと、嫌悪を吐き捨てるように続ける。
「陛下を襲い俺を陥れたあいつと、よく似た気配が……!」
強い怒りと憎悪は、悪魔たちにはご馳走になる。
それら負の感情を抑え込み、はぁ、と長い溜息を吐き出すと、シグルスはレーゲン王子に向き直った。
「王子、案内をお願いします。悪魔がいるだろう方向は感じ取れますが、宮殿の構造はわかりませんので」
「ああ。任せてくれ」
王子が頷き、歩き出したその瞬間。
「誰か、そこにいるのか……?」
か細く弱ってはいるが芯のある男の声が、一行の足を止めた。
万が一何者かに侵入されても惑わせるよう迷路のようになっているんだと説明しながら、レーゲン王子は首に提げたペンダントを軽く持ち上げた。
飾り石から道を示すように光がのびていくのを確認し、王子がエイミたちを振り返る。
「正しい道はこうやって、王家の者にはわかるようになっているんだ」
「すごいですね……ここの入口が開いた時といい、どういった仕掛けなんでしょう?」
「この鍵も王家の血を引く者でないと発動しないという話らしいが……魔法的な知識は私にもさっぱりだ」
純粋な好奇心でまじまじと見つめるエイミに、王子は肩をすくめて笑う。
道さえわかればあとは進むのみ。こんな地下道は早く抜けてしまおうと誰もが思ったその時だったが……
「王子、お下がりください。嫌な気配がする」
「なに?」
「シグルス兄ちゃん、任せたよ」
シグルスが剣を抜きながら前に進み出ると、サニーが王子に付き添って後退する。
天井を這う半透明の軟体がぼとりと落ち、盛り上がった箇所にニヤついた顔が出現した。どうやらスライムのようだ。
「王家の抜け道に魔物が……」
「見た所かなり古いから、分かれ道のどこかで壁が壊れて侵入したのかもしれないね」
エイミたちも続けて武器を構える。迅速に倒して、先へと進まねば。
「こんなところで立ち止まっていられないんだ。退け!」
シグルスの剣が魔法の光を帯び、きらりと煌めいた。
それからというもの、魔物との遭遇は何度かあったが、先を急ぐ彼らの敵ではなく……
モーアンとサニーで王子を守り、前衛の三人が魔物を蹴散らすという形で難なく戦い抜くことができた。
「……着いた。この梯子をのぼれば宮殿だ」
「いよいよだね、レイン」
サニーはそう言うと、真っ先に梯子に手をかけた。
潜入活動にはこの中の誰よりも慣れている。まずは自分が行って安全を確かめてくると説明して。
しばらくすると、出口からひょっこりと覗いたサニーが笑顔で手を振った。
「大丈夫みたいだよ。みんなも来て!」
「おう!」
そうして彼らはクバッサ宮殿に足を踏み入れた。
全員が出たのを確認すると、王子が鍵を掲げて出入り口を閉める。
夜遅く、薄暗い宮殿の地下はぞっとするほど静まり返っていた。
「……なんだか、冷たいですね」
砂漠の夜は冷えるというが、それだけではない冷ややかさを感じて自然とエイミの手がもう片方の上腕に触れる。
と、その時であった。
「!」
「シグルスさん?」
ふいにバッと上を向いたシグルスを不思議に思い、エイミが首を傾げる。
赤い瞳が天井を鋭く睨み、ぐっと歯を食い縛り……彼の全身に力が入っているのが傍目からでもわかるほどで。
「悪魔が……」
「え?」
「陛下の夢の中で戦った悪魔が言っていた。エルフの血を引いている俺には悪魔の気配がわかるのだと……確かに、上の階にそれらしい気配がある。さっきまで戦ってきた魔物たちとは、明らかに違う嫌な気配が」
シグルスはそこまで言うと、嫌悪を吐き捨てるように続ける。
「陛下を襲い俺を陥れたあいつと、よく似た気配が……!」
強い怒りと憎悪は、悪魔たちにはご馳走になる。
それら負の感情を抑え込み、はぁ、と長い溜息を吐き出すと、シグルスはレーゲン王子に向き直った。
「王子、案内をお願いします。悪魔がいるだろう方向は感じ取れますが、宮殿の構造はわかりませんので」
「ああ。任せてくれ」
王子が頷き、歩き出したその瞬間。
「誰か、そこにいるのか……?」
か細く弱ってはいるが芯のある男の声が、一行の足を止めた。