19:希望の光
「みんなが来るまでにできるだけ様子を探ってみたけど、ひどい有り様だったよ」
サニーの話によると、ふたりを追い出した後のラーラはまるで自分が女王になったかのように振る舞っているのだという。
貴族街はまだどうにかなっているが、下層部ではその日の食糧や飲み水にも困るほど。そんなこともお構いなしにやりたい放題の悪女に誰も文句を言わず、兵士たちは喜んで従っているらしい。
「そんな……そんな状況を、賢王と名高いルフトゥ王も受け入れているというのですか?」
遠く北大陸の山奥ドラゴニカで外に出たことがないエイミのもとですら、ミズベリアを変えた王の名声は届いている。
過酷な環境で生まれた貧富の差を少しずつ無くし、かつては貧民街と呼ばれていたこの下層部の治安もかなり改善されていた、と。
「それが……父上は、少し前から人前に出ていないらしい」
「え?」
「父上はよく民の前に姿を見せ、その声に耳を傾ける王だった。噂では重い病にかかってしまったのではとか、いろいろ言われているのだが……そうだとしてもあの女が我が物顔で出張っているのはおかしい」
ラーラはあくまで砂漠で行き倒れていたのを救われた人物というだけで、王妃になった訳ではない。
ディフェットでのことを考えれば、恐らく何らかの術を用いて人々から正常な判断力を奪っているのだろう。
「何はなくとも、ラーラをなんとかしなきゃいけない。わかりやすい目標ではあるけど……」
宮殿にはラーラの意のままに動く兵士たちが彼女を守っていることだろう。入口から入ることさえ容易なことではないと、モーアンは腕組みをして唸った。
「ああ。だから作戦会議をするのだ」
「レインは最初アタシに接触した時、誰にも気づかれずに宮殿からこの下層部に来たんだ。どうやってだと思う?」
レインことレーゲン王子は王族として戦う術は多少身につけているものの、サニーほど身軽でもなければ気配を消す術にも長けていない。
そして宮殿の出入り口は兵士が守っており、さらに下層部へ向かうには貴族街を通る必要がある。
地図で指し示しながら説明していたサニーの指が、この近くの路地裏の行き止まりに移動した。
「ここに何かあるのか?」
「レインが言うには、隠し通路らしいよ」
当然のことながら、地図には何も記されていない。下層部の裏道のこんな何の変哲もない場所に注目する者などいないだろう。
「ずっとここに住んでたアタシも知らなかったんだけど、地下への入口があるんだってさ」
「サニーが知らないのも無理はない。入口の扉は王家の鍵に反応して開くんだが、普段見た目にはわからないようになっているからな」
王家の者が近づいた時にだけ、その存在を明らかにする隠し通路。
ミズベリアで義賊として活動しているサニーが気づかないのだから、侵入経路の候補としてこれほどのものはない。
「通路は宮殿の地下と二階にある玉座の裏にそれぞれ繋がっている……が、玉座の裏は脱出用の一方通行でこちらからは行けないんだ」
「地下に出て、そこから上を目指せばいいんだな?」
フォンドが問えば、静かに頷くレーゲン王子。
二階は玉座の間の他に王族の部屋もある。ラーラがいるのは少なくとも二階のどこかだろう。
「相手はこちらの常識を超えた存在だ。今日は宿屋でしっかり休んで、万全に調えてから決行しよう……それで問題ありませんか、王子?」
「ああ。しっかり身体を休めてくれ」
モーアンはわかりました、と微笑み、仲間たちを振り返る。
本当ならすぐにでも乗り込みたいところだが、魔物もうろつく砂漠を越えて来た一行には少なからず疲れが残っている。
決行は、明日。潜入の流れを確認すると、彼らはひとまず解散するのだった。
サニーの話によると、ふたりを追い出した後のラーラはまるで自分が女王になったかのように振る舞っているのだという。
貴族街はまだどうにかなっているが、下層部ではその日の食糧や飲み水にも困るほど。そんなこともお構いなしにやりたい放題の悪女に誰も文句を言わず、兵士たちは喜んで従っているらしい。
「そんな……そんな状況を、賢王と名高いルフトゥ王も受け入れているというのですか?」
遠く北大陸の山奥ドラゴニカで外に出たことがないエイミのもとですら、ミズベリアを変えた王の名声は届いている。
過酷な環境で生まれた貧富の差を少しずつ無くし、かつては貧民街と呼ばれていたこの下層部の治安もかなり改善されていた、と。
「それが……父上は、少し前から人前に出ていないらしい」
「え?」
「父上はよく民の前に姿を見せ、その声に耳を傾ける王だった。噂では重い病にかかってしまったのではとか、いろいろ言われているのだが……そうだとしてもあの女が我が物顔で出張っているのはおかしい」
ラーラはあくまで砂漠で行き倒れていたのを救われた人物というだけで、王妃になった訳ではない。
ディフェットでのことを考えれば、恐らく何らかの術を用いて人々から正常な判断力を奪っているのだろう。
「何はなくとも、ラーラをなんとかしなきゃいけない。わかりやすい目標ではあるけど……」
宮殿にはラーラの意のままに動く兵士たちが彼女を守っていることだろう。入口から入ることさえ容易なことではないと、モーアンは腕組みをして唸った。
「ああ。だから作戦会議をするのだ」
「レインは最初アタシに接触した時、誰にも気づかれずに宮殿からこの下層部に来たんだ。どうやってだと思う?」
レインことレーゲン王子は王族として戦う術は多少身につけているものの、サニーほど身軽でもなければ気配を消す術にも長けていない。
そして宮殿の出入り口は兵士が守っており、さらに下層部へ向かうには貴族街を通る必要がある。
地図で指し示しながら説明していたサニーの指が、この近くの路地裏の行き止まりに移動した。
「ここに何かあるのか?」
「レインが言うには、隠し通路らしいよ」
当然のことながら、地図には何も記されていない。下層部の裏道のこんな何の変哲もない場所に注目する者などいないだろう。
「ずっとここに住んでたアタシも知らなかったんだけど、地下への入口があるんだってさ」
「サニーが知らないのも無理はない。入口の扉は王家の鍵に反応して開くんだが、普段見た目にはわからないようになっているからな」
王家の者が近づいた時にだけ、その存在を明らかにする隠し通路。
ミズベリアで義賊として活動しているサニーが気づかないのだから、侵入経路の候補としてこれほどのものはない。
「通路は宮殿の地下と二階にある玉座の裏にそれぞれ繋がっている……が、玉座の裏は脱出用の一方通行でこちらからは行けないんだ」
「地下に出て、そこから上を目指せばいいんだな?」
フォンドが問えば、静かに頷くレーゲン王子。
二階は玉座の間の他に王族の部屋もある。ラーラがいるのは少なくとも二階のどこかだろう。
「相手はこちらの常識を超えた存在だ。今日は宿屋でしっかり休んで、万全に調えてから決行しよう……それで問題ありませんか、王子?」
「ああ。しっかり身体を休めてくれ」
モーアンはわかりました、と微笑み、仲間たちを振り返る。
本当ならすぐにでも乗り込みたいところだが、魔物もうろつく砂漠を越えて来た一行には少なからず疲れが残っている。
決行は、明日。潜入の流れを確認すると、彼らはひとまず解散するのだった。