19:希望の光

 西大陸にあるオアシスの町ミズベリア。
 エイミたち一行が厳しい砂漠をどうにか越え、宮殿を囲む町並みを見つけた時はこれまでの疲れが一時的に吹き飛ぶ心地だった。
 けれどもその喜色は、町に入った途端に萎むこととなる。

「予想はしていたけれど、どんよりしてるね……」
「ああ。ディフェットとはまた違った嫌な感じだな……」

 目立たないように下層部側から入ったため、ラーラと名乗る悪魔の影響をより顕著に感じる。
 ディフェットの時のようにあからさまな疑念や敵意は向けられないが、誰もが背中を丸めて俯き、沈んだ顔をしていて、足取りも重い。
 まだ昼間だというのに、心なしか空が薄暗いような気さえするほどだ。

「せっかく王様が頑張って良くしてくれてたのに、また元の“貧民街”に戻っちゃったんだよ」

 と、重苦しい空気に呑まれそうになった一行の背後から、聞き覚えのある少女の声がした。

「サニー……!」
「しーっ。とりあえずこっち来て」

 ミズベリアの民に多い褐色の肌。金髪に目の色と同じ人参色のターバンを巻いた、快活そうな少女。
 物陰から気配もなく現れたサニーは声を潜めて手招きをし、エイミたちを導く。

(随分と入り組んでいるのね……)

 日干しレンガ造りの四角い家々が並ぶ道を外れ、迷路のような路地裏を目立たないように歩き、辿り着いたのは下層部の端にひっそりと佇む小さな四角い家だった。

「ここは?」
「アタシの家。町の人たちはラーラの術にかかってないけど、外は兵士がうろついてる。念のためここで話すよ」

 みんなも待ってるよ、とサニーが扉を開けると、予想通りの狭さの中にシグルスとレーゲン王子がちょこんとテーブルについていた。
 長身の無愛想な男と向き合う王子様の図は、なんとも気の毒に思えてくる。

「さすがにこの人数だと狭いね。椅子が足りないや」
「ああ、大丈夫だぜ。話を聞いたらすぐ宿屋に移るから」

 旅の疲れはあるけれど、休むにしても一足先にミズベリアに着いていた彼らから話を聞いてからの方がいいだろう。
 そんな体力が残っていたのはミューがエイミたちを冷気のバリアで包んでくれていたからなのだが、さすがに疲れたのか彼女はモーアンの頭上で休んでいた。

「それじゃあ、話そうか。ミズベリアの現状と、取り戻すための作戦会議を!」

 ばん、と勢いよくテーブルを叩いたサニーだったが、レーゲン王子に声が大きいぞと人差し指を立てて窘められる。
 そんな、一見するとやや緊張感に欠けるサニーたちだったが……

「今度こそ、絶対に勝つんだ……!」

 悔しさを絞り出すような声。ぐっと握り締めた小さな拳が震えている。
 少女の本気は、この場にいる誰の目から見ても明らかなものであった。
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