18:砂漠の地へ
カッ!
などという音がしそうなくらいに容赦なく照らす太陽と、さらさらとした砂を踏みしめる、少し心許ない足元。
慣れない砂漠の道のりは、三人の足を重くさせる。
大人数では目立つのとミズベリアの様子を探るため、もともとミズベリア出身のレーゲン王子とサニー、そして護衛としてシグルスが別行動で先に行っているのだが、そうしておいて良かったと現在の状況を見て改めて感じた。
『あ……あづいわ……』
中でも一番堪えていたのが寒冷地育ちかつ体が小さなミューで、白い翼状のヒレをばたつかせ、ふらふらと必死に飛んでいる。
「ミュー、大丈夫? わたしの肩で休んでても……」
『た、耐えてみせるわ、これしきのこと』
『アクリアがいれば暑さを和らげられたんだろうがな』
ふいに地精霊が挙げた耳慣れない名前に、フォンドが首を傾げる。
「アクリア?」
「水の精霊さんの名前ですよ。ドラゴニカの近くに住処があるそうです」
「確かに……水の精霊ならこの暑さもなんとかしてくれそうだなぁ」
ディフェット王から国宝のリュックを託されていなければ、荷物の大きさと重さでただでさえ体力のないモーアンも潰れていただろう。
「本で知識として知ってても、実際に立つと全然違うねぇ」
『いや、こいつは様子がおかしいな……』
むむ、と地精霊ガネットが顎髭に手を置いて唸る。
その視線は、彼が司る大地……足元に広がる一面の砂漠へと。
「ガネットさん、何か感じるんですか?」
『ルベイン……火の精霊が怒ってるみてえだ。異常な暑さはそのせいだな。ミズベリアの件が片付いたら、奴の住処に向かった方が良さそうだぜ』
『普段から暑苦しい奴とはいえ、ここまでする奴じゃあないハズなんじゃが……』
光精霊がそう言うと地精霊から『おめえが言うか……?』とばかりのじとりとした視線が向けられた。
火精霊のことは気になるが、今はミズベリアを救う方が優先だろう。
「まずはミズベリアに無事に辿り着かないとね……僕たちが干からびる前に」
『ちょっと、縁起でもないコト言わないでよぉ……』
いつもなら威勢良く食ってかかるミューの声も力なく、ぐったりとしている。
先に行ったメンバーは今頃どこまで進んでいるだろうか………ゆらゆらと霞む景色に目眩がしそうで、フォンドは顔の前に手をかざした。
『……というかよぉ、おめえ水竜だろ? 水や氷を操るとか、冷たい息を吐くとかできるんじゃないのかよ?』
『へ?』
「なんだよそれ、そんなすげぇことできるのか?」
地精霊とフォンドの言葉にミューはしばし考え、過去の記憶を手繰り寄せた。
そういえば、先輩竜がそんなことを言っていたかもしれない……当時は強くなって外の世界に出るつもりなどなかったから、真面目に聞いていなかった、と。
(確か、竜には自分の属性の魔力を溜めておく器官があって、魔法みたいに操れるって……)
冷静になって己の内側に意識を向ければ、冷たい水の魔力が流れている。
まるで鍛えることに興味がなかったあの頃とは違って、成長した今ならできるかもしれない。
『……えいっ!』
ミューはその魔力を薄く引き伸ばし、我が身に纏わせた。
茹だるような暑さは遮断され、代わりにひんやりとした心地よさに包まれる。
『なにコレ涼しーい……』
「あっ、何だよそれすげぇ!」
『ふふん、どんなもんよ! 必死に頼み込むならアンタたちにもやってあげていいわよ!』
さっきまでの弱々しく、本当に干からびてしまいそうな姿はどこへやら。得意気に飛び回る姿に、エイミとモーアンは吹き出した。
「やれやれ、これで遅れは取り戻せそうかな?」
「ふふ、そうみたいですね」
こうしてエイミたちの足取りは軽くなり、ミズベリアを目指して再び歩き出す。
青く晴れ渡った空の下、遠くうっすらと白い宮殿が見え始めていた。
などという音がしそうなくらいに容赦なく照らす太陽と、さらさらとした砂を踏みしめる、少し心許ない足元。
慣れない砂漠の道のりは、三人の足を重くさせる。
大人数では目立つのとミズベリアの様子を探るため、もともとミズベリア出身のレーゲン王子とサニー、そして護衛としてシグルスが別行動で先に行っているのだが、そうしておいて良かったと現在の状況を見て改めて感じた。
『あ……あづいわ……』
中でも一番堪えていたのが寒冷地育ちかつ体が小さなミューで、白い翼状のヒレをばたつかせ、ふらふらと必死に飛んでいる。
「ミュー、大丈夫? わたしの肩で休んでても……」
『た、耐えてみせるわ、これしきのこと』
『アクリアがいれば暑さを和らげられたんだろうがな』
ふいに地精霊が挙げた耳慣れない名前に、フォンドが首を傾げる。
「アクリア?」
「水の精霊さんの名前ですよ。ドラゴニカの近くに住処があるそうです」
「確かに……水の精霊ならこの暑さもなんとかしてくれそうだなぁ」
ディフェット王から国宝のリュックを託されていなければ、荷物の大きさと重さでただでさえ体力のないモーアンも潰れていただろう。
「本で知識として知ってても、実際に立つと全然違うねぇ」
『いや、こいつは様子がおかしいな……』
むむ、と地精霊ガネットが顎髭に手を置いて唸る。
その視線は、彼が司る大地……足元に広がる一面の砂漠へと。
「ガネットさん、何か感じるんですか?」
『ルベイン……火の精霊が怒ってるみてえだ。異常な暑さはそのせいだな。ミズベリアの件が片付いたら、奴の住処に向かった方が良さそうだぜ』
『普段から暑苦しい奴とはいえ、ここまでする奴じゃあないハズなんじゃが……』
光精霊がそう言うと地精霊から『おめえが言うか……?』とばかりのじとりとした視線が向けられた。
火精霊のことは気になるが、今はミズベリアを救う方が優先だろう。
「まずはミズベリアに無事に辿り着かないとね……僕たちが干からびる前に」
『ちょっと、縁起でもないコト言わないでよぉ……』
いつもなら威勢良く食ってかかるミューの声も力なく、ぐったりとしている。
先に行ったメンバーは今頃どこまで進んでいるだろうか………ゆらゆらと霞む景色に目眩がしそうで、フォンドは顔の前に手をかざした。
『……というかよぉ、おめえ水竜だろ? 水や氷を操るとか、冷たい息を吐くとかできるんじゃないのかよ?』
『へ?』
「なんだよそれ、そんなすげぇことできるのか?」
地精霊とフォンドの言葉にミューはしばし考え、過去の記憶を手繰り寄せた。
そういえば、先輩竜がそんなことを言っていたかもしれない……当時は強くなって外の世界に出るつもりなどなかったから、真面目に聞いていなかった、と。
(確か、竜には自分の属性の魔力を溜めておく器官があって、魔法みたいに操れるって……)
冷静になって己の内側に意識を向ければ、冷たい水の魔力が流れている。
まるで鍛えることに興味がなかったあの頃とは違って、成長した今ならできるかもしれない。
『……えいっ!』
ミューはその魔力を薄く引き伸ばし、我が身に纏わせた。
茹だるような暑さは遮断され、代わりにひんやりとした心地よさに包まれる。
『なにコレ涼しーい……』
「あっ、何だよそれすげぇ!」
『ふふん、どんなもんよ! 必死に頼み込むならアンタたちにもやってあげていいわよ!』
さっきまでの弱々しく、本当に干からびてしまいそうな姿はどこへやら。得意気に飛び回る姿に、エイミとモーアンは吹き出した。
「やれやれ、これで遅れは取り戻せそうかな?」
「ふふ、そうみたいですね」
こうしてエイミたちの足取りは軽くなり、ミズベリアを目指して再び歩き出す。
青く晴れ渡った空の下、遠くうっすらと白い宮殿が見え始めていた。