18:砂漠の地へ
「わかった。そこまで言うならもう止めはせぬ」
ディフェット王は深い溜息を吐き、それから一拍おいてエイミたちの方を向く。
「旅の者たちよ……そなたらに頼みがある。今回の件に力を貸してほしい」
王がこの申し出をしてくることは予想していたため、誰ひとり驚かなかった。
浄化の力や精霊の助力。エイミたちの助けなくしては、悪魔の呪いは解けなかっただろうから。
「わたしは……」
エイミは両隣の仲間たちをちらりと窺った。自分だけなら即決できるが、彼らはどうなのだろうか、と。
(断る理由、ないだろ?)
(ここまで首を突っ込んじゃったしね)
フォンドとモーアン、言葉はなくともふたりの笑顔と頷きで意図は伝わる。
ミューはというと、仕方ないわね、といった風に溜息をついていて……エイミがどう答えるか、誰もがもうわかっているようだった。
(魔族とは関係ないかもしれない。でも……この方たちも国を奪われたんだわ。それを放っておくなんて、わたしにはできない!)
もしかしたら手がかりに繋がるかもしれないし、ただの寄り道になってしまうかもしれない。
けれどもそういう打算よりも、自分と同じく国を奪われた被害者として、彼らの力になりたいのだ。
仲間の気持ちはひとつ。彼らも背中を押してくれている。それならば……
「……わたしも、大切な国……ドラゴニカを、卑劣な魔族によって奪われました。同じ苦しみを抱える方たちを、見過ごすなんてできません」
エイミの言葉に、フォンドがごくりと息を呑む。
卑劣な魔族、というたった一言に普段の彼女からは想像もつかないほど低い声音と、強い憎悪が感じられたからだ。
それに気づいてか気づかずか、王はゆっくりと頷いた。
「そうか、ありがとう。ではまず、ひとつ贈り物をさせてほしい」
「贈り物、ですか?」
「ああ。あれを持ってきてくれ」
王が手を叩くと、騎士のひとりが大きなカバンを大事そうに抱えてきた。
色はブラウンよりやや明るいキャメル。使い込まれた革製で、しっかりした造りをしていて、手提げ用の持ち手もあるが、リュックにもショルダーにもできるようだ。
フラップの部分には白い翼の紋様が刻まれていて、前見頃には魔法陣のようなものが描かれている。
どこでも手に入るようなカバンとは違うようだが……エイミたちが首を傾げた。
「これは……?」
「これはだな……“なんでもはいリュック”だ」
『へ?』
しん、と静まり返る謁見の間。ややあって、王が頬を赤らめながら咳払いをした。
「い……一応、正式名称なのだ……女神レレニティアが活躍した時代からの由緒ある品でな。重さは変わらずいくらでも荷物が入る古代の魔法道具だ」
なんでも入るリュック略してなんでもはいリュック、という酔っ払った勢いでつけたような安直なネーミングにそぐわぬ風格を漂わせる鞄。
千年前の品だという割には劣化はなく、いくらでも入るという話が事実ならどれだけ旅の助けになるだろうか。
「陛下、それはディフェットの国宝なのでは……?」
「こっ、国宝!?」
シグルスの口からしれっと飛び出した言葉に、モーアンが飛び上がりそうになる。
「宝物庫に眠りっぱなしでいるよりも世界の有事に、そして国の恩人に使われてこそだろう。きっと役に立つから持っていきなさい」
「そんな貴重なものを……ありがたく使わせていただきます」
これ以上の問答は不要とばかりに王の目は真っ直ぐで、揺るがない。
エイミは素直に受け取ると、深々と頭を下げた。
ディフェット王は深い溜息を吐き、それから一拍おいてエイミたちの方を向く。
「旅の者たちよ……そなたらに頼みがある。今回の件に力を貸してほしい」
王がこの申し出をしてくることは予想していたため、誰ひとり驚かなかった。
浄化の力や精霊の助力。エイミたちの助けなくしては、悪魔の呪いは解けなかっただろうから。
「わたしは……」
エイミは両隣の仲間たちをちらりと窺った。自分だけなら即決できるが、彼らはどうなのだろうか、と。
(断る理由、ないだろ?)
(ここまで首を突っ込んじゃったしね)
フォンドとモーアン、言葉はなくともふたりの笑顔と頷きで意図は伝わる。
ミューはというと、仕方ないわね、といった風に溜息をついていて……エイミがどう答えるか、誰もがもうわかっているようだった。
(魔族とは関係ないかもしれない。でも……この方たちも国を奪われたんだわ。それを放っておくなんて、わたしにはできない!)
もしかしたら手がかりに繋がるかもしれないし、ただの寄り道になってしまうかもしれない。
けれどもそういう打算よりも、自分と同じく国を奪われた被害者として、彼らの力になりたいのだ。
仲間の気持ちはひとつ。彼らも背中を押してくれている。それならば……
「……わたしも、大切な国……ドラゴニカを、卑劣な魔族によって奪われました。同じ苦しみを抱える方たちを、見過ごすなんてできません」
エイミの言葉に、フォンドがごくりと息を呑む。
卑劣な魔族、というたった一言に普段の彼女からは想像もつかないほど低い声音と、強い憎悪が感じられたからだ。
それに気づいてか気づかずか、王はゆっくりと頷いた。
「そうか、ありがとう。ではまず、ひとつ贈り物をさせてほしい」
「贈り物、ですか?」
「ああ。あれを持ってきてくれ」
王が手を叩くと、騎士のひとりが大きなカバンを大事そうに抱えてきた。
色はブラウンよりやや明るいキャメル。使い込まれた革製で、しっかりした造りをしていて、手提げ用の持ち手もあるが、リュックにもショルダーにもできるようだ。
フラップの部分には白い翼の紋様が刻まれていて、前見頃には魔法陣のようなものが描かれている。
どこでも手に入るようなカバンとは違うようだが……エイミたちが首を傾げた。
「これは……?」
「これはだな……“なんでもはいリュック”だ」
『へ?』
しん、と静まり返る謁見の間。ややあって、王が頬を赤らめながら咳払いをした。
「い……一応、正式名称なのだ……女神レレニティアが活躍した時代からの由緒ある品でな。重さは変わらずいくらでも荷物が入る古代の魔法道具だ」
なんでも入るリュック略してなんでもはいリュック、という酔っ払った勢いでつけたような安直なネーミングにそぐわぬ風格を漂わせる鞄。
千年前の品だという割には劣化はなく、いくらでも入るという話が事実ならどれだけ旅の助けになるだろうか。
「陛下、それはディフェットの国宝なのでは……?」
「こっ、国宝!?」
シグルスの口からしれっと飛び出した言葉に、モーアンが飛び上がりそうになる。
「宝物庫に眠りっぱなしでいるよりも世界の有事に、そして国の恩人に使われてこそだろう。きっと役に立つから持っていきなさい」
「そんな貴重なものを……ありがたく使わせていただきます」
これ以上の問答は不要とばかりに王の目は真っ直ぐで、揺るがない。
エイミは素直に受け取ると、深々と頭を下げた。