18:砂漠の地へ
ラーラと名乗る女は、砂漠に行き倒れていたところを拾われて、ミズベリアのクバッサ宮殿で暮らすことになったのだという。
しかし、しおらしい“可哀想な女”の姿は最初のうちだけで。
誰彼構わず色目を使い、あからさまに甘えて、次第に欲を出し始めて……そんなラーラに、どういう訳か周囲もふたつ返事で彼女が求めるものを差し出すようになった。
砂漠のオアシスに根ざしたミズベリアでは貧富の差はあれどルフトゥ王の手によってそれも改善されている最中だった……それなのに。
「ラーラの欲はとどまるところを知らず、金も、貴重なオアシスの水も、思うままに浪費するようになりました。たったひとりが贅沢する足下で民は苦しめられ、それでもエスカレートする一方で……私は堪え切れず、近頃町を騒がせる義賊の噂を聞いて、接触を図ったのです」
ミズベリアの王子、レーゲンはそこでちらりとサニーに視線を移した。
太陽のような金髪、ミズベリアに多い褐色の肌。まだ幼さの残る少女だが、シグルスを城に忍び込ませる手伝いをしたことといい、義賊として腕は確かなようだ。
「一国の王子が義賊と手を組むとはな……」
「私の言葉は父にも臣下にも届かず、宮殿内には味方が誰ひとりいない状況でした」
同じだ、とエイミたちは思った。国ひとつを閉じ込めて人々の正気を奪い、負の感情を育てるやり方は……
「サニーの力を借りて夜の宮殿でラーラの秘密を暴こうとしましたが、気づかれて人を呼ばれ、逆に反逆者に仕立て上げられ……ミズベリアを追われ、サニーはルクシアルに、そして私は貴国に助けを求めに来た次第です」
「そういうことだったか……それなのに、すまなかった」
サニーがリプルスーズにいたのはまずルクシアルを目指したからで、それからエイミたちと似たようなルートで来たのだろう。
ミズベリアから一番近い国は同じ西大陸のディフェットで、両国の関係も特に悪くはなかった。まさか話も聞かず囚われることになるとは思うはずもない。
「そういうことならば、我がディフェットも協力しよう。そこでシグルス、ひとつ頼みがあるのだが……」
「もとよりそのつもりです、陛下。ミズベリアにいる悪魔は陛下を襲った者とは別人でしょうが、何らかの手がかりに繋がるかもしれません。行かせてください」
「……すまないな。せっかく戻って来られたというのに……」
王が心からの謝罪を述べると、騎士はいいえと首を振った。
「陛下を襲い、ディフェットに疑心と不安をもたらした悪魔が個人的に許せないのです。陛下からの命がなくとも暇を貰い、この手で討ちに行ったことでしょう」
「シグルス……」
「ミズベリアでのことが終わったら、そのまま旅に出るつもりです。お許し戴けますか、陛下」
これまでに複数の悪魔と戦ってきたことも踏まえると、ミズベリアとディフェット、それぞれで暗躍していた悪魔は恐らくは別人だろう。
自分がディフェットを出ることになった原因――というよりも、主君を傷つけ、ディフェットの人々を苦しめた悪魔を倒すまでは、シグルスの旅は終わらない。
強い意思を宿した赤の瞳は、ハッキリとそう物語っていた。
しかし、しおらしい“可哀想な女”の姿は最初のうちだけで。
誰彼構わず色目を使い、あからさまに甘えて、次第に欲を出し始めて……そんなラーラに、どういう訳か周囲もふたつ返事で彼女が求めるものを差し出すようになった。
砂漠のオアシスに根ざしたミズベリアでは貧富の差はあれどルフトゥ王の手によってそれも改善されている最中だった……それなのに。
「ラーラの欲はとどまるところを知らず、金も、貴重なオアシスの水も、思うままに浪費するようになりました。たったひとりが贅沢する足下で民は苦しめられ、それでもエスカレートする一方で……私は堪え切れず、近頃町を騒がせる義賊の噂を聞いて、接触を図ったのです」
ミズベリアの王子、レーゲンはそこでちらりとサニーに視線を移した。
太陽のような金髪、ミズベリアに多い褐色の肌。まだ幼さの残る少女だが、シグルスを城に忍び込ませる手伝いをしたことといい、義賊として腕は確かなようだ。
「一国の王子が義賊と手を組むとはな……」
「私の言葉は父にも臣下にも届かず、宮殿内には味方が誰ひとりいない状況でした」
同じだ、とエイミたちは思った。国ひとつを閉じ込めて人々の正気を奪い、負の感情を育てるやり方は……
「サニーの力を借りて夜の宮殿でラーラの秘密を暴こうとしましたが、気づかれて人を呼ばれ、逆に反逆者に仕立て上げられ……ミズベリアを追われ、サニーはルクシアルに、そして私は貴国に助けを求めに来た次第です」
「そういうことだったか……それなのに、すまなかった」
サニーがリプルスーズにいたのはまずルクシアルを目指したからで、それからエイミたちと似たようなルートで来たのだろう。
ミズベリアから一番近い国は同じ西大陸のディフェットで、両国の関係も特に悪くはなかった。まさか話も聞かず囚われることになるとは思うはずもない。
「そういうことならば、我がディフェットも協力しよう。そこでシグルス、ひとつ頼みがあるのだが……」
「もとよりそのつもりです、陛下。ミズベリアにいる悪魔は陛下を襲った者とは別人でしょうが、何らかの手がかりに繋がるかもしれません。行かせてください」
「……すまないな。せっかく戻って来られたというのに……」
王が心からの謝罪を述べると、騎士はいいえと首を振った。
「陛下を襲い、ディフェットに疑心と不安をもたらした悪魔が個人的に許せないのです。陛下からの命がなくとも暇を貰い、この手で討ちに行ったことでしょう」
「シグルス……」
「ミズベリアでのことが終わったら、そのまま旅に出るつもりです。お許し戴けますか、陛下」
これまでに複数の悪魔と戦ってきたことも踏まえると、ミズベリアとディフェット、それぞれで暗躍していた悪魔は恐らくは別人だろう。
自分がディフェットを出ることになった原因――というよりも、主君を傷つけ、ディフェットの人々を苦しめた悪魔を倒すまでは、シグルスの旅は終わらない。
強い意思を宿した赤の瞳は、ハッキリとそう物語っていた。