17:長き夜が明けて
絨毯の深い青、居並ぶ鎧姿の騎士たちがぴりりとした緊張をもたらす謁見の間。
それでも誰より何よりも重圧を感じさせるものは、昨夜まで意識不明で臥せっていたはずの王が在るべきところに座している姿だった。
今日の予定はエイミたちとの謁見のみだという王は、顔色こそまだ少し悪いもののしっかりと目に光を宿している。
(これが王たる人間の迫力……姉様を思い出すわ。ディフェット王はきっと優れた武人でもあるのね……)
玉座の前に一同が跪く中、エイミは魔族との戦いで倒れた姉……女王パメラを思い出した。
シグルスも、そして疑いをかけられ囚われたというミズベリアの王子と彼を救いに来た少女も同様にいるこの場で、どのような話をされるのだろうか。しんと静まり返った場に、自分の心臓の音が聴こえてしまわないかと身を固くする。
「よく来てくれた。悪魔に惑わされた我が国のことに巻き込んでしまって、誠に申し訳ない」
王はひとりひとりの顔を見、頭を下げる。
「まずはシグルス。お前に化けた悪魔に不覚をとったが、わしは別人だとすぐにわかった。意識を失ったせいで、無実を証明してやれず……」
「……その御言葉だけで充分です、陛下」
普段からハーフエルフであるシグルスにも分け隔てなく接しているのであろう王の前では、顔を隠すフードは必要ない。
それでもシグルスは目を伏せ、俯いたまま首を左右に振った。
「シグルス。それに旅の者たちよ。改めて、この国を救ってくれたことに礼を言おう」
そして、と続けると今度はミズベリアの王子へと向き直る。
「ミズベリアの王子よ。本来わしに用があったのだったな?」
「はい」
「本当にすまなかった。こちらに来て、話しなさい」
後方にいた王子はスッと立ち上がり、エイミたちの前に進み出る。
歩く動作に合わせて揺れる、腰までの薄群青の三つ編み。砂漠の民らしい服装だが旅のためか王族というにはやや簡素に見える。エイミと同じか少し下くらいの年頃の、そんな少年は髪と同色のキリッとした目を真っ直ぐに王へと向けた。
「私はミズベリアの王ルフトゥが息子、レーゲンと申します。そして彼女はミズベリアの義賊、サニー。私の協力者です」
サニーと会ったのはフォンドが一度、そしてエイミとミューは二度。一度目はリプルスーズの港町を襲う魔物と戦った時で、二度目は幽霊船騒ぎで客船を守っていたエイミのところに現れた。
まさかここでも会うなんて……口には出さないが、サニーの方でもそう思っているかもしれない。
「この国で起きた事件と我が国の状況はよく似ています。急に現れたある女によって、宮殿の者たちが、父が、おかしくなってしまったのです」
「女……?」
「甘ったるく媚びた態度の裏におぞましい本性を隠した女……“ラーラ”と名乗っていましたが、本名かは定かではありません」
品の良い美少年に分類されるレーゲンの顔立ちが、苦渋に険しくなる。
震える呼吸を整えながら、砂漠の王子は語り始めた。
それでも誰より何よりも重圧を感じさせるものは、昨夜まで意識不明で臥せっていたはずの王が在るべきところに座している姿だった。
今日の予定はエイミたちとの謁見のみだという王は、顔色こそまだ少し悪いもののしっかりと目に光を宿している。
(これが王たる人間の迫力……姉様を思い出すわ。ディフェット王はきっと優れた武人でもあるのね……)
玉座の前に一同が跪く中、エイミは魔族との戦いで倒れた姉……女王パメラを思い出した。
シグルスも、そして疑いをかけられ囚われたというミズベリアの王子と彼を救いに来た少女も同様にいるこの場で、どのような話をされるのだろうか。しんと静まり返った場に、自分の心臓の音が聴こえてしまわないかと身を固くする。
「よく来てくれた。悪魔に惑わされた我が国のことに巻き込んでしまって、誠に申し訳ない」
王はひとりひとりの顔を見、頭を下げる。
「まずはシグルス。お前に化けた悪魔に不覚をとったが、わしは別人だとすぐにわかった。意識を失ったせいで、無実を証明してやれず……」
「……その御言葉だけで充分です、陛下」
普段からハーフエルフであるシグルスにも分け隔てなく接しているのであろう王の前では、顔を隠すフードは必要ない。
それでもシグルスは目を伏せ、俯いたまま首を左右に振った。
「シグルス。それに旅の者たちよ。改めて、この国を救ってくれたことに礼を言おう」
そして、と続けると今度はミズベリアの王子へと向き直る。
「ミズベリアの王子よ。本来わしに用があったのだったな?」
「はい」
「本当にすまなかった。こちらに来て、話しなさい」
後方にいた王子はスッと立ち上がり、エイミたちの前に進み出る。
歩く動作に合わせて揺れる、腰までの薄群青の三つ編み。砂漠の民らしい服装だが旅のためか王族というにはやや簡素に見える。エイミと同じか少し下くらいの年頃の、そんな少年は髪と同色のキリッとした目を真っ直ぐに王へと向けた。
「私はミズベリアの王ルフトゥが息子、レーゲンと申します。そして彼女はミズベリアの義賊、サニー。私の協力者です」
サニーと会ったのはフォンドが一度、そしてエイミとミューは二度。一度目はリプルスーズの港町を襲う魔物と戦った時で、二度目は幽霊船騒ぎで客船を守っていたエイミのところに現れた。
まさかここでも会うなんて……口には出さないが、サニーの方でもそう思っているかもしれない。
「この国で起きた事件と我が国の状況はよく似ています。急に現れたある女によって、宮殿の者たちが、父が、おかしくなってしまったのです」
「女……?」
「甘ったるく媚びた態度の裏におぞましい本性を隠した女……“ラーラ”と名乗っていましたが、本名かは定かではありません」
品の良い美少年に分類されるレーゲンの顔立ちが、苦渋に険しくなる。
震える呼吸を整えながら、砂漠の王子は語り始めた。