16:自分だけの剣

 ――またハーフエルフだ半端者だっていじめられたのか?
 人間より力や体力が弱いから騎士にはなれない、魔法だってエルフみたいには扱えないって、そう言われたのか。
 けどなシグルス、裏を返せばそれは“お前にしかなれない騎士のカタチがある”ってことなんだ。
 人間にもエルフにもできないこと、探してみようぜ――。

 旅の途中訪れた南大陸の魔法都市マギカルーンで世界最大規模の書庫を漁り、それらしい本を探した。
 そうしてシグルスが見つけたのは、物に魔力を宿らせる技術だ。
 彼が編み出した“魔法剣”は魔法士が魔法道具を作るのとは違ってほんの一時的なものだが、武器の強度と威力を高め、精霊の力を借りれば属性を宿らせることもできる。
 シグルスはエルフの血のお陰か魔力の扱いが器用で、努力を重ねて高めた腕力や体力のお陰で魔法武器を振るう力もある。
 これがブルックの言葉からヒントを得た“自分だけの力”――お尋ね者となって旅に出た結果、身に着けられたのだが。

「だからなんだって言うのよォ!」
「もう喋るな」

 早く終わりにしようとばかりに一気に踏み込み、駆け抜けざまに切り払う。
 ぼとり、と悪魔の翼が地面に落ち、絶叫が耳に届いた。

「畳み掛けろ!」
「わかってるよ!」

 続いて発動したモーアンの光魔法が直撃し、黒焦げになった悪魔がばたりと倒れる。

「うっ、ぐぅぅっ……」
「勝負あったな。今すぐ消してやりたいが、お前に命令した奴がいるだろう?」
「だ、誰が、話すか……っ」

 もはや立ち上がる力も残っておらず満身創痍だが、悪魔の口は堅い。
 何の情報も聞き出せないまま消滅が始まったその時、モーアンが彼女に歩み寄った。

「……イルシー」
「!」
「なるほど、その反応を見れば充分だよ」

 彼が口にしたのは、幽霊船で戦った悪魔が遺した名。様づけされていたことから、少なくともあの悪魔よりは格上だろうと踏んでいたようだ。
 大きく見開かれた悪魔の目から察するに、それが答えなのだろう。

「ぐっ……ちくしょう……!」

 余裕があった頃の胸焼けするほど甘く色気を含んだ声とは打って変わって絞り出したように濁ったそれが、この悪魔の最期の言葉だった。

「シグルスさん、王様は……!」
「ああ。今お助けします、陛下!」

 魔法剣で王に絡みつく蔦を切り裂き、傷つけないように救い出す。
 ぐらり、支えを失って傾いだ身体を受け止めると、精神体とはいえやつれた顔のせいか痩せ細っているように感じられた。

「陛下……」
「うう……シグルス……?」

 と、その時。悪夢の空間全体が明滅し、足下が大きく揺らぐ。

「きゃっ!」
『案ずるな。夢の主が目覚めれば、夢は終わる……ただそれだけだ』

 驚くエイミたちの前に、闇精霊がゆらりと姿を見せる。
 何でもないことのように彼は言うが……

「そ、それって、普通に目覚められるってことだよなっ?」
『…………そのはずだ』
「微妙に怖い間やめてー!」

 そんな騒ぎの中、どんよりとした景色は次第に明るくなり、ついには完全にホワイトアウトしていった。
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