16:自分だけの剣
それから数度の戦闘を経て、悪夢の中心地。
ようやく辿り着いたそこにエイミの言う“紫の柱”は聳えていた。
大樹のように見えたそれは複雑に絡み合った蔦の集合体で、その中心に王が囚われ、苦悶の表情を浮かべている。
「陛下……!」
「シグルス、迂闊に近づいたらダメだっ!」
モーアンの制止を振り切ったシグルスが王のもとへ駆け寄ろうとしたが、何かを察知して一瞬飛び退く。
直後、彼がいたところを襲った衝撃が地面を無残に抉り取り、エイミたちを驚かせた。
「な……っ」
「やはりな。ここに来てから嫌な気配がねっとり絡みつくようだった。その正体か」
振り返ったシグルスの赤い瞳が、上空へ向けられる。
空からこちらを見下ろしていたのは青い肌を多く露出させた扇情的な格好の女性。加えて頭の角と背中の大きな翼、先端に矢じりのような飾りがついた細い尻尾……どれをとっても人間ではない容姿をしていた。
「あら、ザンネンね。半端者でもやっぱりエルフなのかしら」
女は奇襲を躱されたことは大して気に留めておらず、粘度のある蜜のような声でそう呟いた。
「どういうことだ?」
「悪魔の気配を感知するのはあの気取り屋たちの得意分野でしょ。森の中に引きこもってるから問題ないと思ってたけど……どうやらアナタを潰さないとこの先厄介そうね」
魅力的なラインをかたどった肢体をくねらせ、悩ましげに唇へ指を押し当てる美女。だがその顔は、直後に凄まじく恐ろしい形相へと歪む。
「アタシの糧になりなさぁぁぁぁいッ!」
「危ねぇ!」
急降下で襲いかかる悪魔の爪に触れないよう片腕で受け流し、間髪入れず蹴り飛ばしたのは素早く割り込んだフォンドだった。
先程までの妖艶さはどこへやら、舌打ちをした悪魔は空中に鋭い岩の剣を生み出し、邪魔者を狙って立て続けに飛ばす。
「させませんっ!」
「ちっ……」
エイミが渾身の力で槍を横薙ぎに振るうと、発生した風の刃が岩を真っ二つに切り裂く。
見慣れない技は旅の中で身に着けたものだろうか。間近で見たモーアンの口がぽかんと開いたままになる。
「すっご……いつの間にそんな技を……」
「今はあの悪魔を倒しましょう、モーアンさん!」
呆けるのはここまで。モーアンは即座に切り替えると、悪魔には抜群に効くだろう光魔法の詠唱を始める。
フォンドは身軽さを活かして悪魔への距離を詰め、近接戦闘へ。エイミはやや距離をとりミューとの連携。そしてモーアンの強力な魔法。
(こいつらの力がなかったら、陛下は……)
囚われの王をちらりと見遣り、シグルスは剣の柄をぐっと握る。
そもそも自分ひとりの力では王の夢の中まで助けに来ることはできなかった。ならば、せめて目の前の悪魔はこの手で……
「おい、悪魔」
銀色の刀身が自身の輝きではない淡い光を帯びる。剣に集まっていくそれは、魔法の輝きだ。
「俺を半端者だと言ったな。その半端者の力を見せてやる」
赤い瞳の奥底に、強く鋭い光が宿る。
魔法剣――剣に魔力を帯びさせ、威力を高める。ぼそりと短い詠唱で彼が発動させたのは、そんな魔法だった。
ようやく辿り着いたそこにエイミの言う“紫の柱”は聳えていた。
大樹のように見えたそれは複雑に絡み合った蔦の集合体で、その中心に王が囚われ、苦悶の表情を浮かべている。
「陛下……!」
「シグルス、迂闊に近づいたらダメだっ!」
モーアンの制止を振り切ったシグルスが王のもとへ駆け寄ろうとしたが、何かを察知して一瞬飛び退く。
直後、彼がいたところを襲った衝撃が地面を無残に抉り取り、エイミたちを驚かせた。
「な……っ」
「やはりな。ここに来てから嫌な気配がねっとり絡みつくようだった。その正体か」
振り返ったシグルスの赤い瞳が、上空へ向けられる。
空からこちらを見下ろしていたのは青い肌を多く露出させた扇情的な格好の女性。加えて頭の角と背中の大きな翼、先端に矢じりのような飾りがついた細い尻尾……どれをとっても人間ではない容姿をしていた。
「あら、ザンネンね。半端者でもやっぱりエルフなのかしら」
女は奇襲を躱されたことは大して気に留めておらず、粘度のある蜜のような声でそう呟いた。
「どういうことだ?」
「悪魔の気配を感知するのはあの気取り屋たちの得意分野でしょ。森の中に引きこもってるから問題ないと思ってたけど……どうやらアナタを潰さないとこの先厄介そうね」
魅力的なラインをかたどった肢体をくねらせ、悩ましげに唇へ指を押し当てる美女。だがその顔は、直後に凄まじく恐ろしい形相へと歪む。
「アタシの糧になりなさぁぁぁぁいッ!」
「危ねぇ!」
急降下で襲いかかる悪魔の爪に触れないよう片腕で受け流し、間髪入れず蹴り飛ばしたのは素早く割り込んだフォンドだった。
先程までの妖艶さはどこへやら、舌打ちをした悪魔は空中に鋭い岩の剣を生み出し、邪魔者を狙って立て続けに飛ばす。
「させませんっ!」
「ちっ……」
エイミが渾身の力で槍を横薙ぎに振るうと、発生した風の刃が岩を真っ二つに切り裂く。
見慣れない技は旅の中で身に着けたものだろうか。間近で見たモーアンの口がぽかんと開いたままになる。
「すっご……いつの間にそんな技を……」
「今はあの悪魔を倒しましょう、モーアンさん!」
呆けるのはここまで。モーアンは即座に切り替えると、悪魔には抜群に効くだろう光魔法の詠唱を始める。
フォンドは身軽さを活かして悪魔への距離を詰め、近接戦闘へ。エイミはやや距離をとりミューとの連携。そしてモーアンの強力な魔法。
(こいつらの力がなかったら、陛下は……)
囚われの王をちらりと見遣り、シグルスは剣の柄をぐっと握る。
そもそも自分ひとりの力では王の夢の中まで助けに来ることはできなかった。ならば、せめて目の前の悪魔はこの手で……
「おい、悪魔」
銀色の刀身が自身の輝きではない淡い光を帯びる。剣に集まっていくそれは、魔法の輝きだ。
「俺を半端者だと言ったな。その半端者の力を見せてやる」
赤い瞳の奥底に、強く鋭い光が宿る。
魔法剣――剣に魔力を帯びさせ、威力を高める。ぼそりと短い詠唱で彼が発動させたのは、そんな魔法だった。