16:自分だけの剣
「まさか、夢の中で魔物と戦うなんて、思わなかったよ……」
愛用の杖を支えにして、ぜえはあと息を切らしながらモーアンがぼやく。
精神体でもいつも通りの感覚で戦えるとはいえ、そもそも彼は無駄な戦闘を好まない。
おまけに魔物――恐らくは下級の悪魔と思われるそれらは好戦的でしつこく数で群れるたちで、エイミたちの姿を見るなりやや離れたところからでも一直線に集まってきた。
「大口叩くだけあって、やるじゃねーか!」
「ふん、お前らもな」
最初は反りが合わないようだったフォンドとシグルスも、ここまでの戦いを通して互いを認めつつある。
ミューの背に乗り、上空からその様子を眺めていたエイミも、ほっと一息ついて地上に降り立った。
『結局脳筋はこういうのが一番の近道なのよねぇ』
「脳筋って……でも、打ち解けられてよかったわ」
相棒の容赦ない物言いに苦笑いを浮かべながら、エイミはひと戦闘を終えた仲間たちに歩み寄る。
「あと少し、このまま進んだ先に何か見えました。もしかしたら目的地は近いかもしれません」
「何か……って、なんだい?」
不明瞭な内容に飛んできたモーアンのもっともな疑問。エイミはただ静かに首を左右に振った。
「具体的にはわかりません。紫色の、柱のような……この悪夢の中心地のように見えました」
「とにかく行ってみようぜ。オレたちも、無限にこいつらの相手してたらどうなるかわからねえ」
広々としているが閉鎖空間でもあるここでは回復手段に限りがある。それがいつか尽きてしまえば、戦い慣れした彼らでも或いは……
「ここで倒れたら、少なくとも悪魔の糧にはされてしまうだろうね」
『幽霊船が“そういう場所”であったように、恐らくはな』
闇精霊の言葉に、シグルスは自分を嘲笑いながら姿を消した悪魔のことを思い出し、じわりと腹を立てた。
あんな奴の思い通りにさせてたまるか――刺し違えてでも、と考えていたシグルスだったが、たった今それは変わった。
死者の魂を悪霊に変えて弄ぶ幽霊船の話も道すがら聞いた。死んでしまえば、それこそ奴の思う壺だ、と。
「あのニヤケ面道化師め……こんな場所必ず抜け出してやる。陛下と共に、な」
「その意気ですよ、シグルスさん!」
応援の意をこめて両手でぐっと握り拳をつくるエイミ。
そんな彼女や仲間たちを訝しがりながらも、シグルスはそれ以上突っかかることはしなくなった。
(ブルック隊長以外にも、こんな奴らもいるんだな……)
ハーフエルフだからといって疎んだり蔑んだり、哀れんだりもしない。
気を遣う様子も特別感もなにもない、そんな“普通”の空気感――それは、シグルスがずっと無意識に欲していたものだった。
愛用の杖を支えにして、ぜえはあと息を切らしながらモーアンがぼやく。
精神体でもいつも通りの感覚で戦えるとはいえ、そもそも彼は無駄な戦闘を好まない。
おまけに魔物――恐らくは下級の悪魔と思われるそれらは好戦的でしつこく数で群れるたちで、エイミたちの姿を見るなりやや離れたところからでも一直線に集まってきた。
「大口叩くだけあって、やるじゃねーか!」
「ふん、お前らもな」
最初は反りが合わないようだったフォンドとシグルスも、ここまでの戦いを通して互いを認めつつある。
ミューの背に乗り、上空からその様子を眺めていたエイミも、ほっと一息ついて地上に降り立った。
『結局脳筋はこういうのが一番の近道なのよねぇ』
「脳筋って……でも、打ち解けられてよかったわ」
相棒の容赦ない物言いに苦笑いを浮かべながら、エイミはひと戦闘を終えた仲間たちに歩み寄る。
「あと少し、このまま進んだ先に何か見えました。もしかしたら目的地は近いかもしれません」
「何か……って、なんだい?」
不明瞭な内容に飛んできたモーアンのもっともな疑問。エイミはただ静かに首を左右に振った。
「具体的にはわかりません。紫色の、柱のような……この悪夢の中心地のように見えました」
「とにかく行ってみようぜ。オレたちも、無限にこいつらの相手してたらどうなるかわからねえ」
広々としているが閉鎖空間でもあるここでは回復手段に限りがある。それがいつか尽きてしまえば、戦い慣れした彼らでも或いは……
「ここで倒れたら、少なくとも悪魔の糧にはされてしまうだろうね」
『幽霊船が“そういう場所”であったように、恐らくはな』
闇精霊の言葉に、シグルスは自分を嘲笑いながら姿を消した悪魔のことを思い出し、じわりと腹を立てた。
あんな奴の思い通りにさせてたまるか――刺し違えてでも、と考えていたシグルスだったが、たった今それは変わった。
死者の魂を悪霊に変えて弄ぶ幽霊船の話も道すがら聞いた。死んでしまえば、それこそ奴の思う壺だ、と。
「あのニヤケ面道化師め……こんな場所必ず抜け出してやる。陛下と共に、な」
「その意気ですよ、シグルスさん!」
応援の意をこめて両手でぐっと握り拳をつくるエイミ。
そんな彼女や仲間たちを訝しがりながらも、シグルスはそれ以上突っかかることはしなくなった。
(ブルック隊長以外にも、こんな奴らもいるんだな……)
ハーフエルフだからといって疎んだり蔑んだり、哀れんだりもしない。
気を遣う様子も特別感もなにもない、そんな“普通”の空気感――それは、シグルスがずっと無意識に欲していたものだった。