15:王都潜入作戦

 王が眠る寝室は家具も内装も豪華なもので、それでいてけばけばしくはない気品を感じる部屋だった。
 天蓋つきの大きなベッドに仰向けで寝る――というより意識を失っていると言ったほうが正しいだろう――王は苦悶に顔を歪めていて、モーアンは思わず息を詰まらせる。

(すごく辛そうだ……早くなんとかしないと)

 と、そこにコクヨウが姿を現し、王をじっと見下ろした。

『やはりそうか……王には悪魔の呪いがかけられている。悪夢に囚われ、衰弱が激しいな』
「さっきまでと同じやり方でいけそうかい?」
『それは……』

 コクヨウが説明しようとしたその時、足音が近づいてきた。
 逃げ隠れする暇もなく、扉が開かれる。

「陛下!」
「うわっまずい……って、きみは……!?」

 抑えた声音にマントについたフードで隠れた顔。彼もまた、侵入者なのだとひと目でわかった。

「お前、何者だ? 陛下に何を……」
「も、もしかしてきみ、手配書の……!」

 僅かに見えた黒髪とキリリとした赤い目の美形。王を襲った犯罪者として指名手配中のハーフエルフ、シグルスはつかつかとモーアンに歩み寄り素早く胸ぐらを掴む。

「うひゃあ!」
「陛下に何をしたと聞いている……!」
「ぼ、暴力反対ー! その陛下を助けに来たんだってば!」

 どちらも小声の言い争いは、物理的にモーアンが不利だった。
 首筋にあてられた剣がきらりと煌めき、モーアンの顔から血の気が引く。終わった。もうダメだと心の中で叫んだ。

『狭間の子よ、話を聞け』
「なっ……なんだお前は」
『我は闇の精霊コクヨウ。そしてこの男は女神レレニティアの力を分けられし者……むしろ、王を救うために来たのだ』

 コクヨウはシグルスにも姿と声をわかるようにしたらしい。シグルスがゆっくりと剣を降ろし、モーアンを解放する。

「た、助かったぁ……」
『念のためしばらく誰も近づけんようにしとこうかのぅ』
「ありがとう、アマ爺。それじゃあ手短に説明するよ」

 侵入者と、それに加えてお尋ね者。お互いに長居ができる立場ではない。
 モーアンは警戒心を隠しもせず睨むシグルスに、この町でのこれまでの経緯を簡単に話した。

「陛下が、呪われている……? それにその呪いが町全体に悪影響を及ぼしているだと?」
「そう。だから呪いを解きに来たんだよ」
『その事なのだが、今から王の夢の中へお前たちの精神を送り込む。そこで呪いの元を断てば王は目覚め、快復するだろう』

 続けてコクヨウがそう告げると、モーアンとシグルスが互いに顔を見合わせる。

「「……この二人で?」」

 指を差し合う不安顔と不満顔。出会ったばかりなのもあるが、第一印象が乱暴者と情けない男では無理もないだろう。

『案ずるな。残りの仲間も連れて来よう』
「えっそれ僕がここまで来た意味……」
『呪いの正体を知るため、王のもとへは直接来る必要があった。あまり離れてはいけないが、この程度の距離なら同じ夢への扉を開くことができる』

 そして精霊たちはそもそもが本来の住処にいて、契約者のもとへなら簡単に行き来しているのをこれまでにも見てきている。
 なんとなく理屈はわかったが、ここまで侵入する大変さを思うと、損な役回りだなぁとモーアンが天を仰いだ。
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