15:王都潜入作戦
一日三回の三度目は陽も傾いて暗くなってきた頃。王の寝室に祈りを捧げに神官がやって来る。
ブルックから得た情報をもとに、ひとり城へと乗り込むモーアンだったが、城を守る騎士ふたりに睨まれてぎくりと竦み上がった。
「……おい。いつもの神官と違うな?」
「あっ、あのう、彼なんだかお腹痛くなっちゃったみたいで……代わりに来ました」
「ふぅん。なんだか怪しい奴だな」
本物の神官は今頃エイミたちが足止めしている手筈だ。じろじろと無遠慮に踏み込むような視線に心臓を爆発させそうになりながら、モーアンは息を呑む……が、直後に人好きのする笑顔に変わり、
「いやぁ、ちゃんと本物の神官ですって。騎士様たちお疲れのようですね。サービスでちょーっと癒してあげましょうか?」
「なっ……?」
手早くぱぱっと回復魔法をふたりにかけて、その隙間をすり抜ける。
癒しの魔法を受けた騎士たちは一瞬きょとんとしていたが、ややあって己の両手を見つめた。
「……あれ? 俺は一体何を……?」
「なんかずっと、頭にモヤがかかってたみたいな……」
そんな独り言を背後に聞きながら、モーアンは城内に突入する。
彼が唱えたのはいつも通りの回復魔法だが、女神の力の欠片である“聖なる種子”の浄化が付与されたものだった。
「本当に効果あるんだ……これ時間かかるけど僕たちがひとりひとり浄化したらみんな元に戻るんじゃない?」
『いいや』
ちらりと後ろを振り返り、モーアンが呟く。
だが彼が見出した希望は、すぐさま光精霊の声によって否定された。
『ダメじゃ。これだけ継続的に皆が術中にあるということは、コクヨウが言う“根”がディフェット全体に影響を及ぼし続けているということじゃからの』
「大元を断たないと、かぁ……僕ひとりで大丈夫かなぁ」
荒っぽいのは苦手なのに、とぼやくモーアン。
いつも攻撃を引き受けてくれる前衛のふたりがいない状況で、もし王の傍に悪魔がいて襲ってきたら……
『悪魔の気配はしねえぜ。奴は種だけ蒔いてとっくにここを離れてる』
『だが術の痕跡は感じるな。やはりこの国を蝕む大元は王のところにあると考えて良いだろう』
姿を見せず、声だけで助言する精霊たち。
とりあえず直接戦闘にはならないということだろうか……それでも、緊張から杖の柄を握る手に力が入る。
せっかくディフェットの城に入れたというのに、ルクシアル神殿とはまた違った内装の美しさに目を向ける余裕もないのが残念だ。
「確かブルックさんが言うには二階の奥、だったね」
絨毯が敷かれた通路を歩き、王の寝室へ。そこには見張りの騎士がいたが、やはり同様に浄化の力を使うと、騎士はその場に崩れ落ちた。
驚いたモーアンがおそるおそる全身鎧に兜で隠れた騎士の顔を覗き込むと、寝息が聴こえてきて。
「……えーと、どうしちゃったのかな」
『張り詰めた状況でずっと無理をしとった糸が、術を解かれてぷつりと切れたんじゃろ。疑い続けて休まる間もなかったようじゃの』
ずっと疑念と険悪な空気の中にいたのだから、疲弊するのも道理だ。まして、王を守るという責任重大な立場に立たされているのだから。
「大丈夫。貴方たちの王様はきっと助けるから、ゆっくり休んで」
眠る騎士を起こしてしまわないようそっと囁くと、モーアンは寝室の扉を開けた。
ブルックから得た情報をもとに、ひとり城へと乗り込むモーアンだったが、城を守る騎士ふたりに睨まれてぎくりと竦み上がった。
「……おい。いつもの神官と違うな?」
「あっ、あのう、彼なんだかお腹痛くなっちゃったみたいで……代わりに来ました」
「ふぅん。なんだか怪しい奴だな」
本物の神官は今頃エイミたちが足止めしている手筈だ。じろじろと無遠慮に踏み込むような視線に心臓を爆発させそうになりながら、モーアンは息を呑む……が、直後に人好きのする笑顔に変わり、
「いやぁ、ちゃんと本物の神官ですって。騎士様たちお疲れのようですね。サービスでちょーっと癒してあげましょうか?」
「なっ……?」
手早くぱぱっと回復魔法をふたりにかけて、その隙間をすり抜ける。
癒しの魔法を受けた騎士たちは一瞬きょとんとしていたが、ややあって己の両手を見つめた。
「……あれ? 俺は一体何を……?」
「なんかずっと、頭にモヤがかかってたみたいな……」
そんな独り言を背後に聞きながら、モーアンは城内に突入する。
彼が唱えたのはいつも通りの回復魔法だが、女神の力の欠片である“聖なる種子”の浄化が付与されたものだった。
「本当に効果あるんだ……これ時間かかるけど僕たちがひとりひとり浄化したらみんな元に戻るんじゃない?」
『いいや』
ちらりと後ろを振り返り、モーアンが呟く。
だが彼が見出した希望は、すぐさま光精霊の声によって否定された。
『ダメじゃ。これだけ継続的に皆が術中にあるということは、コクヨウが言う“根”がディフェット全体に影響を及ぼし続けているということじゃからの』
「大元を断たないと、かぁ……僕ひとりで大丈夫かなぁ」
荒っぽいのは苦手なのに、とぼやくモーアン。
いつも攻撃を引き受けてくれる前衛のふたりがいない状況で、もし王の傍に悪魔がいて襲ってきたら……
『悪魔の気配はしねえぜ。奴は種だけ蒔いてとっくにここを離れてる』
『だが術の痕跡は感じるな。やはりこの国を蝕む大元は王のところにあると考えて良いだろう』
姿を見せず、声だけで助言する精霊たち。
とりあえず直接戦闘にはならないということだろうか……それでも、緊張から杖の柄を握る手に力が入る。
せっかくディフェットの城に入れたというのに、ルクシアル神殿とはまた違った内装の美しさに目を向ける余裕もないのが残念だ。
「確かブルックさんが言うには二階の奥、だったね」
絨毯が敷かれた通路を歩き、王の寝室へ。そこには見張りの騎士がいたが、やはり同様に浄化の力を使うと、騎士はその場に崩れ落ちた。
驚いたモーアンがおそるおそる全身鎧に兜で隠れた騎士の顔を覗き込むと、寝息が聴こえてきて。
「……えーと、どうしちゃったのかな」
『張り詰めた状況でずっと無理をしとった糸が、術を解かれてぷつりと切れたんじゃろ。疑い続けて休まる間もなかったようじゃの』
ずっと疑念と険悪な空気の中にいたのだから、疲弊するのも道理だ。まして、王を守るという責任重大な立場に立たされているのだから。
「大丈夫。貴方たちの王様はきっと助けるから、ゆっくり休んで」
眠る騎士を起こしてしまわないようそっと囁くと、モーアンは寝室の扉を開けた。