15:王都潜入作戦
鉄壁の城塞と騎士団を誇る、西大陸の騎士王国ディフェット。
定期的に開催される剣術大会では観光客も多く受け入れており、ここ最近ではつい先日賑やかな祭を終えたばかりだという。
そんなディフェットが今、王が何者かに襲撃されてからずっと意識を失ったままだという事態を受け、重く沈んだ険悪な空気を漂わせている。
「最初は差別の対象だったハーフエルフ……シグルスを悪者だと思い込んでいれば、住民同士のいざこざはなかった。それなのに、みんな日に日に生気を失い、疑心暗鬼が強くなっているんだ」
『恐らくそれは悪魔が“澱み”を集めやすいように手を加えているな……どこかにその術の根があるはずだ』
エイミたちを自分の家に呼び、事情を話してくれた騎士団隊長のブルックは、この町で数少ない、正気を保っていた人物だった。
部下であるシグルスに親心もあり、彼を信じているから他の者より術の効きが悪いのだろうとエイミたちにのみ聴こえる声でコクヨウが告げる。
『怪しいのは王だ。悪魔が直接その手にかけて、未だ目覚めず悪夢に魘されているというのなら、何らかの術をかけられた可能性が高いだろう』
「……あの、ブルックさん。どうにかして王様にお会いすることはできませんか?」
コクヨウの言葉を受け、エイミがそう尋ねるとブルックの目が僅かに見開かれた。
「いや……今は難しいだろうな。そもそも陛下は臥せっておられるし、この状況に耐えかねて城へ詰めかけた住民が何人か地下牢送りにされている」
「ひどい……」
「助けてやりたいが、そうすれば俺まで囚われて動けなくなるだろう。せめて酷い扱いを受けないよう、配慮するくらいしかできなかった」
やるせなさに俯くブルックは、異常事態での個人の力の限界をよく知っていた。
強く握り締めた拳が震えていることが、彼が抑え込んだ激情の表れだ。
「そういえば先日、ミズベリアの王子だという少年が訪ねて来たが……彼もあらぬ疑いをかけられ、囚われてしまった。彼の様子を察するに、ミズベリアでも何か起きているのかもしれないな」
『今のこの国じゃオウサマが襲われたのは他国の宣戦布告だーなんて言われそうよね……もうメチャクチャだわ』
ブルックがミューに反論しなかったのは、まさしく図星だったのかもしれない。
一国の王子まで牢に入れてしまったというこの状況を放っておく訳にはいかないが……
「陛下は眠ったままだし、陛下の寝室は城の薬師と神官しか入れないんだ」
「薬師と……神官?」
話によると、薬師も神官も王の容態を診るために一日に三回ほど寝室に入るのだという。
神官といえば……全員の視線が、白い神官服を纏ったモーアンに注がれる。
「えっ、僕かい……?」
モーアンは薄緑色の目をあちこち泳がせて、引き攣った頬を指先で掻いた。
定期的に開催される剣術大会では観光客も多く受け入れており、ここ最近ではつい先日賑やかな祭を終えたばかりだという。
そんなディフェットが今、王が何者かに襲撃されてからずっと意識を失ったままだという事態を受け、重く沈んだ険悪な空気を漂わせている。
「最初は差別の対象だったハーフエルフ……シグルスを悪者だと思い込んでいれば、住民同士のいざこざはなかった。それなのに、みんな日に日に生気を失い、疑心暗鬼が強くなっているんだ」
『恐らくそれは悪魔が“澱み”を集めやすいように手を加えているな……どこかにその術の根があるはずだ』
エイミたちを自分の家に呼び、事情を話してくれた騎士団隊長のブルックは、この町で数少ない、正気を保っていた人物だった。
部下であるシグルスに親心もあり、彼を信じているから他の者より術の効きが悪いのだろうとエイミたちにのみ聴こえる声でコクヨウが告げる。
『怪しいのは王だ。悪魔が直接その手にかけて、未だ目覚めず悪夢に魘されているというのなら、何らかの術をかけられた可能性が高いだろう』
「……あの、ブルックさん。どうにかして王様にお会いすることはできませんか?」
コクヨウの言葉を受け、エイミがそう尋ねるとブルックの目が僅かに見開かれた。
「いや……今は難しいだろうな。そもそも陛下は臥せっておられるし、この状況に耐えかねて城へ詰めかけた住民が何人か地下牢送りにされている」
「ひどい……」
「助けてやりたいが、そうすれば俺まで囚われて動けなくなるだろう。せめて酷い扱いを受けないよう、配慮するくらいしかできなかった」
やるせなさに俯くブルックは、異常事態での個人の力の限界をよく知っていた。
強く握り締めた拳が震えていることが、彼が抑え込んだ激情の表れだ。
「そういえば先日、ミズベリアの王子だという少年が訪ねて来たが……彼もあらぬ疑いをかけられ、囚われてしまった。彼の様子を察するに、ミズベリアでも何か起きているのかもしれないな」
『今のこの国じゃオウサマが襲われたのは他国の宣戦布告だーなんて言われそうよね……もうメチャクチャだわ』
ブルックがミューに反論しなかったのは、まさしく図星だったのかもしれない。
一国の王子まで牢に入れてしまったというこの状況を放っておく訳にはいかないが……
「陛下は眠ったままだし、陛下の寝室は城の薬師と神官しか入れないんだ」
「薬師と……神官?」
話によると、薬師も神官も王の容態を診るために一日に三回ほど寝室に入るのだという。
神官といえば……全員の視線が、白い神官服を纏ったモーアンに注がれる。
「えっ、僕かい……?」
モーアンは薄緑色の目をあちこち泳がせて、引き攣った頬を指先で掻いた。