13:悪魔の呪縛
『くそっくそっ! 小賢しいんだよ!』
魔法の光に身を焦がされ、あちこちからぷすぷすと煙をあげながら怒りに任せて大きな翼でコウモリが羽ばたく。
巻き起こる激しい風がモーアンの体勢を崩し、吹き飛ばし、傷んだ床に叩きつけた。
「うぐ……っ」
「モーアンさん!」
脆い板は勢いに耐えられず派手な音を立てて割れ、モーアンの体はそこにできた穴に嵌ったお陰で内部まで落ちることは免れたものの、すぐには身動きできない状態に。
「だい、じょうぶだっ……フォンド、こっちは気にしないで……!」
駆け寄ろうとするフォンドを、苦しげな声が止めた。
あちこち痛む体をどうにか起こし、モーアンが近くに落ちた杖を握り直す。
「けど……」
「僕は自分で回復できる。さっきみたいに詠唱の時間を作ってくれ!」
『させるかよ!』
割り込もうとしたコウモリに、考えるより早く拳を繰り出すフォンド。
軽く当ててから連打に繋げ、回し蹴りで後退させてモーアンとの距離を離させる。
「こっちのセリフだ、この野郎!」
『ギッ! 勢いづきやがって!』
モーアンが有効打を浴びせてくれたお陰で、悪魔の狙いが絞られる。彼を守らなければいけないが、逆に言えば相手の動きも読みやすくなったということ。
『クソッ! ジャマだぁっ!』
(動きが単調になった? 頭に血が昇って気づいてねえな……)
魔法のダメージもあるのだろう。先程は当たりもしなかったフォンドの攻撃が、一発、二発と悪魔を捉えていく。
『こ、このままじゃマズい、もう一回変身をっ……!』
形勢不利と見た悪魔の体が再び煙を纏い、その姿を隠していく。
その、瞬間。
「聖なる光の裁き――終わりだッ!」
『ギャアァァーーーーッ!』
モーアン懇親の光魔法が悪魔を包み、焼き尽くす。黒焦げになった悪魔は元の小さな姿に戻り、ぽとりと落ちた。
もはや起き上がる力も残っていないのだろう黒い塊は、すぐに端から塵となっていく。
『うぐぐ……こんな、ハズじゃ……』
掠れた弱々しい声には最初にあった威勢の良さは感じられない。小悪魔の手が震えながら前方へと伸ばされる。
『イルシー、さま……っ』
その手は何処にも届くことなく、それきり、黒い塵は風に流されて消えてしまった。
空は穏やかに澄んだ夜闇へと。悪霊と化した魂も戒めから解放される時間だ。
それは客船を囲っていた魔物も例外ではなく、結界に体当たりしていたものたちがぴたりと動きを止め、禍々しい魔物の姿から淡く儚い光へと変わった。
「……あっちも、もう大丈夫そうだね」
「モーアンさん! 助かったぜ。怪我は?」
「ちゃんと治したから心配しないで。それよりも……」
いつの間にか怪我を直していたモーアンがフォンドのもとへ歩み寄る。そこに……
「みなさん、無事ですかっ!?」
『ちょっとちょっと、何が起きたの?』
あちらも悪霊の脅威が去ったのだろう。隣の客船からエイミとミューが駆けつけてきた。
「客船に戻る前に、少し説明した方が良さそうだね」
「ああ、そうだな」
この夜は、いろいろなことがありすぎた。
モーアンとフォンドはお互いに見合わせると、静かに頷くのだった。
魔法の光に身を焦がされ、あちこちからぷすぷすと煙をあげながら怒りに任せて大きな翼でコウモリが羽ばたく。
巻き起こる激しい風がモーアンの体勢を崩し、吹き飛ばし、傷んだ床に叩きつけた。
「うぐ……っ」
「モーアンさん!」
脆い板は勢いに耐えられず派手な音を立てて割れ、モーアンの体はそこにできた穴に嵌ったお陰で内部まで落ちることは免れたものの、すぐには身動きできない状態に。
「だい、じょうぶだっ……フォンド、こっちは気にしないで……!」
駆け寄ろうとするフォンドを、苦しげな声が止めた。
あちこち痛む体をどうにか起こし、モーアンが近くに落ちた杖を握り直す。
「けど……」
「僕は自分で回復できる。さっきみたいに詠唱の時間を作ってくれ!」
『させるかよ!』
割り込もうとしたコウモリに、考えるより早く拳を繰り出すフォンド。
軽く当ててから連打に繋げ、回し蹴りで後退させてモーアンとの距離を離させる。
「こっちのセリフだ、この野郎!」
『ギッ! 勢いづきやがって!』
モーアンが有効打を浴びせてくれたお陰で、悪魔の狙いが絞られる。彼を守らなければいけないが、逆に言えば相手の動きも読みやすくなったということ。
『クソッ! ジャマだぁっ!』
(動きが単調になった? 頭に血が昇って気づいてねえな……)
魔法のダメージもあるのだろう。先程は当たりもしなかったフォンドの攻撃が、一発、二発と悪魔を捉えていく。
『こ、このままじゃマズい、もう一回変身をっ……!』
形勢不利と見た悪魔の体が再び煙を纏い、その姿を隠していく。
その、瞬間。
「聖なる光の裁き――終わりだッ!」
『ギャアァァーーーーッ!』
モーアン懇親の光魔法が悪魔を包み、焼き尽くす。黒焦げになった悪魔は元の小さな姿に戻り、ぽとりと落ちた。
もはや起き上がる力も残っていないのだろう黒い塊は、すぐに端から塵となっていく。
『うぐぐ……こんな、ハズじゃ……』
掠れた弱々しい声には最初にあった威勢の良さは感じられない。小悪魔の手が震えながら前方へと伸ばされる。
『イルシー、さま……っ』
その手は何処にも届くことなく、それきり、黒い塵は風に流されて消えてしまった。
空は穏やかに澄んだ夜闇へと。悪霊と化した魂も戒めから解放される時間だ。
それは客船を囲っていた魔物も例外ではなく、結界に体当たりしていたものたちがぴたりと動きを止め、禍々しい魔物の姿から淡く儚い光へと変わった。
「……あっちも、もう大丈夫そうだね」
「モーアンさん! 助かったぜ。怪我は?」
「ちゃんと治したから心配しないで。それよりも……」
いつの間にか怪我を直していたモーアンがフォンドのもとへ歩み寄る。そこに……
「みなさん、無事ですかっ!?」
『ちょっとちょっと、何が起きたの?』
あちらも悪霊の脅威が去ったのだろう。隣の客船からエイミとミューが駆けつけてきた。
「客船に戻る前に、少し説明した方が良さそうだね」
「ああ、そうだな」
この夜は、いろいろなことがありすぎた。
モーアンとフォンドはお互いに見合わせると、静かに頷くのだった。