12:幽霊船
無理矢理悪霊に変えられた魂は現世に縛られ、苦しみながら生者を襲おうとする。
そうして新たに死者が悪霊となり、無限に渦巻く負の感情。このままいけば幽霊船は悪魔にとって極上の糧を生み続ける餌場となってしまうのだ。
『死者の眠りは安らかなものであるべきだ。それをこのような悪趣味な……今すぐにでも悪魔を消し去ってやりたいが、精霊というものは基本的に己の意思では力を直接行使できぬのだ』
魔法は精霊に力を借り、術者が形づくって初めて効力を発揮するもので、力の源である精霊自身が好き勝手に発動することはできない。
この精霊はどれだけ歯痒い思いをしてきたのか、顔と呼べるものがない以上、読み取れるとしたら仕草と声音くらいだろうが……
『コクヨウ……おぬし、この幽霊船がこれ以上自由に動き回らぬようにしておったじゃろ』
「えっ、でもそれって……」
光精霊が盛大な溜め息を吐き出す。
基本的に、という文言を付け加えられた例外がもたらすものは、苦しげに明滅するコクヨウの身が示していた。
『う、ぐ……』
「だっ、大丈夫か!?」
『やれやれ、ムチャしおって……見ての通り、力を使い果たしかけとる。種子の力を分け与えて少し休ませてやってくれんか?』
フォンドとモーアンは言われるまま、種子の力を闇精霊に注ぐ。
静かで清らかな輝きを受けた精霊は、しばらくするとまだ弱々しいながらも再び姿がはっきりしだした。
『うう、すまない。言われた通り休ませてもらうが……幽霊船が戒めを解かれた以上、時間がない』
「わかってるって。大元の悪魔をぶっ飛ばせばいいんだろ?」
『頼む……甲板に上がってくれ。悪魔は、そこに……』
ぷつり。闇精霊が姿を消すと同時に何か張り詰めていた糸が切れるような感覚がした。
次の瞬間、頭上で船全体に響くような雄叫びがフォンドたちの耳と頭を叩く。
「今の声は……!」
「例の悪魔か。甲板に急ごう!」
二人は船長室を飛び出し、階段を駆け上がる。
いつの間にか外も日が暮れていて、暗雲が更に空を暗くしていた。
甲板に出た二人に気づいたエイミたちが、客船から身を乗り出す。
「ど、どうしたんですか!?」
「わりぃ、もう少しそこでみんなを守っててくれ! オバケの親玉が現れた!」
客船はしっかりと結界に覆われているようで、薄く白い光の膜が悪霊を弾いているのが見え、モーアンが胸を撫で下ろした。
「よかった、あっちは大丈夫そうだ。僕たちは目の前の敵に集中しないとね」
「おう!」
甲板の中心で杖と拳をそれぞれ構え、周囲を警戒しながら見回す。
すると辺りを漂う人魂のような火がぽつりぽつりと集まりだした。
『鬱陶しい精霊め……このオレサマのカラダを散り散りにして封印するとはな。だがようやく力尽きてくれたようだ』
船内のあちらこちらに見えていた火の玉は、どうやらこの悪魔を形づくるものだったようだ。
徐々に明らかになっていく姿に、ふたりが息を呑む。
体のサイズは大きめのぬいぐるみ程度。頭に小さな角を、背には翼を生やし、見る者が見れば愛らしいかもしれない、まさに小悪魔といった見た目だが……
「気をつけて。見た目はあれでも、残虐な仕打ちをしていた悪魔なんだからね」
「ああ、わかってるよ!」
悪霊を生み出し、客船を狙う狡猾な悪魔だ。見た目に騙される訳にはいかない。
新たな獲物を見つけた悪魔が赤々とした口に白い牙を光らせ、ニタリと笑った。
そうして新たに死者が悪霊となり、無限に渦巻く負の感情。このままいけば幽霊船は悪魔にとって極上の糧を生み続ける餌場となってしまうのだ。
『死者の眠りは安らかなものであるべきだ。それをこのような悪趣味な……今すぐにでも悪魔を消し去ってやりたいが、精霊というものは基本的に己の意思では力を直接行使できぬのだ』
魔法は精霊に力を借り、術者が形づくって初めて効力を発揮するもので、力の源である精霊自身が好き勝手に発動することはできない。
この精霊はどれだけ歯痒い思いをしてきたのか、顔と呼べるものがない以上、読み取れるとしたら仕草と声音くらいだろうが……
『コクヨウ……おぬし、この幽霊船がこれ以上自由に動き回らぬようにしておったじゃろ』
「えっ、でもそれって……」
光精霊が盛大な溜め息を吐き出す。
基本的に、という文言を付け加えられた例外がもたらすものは、苦しげに明滅するコクヨウの身が示していた。
『う、ぐ……』
「だっ、大丈夫か!?」
『やれやれ、ムチャしおって……見ての通り、力を使い果たしかけとる。種子の力を分け与えて少し休ませてやってくれんか?』
フォンドとモーアンは言われるまま、種子の力を闇精霊に注ぐ。
静かで清らかな輝きを受けた精霊は、しばらくするとまだ弱々しいながらも再び姿がはっきりしだした。
『うう、すまない。言われた通り休ませてもらうが……幽霊船が戒めを解かれた以上、時間がない』
「わかってるって。大元の悪魔をぶっ飛ばせばいいんだろ?」
『頼む……甲板に上がってくれ。悪魔は、そこに……』
ぷつり。闇精霊が姿を消すと同時に何か張り詰めていた糸が切れるような感覚がした。
次の瞬間、頭上で船全体に響くような雄叫びがフォンドたちの耳と頭を叩く。
「今の声は……!」
「例の悪魔か。甲板に急ごう!」
二人は船長室を飛び出し、階段を駆け上がる。
いつの間にか外も日が暮れていて、暗雲が更に空を暗くしていた。
甲板に出た二人に気づいたエイミたちが、客船から身を乗り出す。
「ど、どうしたんですか!?」
「わりぃ、もう少しそこでみんなを守っててくれ! オバケの親玉が現れた!」
客船はしっかりと結界に覆われているようで、薄く白い光の膜が悪霊を弾いているのが見え、モーアンが胸を撫で下ろした。
「よかった、あっちは大丈夫そうだ。僕たちは目の前の敵に集中しないとね」
「おう!」
甲板の中心で杖と拳をそれぞれ構え、周囲を警戒しながら見回す。
すると辺りを漂う人魂のような火がぽつりぽつりと集まりだした。
『鬱陶しい精霊め……このオレサマのカラダを散り散りにして封印するとはな。だがようやく力尽きてくれたようだ』
船内のあちらこちらに見えていた火の玉は、どうやらこの悪魔を形づくるものだったようだ。
徐々に明らかになっていく姿に、ふたりが息を呑む。
体のサイズは大きめのぬいぐるみ程度。頭に小さな角を、背には翼を生やし、見る者が見れば愛らしいかもしれない、まさに小悪魔といった見た目だが……
「気をつけて。見た目はあれでも、残虐な仕打ちをしていた悪魔なんだからね」
「ああ、わかってるよ!」
悪霊を生み出し、客船を狙う狡猾な悪魔だ。見た目に騙される訳にはいかない。
新たな獲物を見つけた悪魔が赤々とした口に白い牙を光らせ、ニタリと笑った。