12:幽霊船

 南大陸から西大陸へ、エイミたちを乗せた定期船の前に現れたのは不気味な雲と船の残骸。
 コントロールがきかなくなった客船は残骸に横づけされ、舵が動かなければ乗員もお手上げ状態だ。

『困ったわねぇ。エイミだけなら乗せて飛べなくもないけど……』
「残された人たちを放っておけないわ」
『だと思った。そりゃあ私だって嫌よ』

 周囲を見回すと、宙をふよふよと漂う悪霊系の――現世を彷徨う魂が変異して生まれるという魔物が、乗客たちを仲間に引き入れようと窺っている。

「なんとかここを離れないと、オレたちもあいつらの仲間入りだぜ」
「とはいえ、どうすれば……脱出用の小舟もあるみたいだけど、まだ陸は遠いし危険過ぎる」
『ワシが力を貸そう』

 動かない船を囲む悪霊たち。不安を募らせる乗客。途方に暮れる一行の前に、光精霊が姿を現した。

「ディアマントさん、何か手があるんですか?」
『まず、この状況じゃが……闇の精霊が絡んでいる可能性が高い。僅かじゃがあの船の中に気配を感じるぞ』
「精霊が……けど、ここを離れる訳には……」

 精霊が近くにいるというのは本来なら喜ばしい情報だが、今は手放しでは喜べない。
 見たところ乗客に戦える者はほとんど見当たらず、エイミたちが離れればすぐに悪霊の餌食となるのが目に見えているからだ。

『この場は闇の属性に満ちておる。あの悪霊どもも同様にな。じゃから、ワシが光の結界を張ってこの船を守ろう。光と闇は相反する属性。悪霊も迂闊には近寄れんて』
「そんなことができるのか?」

 フォンドの疑問を受け、モーアンが口許に手を置いて考え込む。

「確か……街や要所にある女神像ほどじゃないけど、船にも結界は張られているんだよね?」
『船首に飾られとる石じゃろう? アレは簡易的なものじゃ。これだけの悪霊に晒され続けたらいつかは破られる』

 ディアマントの声は、どうやらエイミたち以外には聴こえていないらしい。そうでなければ船内は不安に駆られパニックに陥っていただろう。

『おぬしらが“聖なる種子”とワシの力を使って結界を強化する。乗客の安全を確保した上で、あの船の探索をすれば良いじゃろう』
『それなら何とかなりそうね』

 ああ、と言いかけて、いや、と留まったのはモーアンだった。

「万が一を考えて、誰か一人ここに残った方がいいんじゃないかな? 戦力を分断することになるけど……結界を維持する意味でもさ」
「そうだな。何が起こるかわからないもんなぁ」

 光の結界がそう簡単に破られるとは考えにくいが、もしもそんなことがあれば無防備な一般人はひとたまりもない。
 それぞれの能力や特性を鑑みれば、三人のうち一人が残ればそれなりに対処ができそうだが……

「それでしたら、わたしが残ります」
「エイミが?」
「わたしたちは飛べますし、咄嗟の対応もしやすいでしょうから」

 エイミがそう申し出ると、ミューも『まかせなさい!』と、人間で言うところの胸を叩くような動作で尻尾を振り上げた。
1/4ページ
スキ