11:陸から海へ
魔鉱石の洞窟の奥で地の精霊ガネットと契約を結び、魔界の魔物を召喚していた扉を閉じることに成功した一行。
途中で助けたディグ村の住民から貰った“帰還のカギ縄”で一気に戻ってきたのは、坑道の入口。村は目と鼻の先であった。
「ホントに一瞬で帰ってこられたな。魔物にも遭遇しなかったし」
ガネットとディアマントが言うには、帰還のカギ縄は複数の魔法がかけられた貴重なアイテムらしい。
風魔法が主で、空気の流れを読み、通路と魔物の気配を察知、そして使用者を運ぶ。加えて光魔法で姿を隠し、移動距離に応じて土と木の魔法でロープを継ぎ足すのだとか。
そうして安全に移動できるため、非戦闘員であるディグ村の人々が魔鉱石を採掘するのに欠かせない道具だそうだ。
「うぅ、僕ちょっと酔ったかも……」
「だ、大丈夫ですか? ディグ村で少し休みましょう」
便利さの塊のようなアイテムの欠点をひとつ挙げるとすれば、その移動方法による独特な感覚が最初は苦痛に感じる者もいるということ。
そうでなくても魔物を倒しながら長い坑道を歩き、奥で大きな戦いを終えたばかりだ。
宿屋はあるだろうかと村を覗いてみると、エイミたちに気づいた住民のひとりが慌てて駆け寄ってきた。
「あ、あんたら、無事だったド!?」
「あなたはさっきの……!」
立派な兜と髭の、小柄だが筋肉質な者たちは似たりよったりな容姿をしているが、少しずつ違う髭と兜の特徴から坑道の途中で助けたひとりだとモーアンが記憶していた。
「聞いたド! ドッテンとガッテンを助けてくれたらしいド!」
「魔物退治までしてくれて、村の恩人だド! いつでも歓迎するドよ!」
「は、はあ……」
そうこうしているうちにまたもや囲まれ、視界が髭だらけになる。
どの髭がそのドッテンやガッテンなのか……そんな疑問をミューがそっと飲み込んだ。
「それじゃあさっそく、宿屋はあるかな? ひと晩休みたいんだけど」
「おう、宿屋はねえがあんたらは村の恩人だぁ。空き部屋を使ってくれド。ふっかふかのわらベッドを用意するド!」
それを聞いて、特にモーアンがきらきらと目を輝かせる。
「ふかふかのわらベッド……子供の頃絵本で読んで憧れたなぁ」
『そーゆーモンなの?』
「オレはたまにやってたな。その辺に積んである干し草で」
そうこうするうちに「用意できたド!」と声がかかり、宿泊所に案内される。
ディグ村は洞窟の中にできた大きな空洞で、いくつか開いた穴が居住区や店の入口らしい。
干し草のベッドもそうだが、この秘密基地っぽさがなんとも冒険心をくすぐるのだ。
「こんなことを言っている場合ではないかもしれませんが……なんだか、ちょっとわくわくしますね」
「そっか。オレもだ」
『いいんじゃねえのか? 世界の危機だからって、ずっと湿っぽくしてたらカビが生えちまうぜ』
口調こそばっさりしているが、女神との繋がり深い精霊に肯定され、エイミたちの心がほんの僅か軽くなる。
楽しんでばかりはいられない。けれども、前に進むなら沈んでばかりもいられないのだ、と。
『いきなりとんでもねえ事件に巻き込まれちまった若モンに、何の楽しみもなきゃやってられねえよ』
『そーじゃそーじゃ!』
ガネットはちらりとエイミたちを見、その胸に宿した“聖なる種子”の存在に目を細める。
長い時を生きる精霊からすれば年端もいかないような若者たちに託されたものは、果てしなく重い。
途中で助けたディグ村の住民から貰った“帰還のカギ縄”で一気に戻ってきたのは、坑道の入口。村は目と鼻の先であった。
「ホントに一瞬で帰ってこられたな。魔物にも遭遇しなかったし」
ガネットとディアマントが言うには、帰還のカギ縄は複数の魔法がかけられた貴重なアイテムらしい。
風魔法が主で、空気の流れを読み、通路と魔物の気配を察知、そして使用者を運ぶ。加えて光魔法で姿を隠し、移動距離に応じて土と木の魔法でロープを継ぎ足すのだとか。
そうして安全に移動できるため、非戦闘員であるディグ村の人々が魔鉱石を採掘するのに欠かせない道具だそうだ。
「うぅ、僕ちょっと酔ったかも……」
「だ、大丈夫ですか? ディグ村で少し休みましょう」
便利さの塊のようなアイテムの欠点をひとつ挙げるとすれば、その移動方法による独特な感覚が最初は苦痛に感じる者もいるということ。
そうでなくても魔物を倒しながら長い坑道を歩き、奥で大きな戦いを終えたばかりだ。
宿屋はあるだろうかと村を覗いてみると、エイミたちに気づいた住民のひとりが慌てて駆け寄ってきた。
「あ、あんたら、無事だったド!?」
「あなたはさっきの……!」
立派な兜と髭の、小柄だが筋肉質な者たちは似たりよったりな容姿をしているが、少しずつ違う髭と兜の特徴から坑道の途中で助けたひとりだとモーアンが記憶していた。
「聞いたド! ドッテンとガッテンを助けてくれたらしいド!」
「魔物退治までしてくれて、村の恩人だド! いつでも歓迎するドよ!」
「は、はあ……」
そうこうしているうちにまたもや囲まれ、視界が髭だらけになる。
どの髭がそのドッテンやガッテンなのか……そんな疑問をミューがそっと飲み込んだ。
「それじゃあさっそく、宿屋はあるかな? ひと晩休みたいんだけど」
「おう、宿屋はねえがあんたらは村の恩人だぁ。空き部屋を使ってくれド。ふっかふかのわらベッドを用意するド!」
それを聞いて、特にモーアンがきらきらと目を輝かせる。
「ふかふかのわらベッド……子供の頃絵本で読んで憧れたなぁ」
『そーゆーモンなの?』
「オレはたまにやってたな。その辺に積んである干し草で」
そうこうするうちに「用意できたド!」と声がかかり、宿泊所に案内される。
ディグ村は洞窟の中にできた大きな空洞で、いくつか開いた穴が居住区や店の入口らしい。
干し草のベッドもそうだが、この秘密基地っぽさがなんとも冒険心をくすぐるのだ。
「こんなことを言っている場合ではないかもしれませんが……なんだか、ちょっとわくわくしますね」
「そっか。オレもだ」
『いいんじゃねえのか? 世界の危機だからって、ずっと湿っぽくしてたらカビが生えちまうぜ』
口調こそばっさりしているが、女神との繋がり深い精霊に肯定され、エイミたちの心がほんの僅か軽くなる。
楽しんでばかりはいられない。けれども、前に進むなら沈んでばかりもいられないのだ、と。
『いきなりとんでもねえ事件に巻き込まれちまった若モンに、何の楽しみもなきゃやってられねえよ』
『そーじゃそーじゃ!』
ガネットはちらりとエイミたちを見、その胸に宿した“聖なる種子”の存在に目を細める。
長い時を生きる精霊からすれば年端もいかないような若者たちに託されたものは、果てしなく重い。