10:力の目覚め

 魔物を倒した一行の前に現れたのは、緑色の三角帽子を被り、もさもさのヒゲを立派に生やした小人。顔立ちは人間と呼ぶにはシンプルで、どちらかといえばぬいぐるみのそれに近い。
 どうやら探していた地の精霊そのものらしいが、彼の姿を見たエイミの第一声は控えめで思わずこぼれてしまったような「か、可愛い……!」だった。

『地の精霊ガネットたぁ俺のことでい』
「い、意外な反応……」

 モーアンはそんなエイミに驚きを隠せず、

『おめぇら何の用……なんて、野暮なこたぁ言わねえ』
「えっ、エイミはこういうのが好きなのか?」

 フォンドがそう尋ねると、我に返った少女の赤面が返ってきた。

『世界で起きた異変とおめぇらの中のレレニティアの力を見りゃあ……』
『ワシだってかわいいもーん!』
『……って聞けぇ!』

 そしてディアマントが対抗心を燃やしたところで、とうとう堪え切れずにガネットが叫ぶ。

「あっ、ご、ごめんなさい!」
『ったく、ぽわぽわした嬢ちゃんだな……話戻すぞ』

 見た目の通りふわふわした喋り方のディアマントと違い、ガネットはパキパキしているようだ。
 ごほんと咳払いでひと区切りして、横道に逸れた話を引き戻した。

『ここは人魔封断の時代に“災禍”が出現した場所……異界との繋がりやすさを利用して、魔界の扉を開かれちまったようだ』
「その災禍が現れた場所というのは各地にあるのですか?」

 エイミが問いかけると地精霊は『おう』と応え、豊かにたくわえたヒゲをいじりだす。

『だいたいは精霊の住処になるような場所や、あまり人間が近づかねえような場所……封印を兼ねて、災禍が出現した場所に建てた国なんてのもある』

 グリングランが過去にも魔界からの襲撃を受けたのは、災禍が現れた場所と近いからなのだろうか。
 その考えに至ったフォンドの表情がぐっと険しくなる。

「……今は、この扉を閉じることだ」
「はい」

 低く、震えを抑えた青年の声に何かを感じ取ったのか、エイミは小さく頷くと改めてガネットに向き直る。

「ガネットさん、お願いします!」
『おうよ!』

 と、言ってはみたものの……

「…………」
『ん、どうした?』

 真剣な表情でガネットを見つめたまま固まっているエイミに、ガネットが首を傾げる。

「契約ってどうすればいいのでしょうか……?」
『はぁ? だっておめぇらもうディアマントと……』
『あのおじいちゃんなら“黙って・勝手に・いつの間にか”契約してたみたいで、よくわかんなかったのよ』
『はぁあ!?』

 光の精霊とはとても思えないような、強引で詐欺まがいの契約。
 ミューの説明に、ガネットは今日一番の素っ頓狂な声を響かせた。

『確かに正式な畏まった儀式なんざねぇが、あんまりじゃねえか……?』
『堅苦しいのはニガテなんじゃよー』
『おめぇなぁ……』

 ガネットにじとりと睨まれても気にする様子もないディアマント。飲み友達だというが、なんとなく彼らの普段の様子が見えてくるようである。

「仲がいいんだなぁ」
『そ、そうなのかしら……?』

 こうして一行は地の精霊ガネットとの契約も済ませ、魔界の扉を閉じることができたのであった。
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