10:力の目覚め

「空中の敵を魔法で撃ち落とし、周りに一気にダメージを与える……なかなかやるね……」
「モーアンさんはエイミに回復魔法を!」
「ああ。悪いけど時間を稼いでくれ!」

 手痛い一撃は食らったが、相手が回復したわけではない。もうひと押しだろう。
 言われるまでもなく地面を蹴って魔物に接近するフォンド。

(もっと力があれば……!)

 まだ起き上がらないエイミをちらりと見遣り、フォンドが歯を食いしばる。
 モーアンの魔法は強力だが、詠唱の時間を稼ぐためには前衛が魔物の攻撃を引き受ける必要がある。

(もし今オレが倒れたら、二人は……)

 力が欲しい。けれども相手を打ち倒す力だけを求めては、仲間を、大切な人の命を取りこぼすこともある。

「この手で守り抜くためには、オレ自身が倒れる訳にはいかねぇんだ!」
『それがおぬしが欲する“力”じゃな』

 フォンドの脳内に、光精霊の声が響いた。
 自然と出てきた言葉を口にすると、白く淡い、優しい光が青年の全身を薄く覆う。

「これは……」
「フォンドの、魔法……?」

 光を纏ったフォンドの手足から、少しずつ傷が消えていく。ダメージを負って鈍ったはずの体が軽くなり、動きにキレが戻ってきた。
 モーアンの回復魔法のような即効性はないが、光がすぐに消えないところを見ると、弱い効力で持続性のあるものらしい。

「痛みが消えていく……力が湧いてくるぜ!」

 苦し紛れの魔物の爪がフォンドの上腕を掠めるが、魔法によってその傷はほどなくして消えた。
 フォンドは上体を捻ると両腕で魔物の腕を掴み、そのまま豪快に投げ飛ばす。

「うおりゃあぁぁぁっ!」

 背中を思いっきり地面に叩きつけられた魔物の四肢が、反動で大きく上がり、力なくぱたりと落ちる。
 やがて動かなくなった魔物の体が、端からゆっくり形を失い、消滅していく。
 しん、と静まり返った大空洞で、フォンドとモーアン、それに起き上がったエイミとミューが顔を見合わせた。

「た、倒した……」
「エイミは!?」
「な、なんとか大丈夫です……」
『やるじゃない、アンタ……』

 一番重傷だったエイミの無事を確認し、ほっと息を吐き出すフォンド。
 だが安堵の時は終わり、次の問題に目を向ける。

「さて、今度こそこの“魔界の門”を閉じねえと……またいつ魔物が出てくるかわからねえな」
「ええ。ディアマントさん、わたしたちにできるでしょうか?」

 エイミの呼びかけに応え、白い火の玉……もとい、ディアマントが揺らめきながら姿を現す。

『ふむふむ、そうじゃな……異界に繋がる門を閉じるのは、今のおぬしらの力じゃちとキツいのぅ』
「えっ、それは困るな。早くなんとかしないと……」
『おぬしら、ここに何をしに来たか忘れとらんか? その身に託された“聖なる種子”を成長させ、力を増すためには……何が必要じゃったかの?』

 港町で女神像の結界を修復する際、一足先にディアマントから受けた説明を思い出し、エイミは顔を上げた。

「精霊さんとの契約……!」
『そうじゃ。ガネットは近くにおる』

 そもそもこの魔鉱石の洞窟に入った当初の目的は、ここに地の精霊がいるというディアマントからの情報からだった。
 それが地下坑道の魔物騒ぎと村人の救出でごたついて、ついには群れのボスらしき魔物との戦闘まで……一行が混乱するのも無理はないだろう。

「近くにって、一体どこにだい?」
『それらしい姿は見えないわね』
『ガネちゃん、意外とシャイじゃからのう。おーい、ガネちゃんやーい!』

 大空洞内をあちこち飛び回りながらディアマントがそう呼びかけると、

『ガネちゃんはやめろっつったろ、この火の玉爺!』

 魔界の扉の後ろから、ぴょんと何かが飛び出した。
3/4ページ
スキ