10:力の目覚め
最深部。坑道の途中で助けた男が言っていたような、ぽかんと開いた大きな空洞が一行を迎え入れた。
なにもない大空洞の中心には、さらにひとつ、空中に真っ黒い穴――恐らくはこれが、魔物を排出していた魔界の扉だろう。
どこまでも深い闇を湛えた穴は別の角度から見ると驚くほど薄っぺらく、一方向からしか開いていないようだ。
「これを閉じれば魔物騒ぎもおさまるね」
「うまくいくでしょうか……?」
緊張を伴いながらにじり寄ろうとした瞬間、押し広げられるように穴が大きく歪み、ぎちぎち、ピシッと嫌な音を立てる。
『ちょ、ちょっと、なんかおかしいわよ!』
「ああ。イヤな気配だ……」
ミューとフォンド、野性的な勘が鋭いふたりが咄嗟に距離をとる。
歪んだ穴の端に鋭い爪が現れ、やがてずるりと現れたのは――。
全身を覆う、土にまみれた体毛。発達した筋肉質な腕に、どこを見ているかわからない目。熊かと思うサイズ感だが、よく見ればモグラに近い形の魔物らしかった。
「こいつは……明らかに他と格が違うね」
「こちらを敵と見做したようですね……どのみち、この魔物を倒さねば!」
この魔物を倒さねば、魔界の扉を閉じることはできないだろう。
と、エイミたちを敵と定めた魔物がその大きな腕を使い、転がりながら突進してきた。
「速い!」
「危ない、エイミっ!」
最初に狙われたエイミは慌てず後方に飛び、ちょうど変身して素早く接近していたミューの背に乗って攻撃をかわす。
心と心が通じ合った竜騎士とパートナーならではの、言葉なきコンビネーションだった。
「ありがとう、ミュー」
『どういたしまして。ここは充分な広さがあるわね』
「ええ。このまま上空から撹乱します! モーアンさんは後方で援護を!」
「わかった!」
地下と言えども天井が高く、ドーム状に拡がった大空洞は、多少気をつければエイミたちが飛び回っても問題ないだろう。
空中から攻撃できる利点とスピードを活かして縦横無尽に、わざと挑発するように頭の側を掠めて飛ぶと、モグラ魔物は煩わしそうに両腕を振り回す。
「おっと。オレの相手もしてくれよな!」
今度はフォンドがするりと魔物の懐に潜り込み、鋭い掌打で下から顎を突き上げた。
グォォ、と巨体がよろめくも、魔物はすぐに持ち直して攻撃に転じる。
「へっ、やるなぁ。だからこそ燃えるってもんだ!」
軽やかな動きで飛び退くと、フォンドは魔物の猛攻をいなしながら反撃を織り交ぜていく。
地上で、空中で、それぞれが魔物を引きつけてくれるから、後方のモーアンは全くのフリーだった。
(すごいな、ふたりとも。お陰で僕が呪文を唱える時間ができる)
同時にふたりにとっては、後方にモーアンがいるから多少の無茶ができるということになる。
彼らの信頼に応えるため、神官は覚えたばかりの魔法を手繰り寄せ、確認するように紡いでいく。
(ノクスが得意としていた攻撃魔法……僕も使いこなさないと!)
この平和になった時代に、攻撃魔法まで使いこなす神官はそう多くはないという。
今は行方の知れない優秀な親友の笑顔が、モーアンの脳裏をかすめた。
「聖なる光よ、裁きに集え!」
モーアンの声に示し合わせたかのように、ふたりがパッと魔物から離れ、その瞬間に光魔法が炸裂する。
光に焼かれた魔物が苦しげな声をあげ、大きく仰け反った。
「よっしゃ、効いてる!」
だがフォンドが勝利の予感に拳を握ったのも束の間、魔物はひときわ大きな雄叫びと共に激しく何度も地面を叩いた。
「なっ……岩が!?」
『マズいわよ、これ!』
天井辺りに小さな砂粒が集まって岩が生まれ、いくつもの大岩が雨となって降り注ぐ。
「きゃああっ!」
「エイミ!」
うまく躱そうにも数が多すぎて、とうとうそのうちのひとつがエイミに直撃し、ミューごと地面へ墜落してしまう。
「うぅ……」
息はあるもののすぐに動くことは難しく、変身が解けたミューと横たわるエイミ。他のふたりも手傷を負って、膝をついている。
岩の雨が止んだ時、彼らの優勢はすっかり覆されてしまっていた。
なにもない大空洞の中心には、さらにひとつ、空中に真っ黒い穴――恐らくはこれが、魔物を排出していた魔界の扉だろう。
どこまでも深い闇を湛えた穴は別の角度から見ると驚くほど薄っぺらく、一方向からしか開いていないようだ。
「これを閉じれば魔物騒ぎもおさまるね」
「うまくいくでしょうか……?」
緊張を伴いながらにじり寄ろうとした瞬間、押し広げられるように穴が大きく歪み、ぎちぎち、ピシッと嫌な音を立てる。
『ちょ、ちょっと、なんかおかしいわよ!』
「ああ。イヤな気配だ……」
ミューとフォンド、野性的な勘が鋭いふたりが咄嗟に距離をとる。
歪んだ穴の端に鋭い爪が現れ、やがてずるりと現れたのは――。
全身を覆う、土にまみれた体毛。発達した筋肉質な腕に、どこを見ているかわからない目。熊かと思うサイズ感だが、よく見ればモグラに近い形の魔物らしかった。
「こいつは……明らかに他と格が違うね」
「こちらを敵と見做したようですね……どのみち、この魔物を倒さねば!」
この魔物を倒さねば、魔界の扉を閉じることはできないだろう。
と、エイミたちを敵と定めた魔物がその大きな腕を使い、転がりながら突進してきた。
「速い!」
「危ない、エイミっ!」
最初に狙われたエイミは慌てず後方に飛び、ちょうど変身して素早く接近していたミューの背に乗って攻撃をかわす。
心と心が通じ合った竜騎士とパートナーならではの、言葉なきコンビネーションだった。
「ありがとう、ミュー」
『どういたしまして。ここは充分な広さがあるわね』
「ええ。このまま上空から撹乱します! モーアンさんは後方で援護を!」
「わかった!」
地下と言えども天井が高く、ドーム状に拡がった大空洞は、多少気をつければエイミたちが飛び回っても問題ないだろう。
空中から攻撃できる利点とスピードを活かして縦横無尽に、わざと挑発するように頭の側を掠めて飛ぶと、モグラ魔物は煩わしそうに両腕を振り回す。
「おっと。オレの相手もしてくれよな!」
今度はフォンドがするりと魔物の懐に潜り込み、鋭い掌打で下から顎を突き上げた。
グォォ、と巨体がよろめくも、魔物はすぐに持ち直して攻撃に転じる。
「へっ、やるなぁ。だからこそ燃えるってもんだ!」
軽やかな動きで飛び退くと、フォンドは魔物の猛攻をいなしながら反撃を織り交ぜていく。
地上で、空中で、それぞれが魔物を引きつけてくれるから、後方のモーアンは全くのフリーだった。
(すごいな、ふたりとも。お陰で僕が呪文を唱える時間ができる)
同時にふたりにとっては、後方にモーアンがいるから多少の無茶ができるということになる。
彼らの信頼に応えるため、神官は覚えたばかりの魔法を手繰り寄せ、確認するように紡いでいく。
(ノクスが得意としていた攻撃魔法……僕も使いこなさないと!)
この平和になった時代に、攻撃魔法まで使いこなす神官はそう多くはないという。
今は行方の知れない優秀な親友の笑顔が、モーアンの脳裏をかすめた。
「聖なる光よ、裁きに集え!」
モーアンの声に示し合わせたかのように、ふたりがパッと魔物から離れ、その瞬間に光魔法が炸裂する。
光に焼かれた魔物が苦しげな声をあげ、大きく仰け反った。
「よっしゃ、効いてる!」
だがフォンドが勝利の予感に拳を握ったのも束の間、魔物はひときわ大きな雄叫びと共に激しく何度も地面を叩いた。
「なっ……岩が!?」
『マズいわよ、これ!』
天井辺りに小さな砂粒が集まって岩が生まれ、いくつもの大岩が雨となって降り注ぐ。
「きゃああっ!」
「エイミ!」
うまく躱そうにも数が多すぎて、とうとうそのうちのひとつがエイミに直撃し、ミューごと地面へ墜落してしまう。
「うぅ……」
息はあるもののすぐに動くことは難しく、変身が解けたミューと横たわるエイミ。他のふたりも手傷を負って、膝をついている。
岩の雨が止んだ時、彼らの優勢はすっかり覆されてしまっていた。