10:力の目覚め
地の精霊がいるという情報から訪れた魔鉱石の洞窟で、突然開いた魔界の扉から見たことない魔物が現れる――エイミやフォンドの故郷で起きたものとよく似た事件に遭遇した一行。
坑道を奥まで進み、逃げ遅れた人たちを助け、残るは最深部を目指すのみ。
「もし、扉がまだ開いていたら……わたしたちの力でどうにかなるんでしょうか?」
「リプルスーズの結界は直せたんだろ? 同じように何かしらできねえかなぁ」
港町での自由行動の時間にエイミが“聖なる種子”の力を使って弱った結界の修復をしたことは、仲間たちと共有済みだ。
結界も、人間界と魔界を切り離したのも、女神レレニティアの力――であれば、そのカケラを使えばそれぞれの世界を繋ぐ扉を閉じられるのではないかという考えに至る。
「けど、フォンド。魔界に行きたかったんじゃないのかい?」
魔族から城を取り戻したいエイミとは違い、フォンドの目的は魔界に行ったという家族を追いかけることだ。
いや、と否定するフォンドの声は静かで、
「そりゃ、今すぐにでも飛び込みてえ。けど……今のオレじゃ行ったところでまだ何もできねえよ。それに、ここを放っておいたらディグ村が危険に晒されちまう」
あくまでも自分は“守る者”だから。グリングランの英雄の背を見て育った青年はそう答えた。
「フォンドは、強いんですね」
魔界の扉の話を耳にしただけで気が逸り、単独行動をとってしまった自分とは違うんだ。そんな気持ちが秘められたエイミの声音は、どことなく元気をなくしている。
「……いや。ただ、ここでがむしゃらに飛び込んだら絶対親父にぶん殴られるなって。それだけさ」
「よっぽど怖い親父さんなんだね」
「厳つい面してシイタケは食べられないけどな」
からからと笑うと「エイミ」と呼んだ紺桔梗の瞳が天色の瞳をまっすぐに見つめる。
「お前のこと、オレ、まだ全然わかってねえと思うんだ。けどな、お前は弱くなんかない。それだけはわかるぜ」
まだほんの少女なのに、そのか細い体で故郷を背負って、強大な力を持つ魔族相手に途方も無い戦いを挑もうとしている。
それがどれだけの重圧を伴うか……フォンドには想像もつかないことだった。
「フォンド……」
と、見つめ合い、エイミが半歩進み出たところに素早くミューが割って入り、べちーんといい音をさせてフォンドの頬を引っ叩いた。
「いってえ!」
「えっ、ミュー!?」
『チョーシに乗っていいフンイキ出してんじゃないわよ!』
今にも噛みつきそうな形相で、尻尾でシッシッと追い払うミューの気迫に負け、フォンドは赤くなった頬を押さえながら涙目で後ずさる。
「モーアンさん……オレ、なんかした?」
「いやぁ、その、えーと……困っちゃうなぁ……」
修行に明け暮れるばかりの若者は、父親がわりの英雄にも色恋について教わる機会がなかったようだ。
けれども竜騎士の少女もぽかんと驚き呆けた表情を見るにどうやら同類らしく、どうしたものかと神官は引きつり笑いの頬を掻いた。
坑道を奥まで進み、逃げ遅れた人たちを助け、残るは最深部を目指すのみ。
「もし、扉がまだ開いていたら……わたしたちの力でどうにかなるんでしょうか?」
「リプルスーズの結界は直せたんだろ? 同じように何かしらできねえかなぁ」
港町での自由行動の時間にエイミが“聖なる種子”の力を使って弱った結界の修復をしたことは、仲間たちと共有済みだ。
結界も、人間界と魔界を切り離したのも、女神レレニティアの力――であれば、そのカケラを使えばそれぞれの世界を繋ぐ扉を閉じられるのではないかという考えに至る。
「けど、フォンド。魔界に行きたかったんじゃないのかい?」
魔族から城を取り戻したいエイミとは違い、フォンドの目的は魔界に行ったという家族を追いかけることだ。
いや、と否定するフォンドの声は静かで、
「そりゃ、今すぐにでも飛び込みてえ。けど……今のオレじゃ行ったところでまだ何もできねえよ。それに、ここを放っておいたらディグ村が危険に晒されちまう」
あくまでも自分は“守る者”だから。グリングランの英雄の背を見て育った青年はそう答えた。
「フォンドは、強いんですね」
魔界の扉の話を耳にしただけで気が逸り、単独行動をとってしまった自分とは違うんだ。そんな気持ちが秘められたエイミの声音は、どことなく元気をなくしている。
「……いや。ただ、ここでがむしゃらに飛び込んだら絶対親父にぶん殴られるなって。それだけさ」
「よっぽど怖い親父さんなんだね」
「厳つい面してシイタケは食べられないけどな」
からからと笑うと「エイミ」と呼んだ紺桔梗の瞳が天色の瞳をまっすぐに見つめる。
「お前のこと、オレ、まだ全然わかってねえと思うんだ。けどな、お前は弱くなんかない。それだけはわかるぜ」
まだほんの少女なのに、そのか細い体で故郷を背負って、強大な力を持つ魔族相手に途方も無い戦いを挑もうとしている。
それがどれだけの重圧を伴うか……フォンドには想像もつかないことだった。
「フォンド……」
と、見つめ合い、エイミが半歩進み出たところに素早くミューが割って入り、べちーんといい音をさせてフォンドの頬を引っ叩いた。
「いってえ!」
「えっ、ミュー!?」
『チョーシに乗っていいフンイキ出してんじゃないわよ!』
今にも噛みつきそうな形相で、尻尾でシッシッと追い払うミューの気迫に負け、フォンドは赤くなった頬を押さえながら涙目で後ずさる。
「モーアンさん……オレ、なんかした?」
「いやぁ、その、えーと……困っちゃうなぁ……」
修行に明け暮れるばかりの若者は、父親がわりの英雄にも色恋について教わる機会がなかったようだ。
けれども竜騎士の少女もぽかんと驚き呆けた表情を見るにどうやら同類らしく、どうしたものかと神官は引きつり笑いの頬を掻いた。