9:坑道をゆく
『ふぅむ、この坑道の奥地に魔界の扉、か……』
かなり奥まで来たところで、ふいに光精霊の声がして、一行は顔を見合わせた。
暗い坑道内で現れた白い火の玉は、辺りをぼうっと照らしている。
『急にどうしたのよ?』
『いやぁ、魔界の扉が開いたのは、他にも何箇所かあったじゃろ?』
「確かドラゴニカとグリングランって話だね」
モーアンの言葉に、当事者であるエイミとフォンドが頷く。
ディアマントは小さく唸ってじっと天井を見つめた。
『なーんか共通点があったよーな気がするんじゃがな……』
「え、それってめちゃめちゃ大事なことじゃねえか!」
『そう思うんじゃが、いかんせん千年前……そうじゃ、千年前のことじゃったな』
人間のように手があれば顎に手をあてていそうなディアマントは、しばらく考え込むと『あ!』と声を発する。
『そうじゃ、思い出したぞ! どの場所も千年前に“災禍”が暴れ回り、女神様が封じた場所と近いんじゃ!』
「サイ、カ……?」
「大昔にこの世界を危機に陥れた、ものすごく強大な魔物らしいよ」
風の災禍、地の災禍、水の災禍。他にもあわせて全部で八体いるというそれは各地に現れて死と恐怖を蒔き散らし、やがて現れた女神レレニティアによって倒され、封じられたという。
マギカルーンの書庫で見つけた本に書いてあったよ、とモーアンが説明した。
「その災禍と魔界には何か関係が?」
「そこまではわからない。ただ、同じ時代に現れた脅威ではあるね」
「三つの脅威に災禍……大変な時代だったんだな」
『ホントにまだ人間だった女神様ひとりで退けたのかしら?』
彼らが口々に呟くと、ディアマントが静かに目を伏せる。
その時であった。
「だ、誰かいるんだド……?」
おそるおそると震えた声。特徴的な語尾と状況的に取り残された残りひとりで間違いないだろう。
だが、姿が見えない。エイミたちはきょろきょろと辺りを見回す。
「ここだド」
「へっ?」
べろりと岩がめくれ、フォンドが間の抜けた声をあげる。
よく見ればめくれたのは岩ではなく、一枚の布のようだった。
『びっくりした……それも魔法道具ってヤツね?』
「これは“幻惑の衣”……光の魔法で幻を見せる布だド。それより、助けに来てくれたんだド?」
『ええ。アナタの仲間に頼まれてね』
リプルスーズの女神像を直す時にディアマントが自分たちを隠してくれたのと似たようなものだろう。そう考えながらミューは頷いた。
「おおっ、助かったド! 周りの魔物も倒してくれたみてえだし、これで帰還のカギ縄で帰れるド! おめえらも一緒に帰るド? 六、七人くらいならこれ一本で……」
いそいそと胴にロープを巻きつけながら男が尋ねるが、エイミたちは首を横に振った。
「わたしたちはまだ進んで、魔物が出てきた穴の周辺を調べるつもりです」
「まだ湧いてくるようなら安心できねえからな」
「そっかぁ。地上の人たちなのに、オラたちのためにすまねぇド……」
じゃあ、せめて……そう言って、男は布の袋をエイミに手渡す。
ずっしりとした重みのある袋には、縄と金属製の尖ったものが入っている感触があった。
「ほんのお礼だド。予備のカギ縄、あげるド。無事に帰ってくるんだド」
「あっ、ありがとうございます……!」
そうして残るひとりもカギ縄に引っ張られ、あっという間に帰っていった。
一行はカギ縄が入った袋を見つめ、しばし沈黙する。
「あれ、オレたちも帰りにやるんだな」
「楽しみなような、怖いような……ですね」
「ま、まあまあ。帰りは楽になったってことで、ね?」
それよりも、まずは……
進むごとに色濃くなってきた不穏な気配を前に、エイミたちは気を引き締めるのであった。
かなり奥まで来たところで、ふいに光精霊の声がして、一行は顔を見合わせた。
暗い坑道内で現れた白い火の玉は、辺りをぼうっと照らしている。
『急にどうしたのよ?』
『いやぁ、魔界の扉が開いたのは、他にも何箇所かあったじゃろ?』
「確かドラゴニカとグリングランって話だね」
モーアンの言葉に、当事者であるエイミとフォンドが頷く。
ディアマントは小さく唸ってじっと天井を見つめた。
『なーんか共通点があったよーな気がするんじゃがな……』
「え、それってめちゃめちゃ大事なことじゃねえか!」
『そう思うんじゃが、いかんせん千年前……そうじゃ、千年前のことじゃったな』
人間のように手があれば顎に手をあてていそうなディアマントは、しばらく考え込むと『あ!』と声を発する。
『そうじゃ、思い出したぞ! どの場所も千年前に“災禍”が暴れ回り、女神様が封じた場所と近いんじゃ!』
「サイ、カ……?」
「大昔にこの世界を危機に陥れた、ものすごく強大な魔物らしいよ」
風の災禍、地の災禍、水の災禍。他にもあわせて全部で八体いるというそれは各地に現れて死と恐怖を蒔き散らし、やがて現れた女神レレニティアによって倒され、封じられたという。
マギカルーンの書庫で見つけた本に書いてあったよ、とモーアンが説明した。
「その災禍と魔界には何か関係が?」
「そこまではわからない。ただ、同じ時代に現れた脅威ではあるね」
「三つの脅威に災禍……大変な時代だったんだな」
『ホントにまだ人間だった女神様ひとりで退けたのかしら?』
彼らが口々に呟くと、ディアマントが静かに目を伏せる。
その時であった。
「だ、誰かいるんだド……?」
おそるおそると震えた声。特徴的な語尾と状況的に取り残された残りひとりで間違いないだろう。
だが、姿が見えない。エイミたちはきょろきょろと辺りを見回す。
「ここだド」
「へっ?」
べろりと岩がめくれ、フォンドが間の抜けた声をあげる。
よく見ればめくれたのは岩ではなく、一枚の布のようだった。
『びっくりした……それも魔法道具ってヤツね?』
「これは“幻惑の衣”……光の魔法で幻を見せる布だド。それより、助けに来てくれたんだド?」
『ええ。アナタの仲間に頼まれてね』
リプルスーズの女神像を直す時にディアマントが自分たちを隠してくれたのと似たようなものだろう。そう考えながらミューは頷いた。
「おおっ、助かったド! 周りの魔物も倒してくれたみてえだし、これで帰還のカギ縄で帰れるド! おめえらも一緒に帰るド? 六、七人くらいならこれ一本で……」
いそいそと胴にロープを巻きつけながら男が尋ねるが、エイミたちは首を横に振った。
「わたしたちはまだ進んで、魔物が出てきた穴の周辺を調べるつもりです」
「まだ湧いてくるようなら安心できねえからな」
「そっかぁ。地上の人たちなのに、オラたちのためにすまねぇド……」
じゃあ、せめて……そう言って、男は布の袋をエイミに手渡す。
ずっしりとした重みのある袋には、縄と金属製の尖ったものが入っている感触があった。
「ほんのお礼だド。予備のカギ縄、あげるド。無事に帰ってくるんだド」
「あっ、ありがとうございます……!」
そうして残るひとりもカギ縄に引っ張られ、あっという間に帰っていった。
一行はカギ縄が入った袋を見つめ、しばし沈黙する。
「あれ、オレたちも帰りにやるんだな」
「楽しみなような、怖いような……ですね」
「ま、まあまあ。帰りは楽になったってことで、ね?」
それよりも、まずは……
進むごとに色濃くなってきた不穏な気配を前に、エイミたちは気を引き締めるのであった。