9:坑道をゆく
仲間と合流してからはペースを上げて探索することができた。
時折遭遇する魔物も、今度はあまり苦戦せず倒せるようになった……が、気になることがある。
「やっぱり、この辺の魔物じゃないのがちらほらいるね」
「はい。それに凶暴さも……ここの普段の魔物のことはわかりませんが、好戦的で執拗だと思います」
「それが魔界の魔物ってことなのか……こんなのがディグ村に押し寄せたら大変だな」
ディグ村の住民とはつい先程知り合ったばかりだが、あの無邪気な笑顔を思い浮かべると、彼らが傷つくところは見たくないと感じた。
『それに、取り残された人がいるんでしょ? 無事だといいけれど……』
「だいぶ奥まで来たし、そろそろ会えねえかなぁ」
照明が等間隔で続く坑道内は多少入り組んでいるが、それほど複雑ではない。
分かれ道の先もあちこち見ているが、それらしい影はまだなかった。
「とりあえず呼びかけてみるか。おーい、えーと……誰かいないかー?」
フォンドの声は薄暗い通路に響き、暗闇に吸い込まれる。しばし、全員が耳をすました。
「……れド……」
『あら?』
「助けてくれドーーーー!」
どすどす、どたどたという足音と共に現れたやはり背の低いがっしり体型の髭男。
傷だらけで涙目の彼はツルハシを片手に、命からがらここまで逃げてきたようだ。
「大丈夫ですか!?」
「今怪我を治すよ!」
「あ、あんがとだド……」
エイミとフォンドが魔物の気配に警戒しながら、モーアンが男の傷を魔法で癒す。
安全が確保されたからか、男はようやく落ち着きを取り戻した。
『逃げ遅れたのはアナタひとりかしら?』
「い、いんや、もうひとり奥に……」
スッと奥を指差した男の手が、再びぶるぶると震えだす。
「あんなの、初めてだド……急に空中にパカッと穴が開いたかと思えば、そっから見たことねえ魔物がぞろぞろと……」
「!」
間違いない。魔界の扉だ。フォンドの顔つきが一気に険しくなり、男の両肩を強く掴んだ。
「そ、そこに人間みたいなのはいなかったか!?」
「いんや、逃げるのに必死で、そこまでは……穴が開いたのは一番奥のデカい空洞だド」
取り残された人を探すのも大事だが、空間に開いた穴がもしまだそのままなら、いずれ村まで魔物が到達してしまう。
「逃げ遅れた人を探しつつ、奥を目指そう」
「はい。どちらも放っては置けませんね」
『このヒトはどうする?』
ミューがちらりと男を窺うと、彼は腰につけた布袋からフック付きのロープを取り出した。
「オラたちはこの“帰還のカギ縄”があるから、ここまで来れれば村まで帰れるド」
「帰還のカギ縄?」
「魔法がかかってるアイテムで、体に巻きつけて使えば入口まで運んでくれるんだド。もうひとりが心配だわ、やたら魔物に襲われるわで使う余裕がなかったけんど……あんたらがいるなら大丈夫だド!」
そう言う間にロープを体にしっかり巻いた男はフックをそっと掲げ、手を放す。
するとロープ全体が淡く発光しながらシュルシュルと伸び、フックのついた先端が村のある方向へとひとりでに移動していく。
「すごい……」
「それじゃ、気をつけるんだド!」
「はい。おまかせください!」
ロープから発せられる光に包まれた男の体がふわりと浮かんだかと思えば、ぐいっと一気に引っ張られる。
お礼の言葉が聴こえてきた頃には、彼の姿はすっかり見えなくなっていた。
「……便利なものがあるんだねぇ。欲しいな、あれ」
「ちょっとシュールだけどな……」
「ぐるぐる巻きで引っ張られて、苦しくならないんでしょうか……?」
ロープに巻かれて飛んでいく自分たちの姿を思い浮かべ、フォンドはなんとも引き攣った笑みを浮かべるのだった。
時折遭遇する魔物も、今度はあまり苦戦せず倒せるようになった……が、気になることがある。
「やっぱり、この辺の魔物じゃないのがちらほらいるね」
「はい。それに凶暴さも……ここの普段の魔物のことはわかりませんが、好戦的で執拗だと思います」
「それが魔界の魔物ってことなのか……こんなのがディグ村に押し寄せたら大変だな」
ディグ村の住民とはつい先程知り合ったばかりだが、あの無邪気な笑顔を思い浮かべると、彼らが傷つくところは見たくないと感じた。
『それに、取り残された人がいるんでしょ? 無事だといいけれど……』
「だいぶ奥まで来たし、そろそろ会えねえかなぁ」
照明が等間隔で続く坑道内は多少入り組んでいるが、それほど複雑ではない。
分かれ道の先もあちこち見ているが、それらしい影はまだなかった。
「とりあえず呼びかけてみるか。おーい、えーと……誰かいないかー?」
フォンドの声は薄暗い通路に響き、暗闇に吸い込まれる。しばし、全員が耳をすました。
「……れド……」
『あら?』
「助けてくれドーーーー!」
どすどす、どたどたという足音と共に現れたやはり背の低いがっしり体型の髭男。
傷だらけで涙目の彼はツルハシを片手に、命からがらここまで逃げてきたようだ。
「大丈夫ですか!?」
「今怪我を治すよ!」
「あ、あんがとだド……」
エイミとフォンドが魔物の気配に警戒しながら、モーアンが男の傷を魔法で癒す。
安全が確保されたからか、男はようやく落ち着きを取り戻した。
『逃げ遅れたのはアナタひとりかしら?』
「い、いんや、もうひとり奥に……」
スッと奥を指差した男の手が、再びぶるぶると震えだす。
「あんなの、初めてだド……急に空中にパカッと穴が開いたかと思えば、そっから見たことねえ魔物がぞろぞろと……」
「!」
間違いない。魔界の扉だ。フォンドの顔つきが一気に険しくなり、男の両肩を強く掴んだ。
「そ、そこに人間みたいなのはいなかったか!?」
「いんや、逃げるのに必死で、そこまでは……穴が開いたのは一番奥のデカい空洞だド」
取り残された人を探すのも大事だが、空間に開いた穴がもしまだそのままなら、いずれ村まで魔物が到達してしまう。
「逃げ遅れた人を探しつつ、奥を目指そう」
「はい。どちらも放っては置けませんね」
『このヒトはどうする?』
ミューがちらりと男を窺うと、彼は腰につけた布袋からフック付きのロープを取り出した。
「オラたちはこの“帰還のカギ縄”があるから、ここまで来れれば村まで帰れるド」
「帰還のカギ縄?」
「魔法がかかってるアイテムで、体に巻きつけて使えば入口まで運んでくれるんだド。もうひとりが心配だわ、やたら魔物に襲われるわで使う余裕がなかったけんど……あんたらがいるなら大丈夫だド!」
そう言う間にロープを体にしっかり巻いた男はフックをそっと掲げ、手を放す。
するとロープ全体が淡く発光しながらシュルシュルと伸び、フックのついた先端が村のある方向へとひとりでに移動していく。
「すごい……」
「それじゃ、気をつけるんだド!」
「はい。おまかせください!」
ロープから発せられる光に包まれた男の体がふわりと浮かんだかと思えば、ぐいっと一気に引っ張られる。
お礼の言葉が聴こえてきた頃には、彼の姿はすっかり見えなくなっていた。
「……便利なものがあるんだねぇ。欲しいな、あれ」
「ちょっとシュールだけどな……」
「ぐるぐる巻きで引っ張られて、苦しくならないんでしょうか……?」
ロープに巻かれて飛んでいく自分たちの姿を思い浮かべ、フォンドはなんとも引き攣った笑みを浮かべるのだった。